魔法使いと戦士

星野ねむ

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気になる言葉 ②

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こつこつと小さく音を立てながら書物庫を進む。明かりの魔法を断続的に使いながら薄暗いその中を確かな足取りで進んでいた。

赤毛の男、リェットがここに来た理由はロークについて。

何百年と生きている彼だが、流石に自分が生まれる以前のことや覚えていない年代となると書物を頼らざるを得なくなる。ロークの言っていることで引っかかったことがあったのだ。
それに、自分にはあの事件以前の記憶が無い。そもそも、このザプリェットという名前ですら自分の名前なのかわかっていないのだ。
記憶を失う前のかつての仲間は、最初の頃違う名前で自分のことをよく呼んでいたので本当はその名前なのかもしれない。それでも、この名前を手放す気にはなぜかなれなかった。

「…多分だが、俺の名前に意味があるように、あいつの名前にも意味があるはずだ。グリとグラは安直な名前で悪いがな」

ここには魔導書や封印指定されている本も一緒に並んでいるので空気も澱んでいる。今度浄化魔法を使えるやつにまた綺麗にしてもらわなければ…。自分でも使えなくはないが時間もかかるし疲れるので効率が良くない。こういうことは専門家に全て丸投げするに限る。

そう考えながら適当に古文書を選び抜く。名前の意味がわからなくとも、ロークが元々持っていた身分証明書と同じ字体の文字が見つかればいいのだ。
そこからある程度時代も推測が立つし、そっちから絞った方が言語も特定しやすい。といっても世界が違えば同じ字体だとしても意味は変わってしまうこともある。だからただの自己満足に近い。

本を取っては戻し、取っては戻し。たまに外れ魔導書を引いて大惨事を起こしかけるがそんなやつも厳重に封印し直す。この方法は緩んでいる封印をし直す意味でも役に立つと意味の無い言い訳をしながら作業を行うのだ。

そんなことをしていると、字体が同じ本が出てきた。これは筆記体をさらに崩したもので、どちらかと言うと本よりは日記に近い。
字体が崩れすぎているのと、劣化が激しいのとで内容はさっぱりわからなかったが大体の時代はそれだけで推測できた。

「この文字は確か…千年以上前のものだな。世界が闇に包まれた時代以前のものだったはずだ」

その日記を手がかりに暗黒時代と呼ばれた頃と同じ年代の本を探す。できれば筆記体でないものの方が望ましいのだが、その時代に印刷術があったのかわからない。
よって筆記体ではあるが、あまり形が崩れていないものを参考に辞書(といっても、どの字がどう読む程度しかわからない)と照らし合わせて使わなくても読めるよう全てインプットした。

日記の中身は誰かの生活を端的にメモしたようなものだったが、文体が読みにくすぎてほぼ意味がわからないところが多い。というより読み取れる部分だけ読んでも、気が触れた者が書いたように支離滅裂なのだ。
読める部分でも人間としては忌避すべき実験や売買等のことばかりなのであまり読みたくないのもある。それでも数少ない参考資料のひとつなので持っていくことにした。

「よし、あとは…」

引っ張り出してきた本を全て本棚へと戻し、目当ての辞典を探す。
どのくらいの時間がかかったかわからないが、それでもリェットはそれを見つけ出した。

「…単語帳のようなものだな」

分厚く重みのありそうな本の背表紙には「単語辞典」と要約できる文が書いてある。
それを取り出し、ひとまず書物庫から部屋へと運び込んだ。
…書物庫で不穏な気配がわだかまっていたことに気付かずに。
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