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異世界編

第16話 覚醒と戸惑い

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「んっ・・・ここ・・・は・・・」

薄暗い天井が視界に入りぼんやりした意識を覚醒させ始める。
少し寒気を感じながらも上に乗るシーツの温もりにもう少し意識を落としたいところだがお尻に感じる違和感に意識が覚醒させられる・・・

「そうか・・・あたし・・・捕まったんだ・・・」

思い出すのは延々と繰り返した魔王との死闘、そしてその配下と思われる男に捕まり犯された記憶・・・
ジュンッとアソコが熱を持ち愛液が染み出るのを感じ頬を赤くする。
勇者として魔王を倒す為人生の全てを死と引き換えにした日々、人々の為に自らが神に望み得たものであるが・・・
彼女の中で戸惑いが生まれるのも仕方が無いであろう。

苦痛と苦悶と絶望と恐怖と苦痛と失意・・・

無限に続くと思われた死の螺旋の中で自らの命を対価にすれば僅かに魔王を傷付けられる事実に気付いた勇者。
それが彼女にとって無限に続くと思われた死の螺旋を終わらせる唯一無二の方法だと彼女は理解し諦めた。
生きる事も、辛い事も、楽しい事も、怒りも、悲しみも、悩みも・・・
凡そ生きる全てを命を弾丸に魔王にたった一撃を加える事だけを生き甲斐にすればいつか魔王は倒せる。
そして、それが手に届きそうになった時にこれである。

「はははっ・・・」

自殺は駄目なのだ。自殺では生き返れない。
魔族に殺される、それが生き返る条件だと女神は言った。
だから捕まった自分にはどうする事も出来ないのが現状だ。
そしてなにより、今の彼女は知ってしまった。

アダムとイブは禁断の果実を口にした事で知恵を得て永遠を奪われた。
それと等しく、彼女は死と引き換えに魔王を倒すと言う事意外を忘れていた。
生き返って身体能力を命と引き換えに高める呪いの装備を身に着けて死にに行く・・・
それが人生の全てだった彼女は人間の三大欲求の全てを忘れ戦い続けていたのだ。
性欲どころか睡眠欲どころか食欲までも忘れ生き返って死ぬ・・・
それが彼女の全てとなり考える事も、悩む事も、全てを破棄し戦い続けていたのだ。

「くそっ・・・」

しかし、今の彼女は知ってしまった。
肉欲を、惰眠を、そして・・・
暖かいそれが吸収され全身へと広がる感覚を・・・
そう、彼女の胃の中には意識を失う直前に無理矢理飲み込まされた真央の精液が入っている。
とても食べ物とはいえない、そう彼女は考えている・・・
だからこそ、その精液から与えられている今の感覚に困惑していた。

実際に精液には50もの物質が存在する。
実はその中には人に幸福感を与える成分が含まれている事は知っているだろうか?
例えばコルチゾル、エストロン、オキシトシン、セロトニン・・・
本来であれば極少量で僅かに影響を及ぼす効果がある物であるが状況が違う。
女勇者の胃の中は完全に空、更に生き返った際に全身を巡る血液には一切栄養が付与されていない状態なのだ。
そんな状態で男の精液を飲み全身にそれが送られている彼女・・・
満腹感には程遠いからこそ必要以上に体はそれを取り入れようと動く・・・
先に上げた物質の効能、感情を高める、気分を高揚させる、抗うつ効果のある神経伝達物質・・・
それらが女勇者に与えた効能は言うまでもないだろう・・・

「くそっ・・・なんで・・・なんで・・・」

左手は自然とシーツの中で自らの愛液が溢れ出す箇所を弄り始める。
痒い所を掻く様に、痛い所を擦る様に、違和感を消す様に・・・
その刺激で止め処なく溢れ出し始める愛液・・・
手が止められない、涙が止まらない・・・
体が疼き求める、死ぬのが嫌だと、気持ち良いのが欲しいと・・・

涙が止まらない・・・
心は魔王を倒す為に死すら恐れないままなのに・・・
彼が恋しい・・・
彼が愛しい・・・
彼が・・・彼が・・・

「目が覚めたか?」
「ぴゃいっ?!」

慌てて左手が跳ね上がる。
その手がシーツを跳ね上げ下腹部を隠していたシーツが・・・

「あっ、あぁ・・・」
「ん?一体どうし・・・」
「き・・・きゃあああああああ!!!!」

蛙の様に開いた股を慌てて閉じるもムワッとシーツを避けた時に広がる女の匂い。
慌てて混乱しながらもシーツを押し戻して恥ずかしくて死にそうになる自分が分からない。
そう、自分の体の全てを見られ犯された相手に対して恥ずかしいという感情が出ているのが分からないのだ。

「あーその何だ・・・腹減っただろ?ここに置いておくから・・・」

その言葉に驚き困惑が更に広がる。
だが彼の顔が見られない、胸の高鳴りが止まらないのだ。
自身の全てを見られたとしても道端の石としか思わない筈の相手に羞恥心を感じているのだ。
そして、ドアから普通に出て行く彼の後姿・・・

「えっ・・・」

鍵を掛けた様子も無く、普通にドアを開けて出て行ったその姿に呆気にとられてしまった・・・

「閉じ込められてすら・・・いない?」

益々困惑する女勇者であったがその鼻に暖かいスープの香りが漂い我に返る。
自分は魔王を倒す為の勇者なのだと!
死んで生き返るにしても魔族に殺されなければならない、だからこそ今は・・・
そう考え女勇者は真央の置いていった食事に手を伸ばすのであった。
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