上 下
88 / 106

第87話 初めての区の移動

しおりを挟む
ナナシとルリエッタは顎骨町から西に向かった場所まで来てそれを見ていた。
まるで関所・・・
そう連想させるような門だけがそこに設置されていた。

「ここを抜けたら私たちの区、覚悟は良いですか?」

脛骨長唯一の宿屋、そこで待っていた自称エルフのソフィと合流したナナシとルリエッタ。
共に向かってくれると言うナナシに感謝しつつもその表情は少し暗かった。

「あぁ、ここまで来て引き返すってのもネタとしては面白いかもしれないけど・・・」
「フフッそんなこと言ってますけど、ナナシさんソフィさんの事心配してたんですよ」
「ちっちがっ・・・」
「それはそうと、区を移動する時のリスクが心配ですね」

ナナシの右腕を召喚した時からルリエッタはナナシの考えている事が何となく分かるようになっていた。
嵐とも念話が繋がり、二人でナナシをからかったりしているうちに主張が強くなり始めていた。
だがそれはナナシ側にもルリエッタの気持ちが通じている事の証明でもあり、ルリエッタが自分に惚れている感情を疑う余地はなく、結果尻に敷かれているに近い状態になりつつあったのだ。

「区の移動リスク・・・」

それは昨夜にソフィから聞かされた信じられない事実・・・
世界を分ける区、そこにはそれぞれ独自のルールが存在するのである。
ソフィからその話を聞いた時は流石に耳を疑ったが、ナナシの魔法の変化を本人が自覚していたからこそ納得がいったのだ。

「そう、ここを潜るとこの区のルールに縛られる・・・私が常識だと考えていたそのルールにね」

そう言ってソフィは歩を進めた。
それにナナシとルリエッタも続く・・・
門番らしきものも居らず、ただ解放されているだけの門・・・
木でも鉄でもない不思議なその門以外の場所を通り抜けようとすればペナルティが発生するという。
驚く事に、その者の今まで得た知識や経験がリセットされると言うのだ。
それはつまり、魔法やスキルが初期化されレベルが下げられるという事に他ならない。
かつての大戦で侵略を企てた部隊がこれを実証するまで無駄な犠牲が多数見受けられたという話はあまりにも有名であった。

「それじゃあ行こうか、半日は大丈夫だけど変にリスク背負う必要もないからね」

そのソフィのセリフを立証しているのが近くに転がる石化した者達であろう。
この門を潜らなければ隣の区へ移動できない、それならばこの門だけ見張れば良い。
誰にでも思い付きそうなその発想の結果がそれらの石だ。
この門を見てから半日以内に潜るか遠くまで離れなければ石化する呪いに掛かってしまうのだ。
その為、大戦時には拷問としても使われたとされるこの門・・・
ナナシ達は隣の区へと足を踏み入れたのであった・・・





門を潜り歩く事30分、とっくに安全圏まで来ているがナナシ達は歩き続けていた。
従者として雇った者達は脛骨町でスマイル館へと戻っていった。
それも仕方ないだろう、動物が区を移動する門を怖がるからだ。
本能なのだろう、危険を察知しているのか分からないが知的生命体以外は門に近寄るのを極端に怖がるのだ。

「しかし、徒歩ってのが辛いよなぁ~」
「ナナシさん、私は大丈夫ですよ」
「いや、別にルリエッタ・・・」
「そんな優しいところも大好きですよ」
「お・・・おぅ・・・」

先頭を歩くソフィの後ろに続くルリエッタとナナシ。
初々しいカップルかと言わんばかりの二人の会話にソフィはずっと苦笑いであった。
ちなみにこのシーンは視聴者からナナシに呪いが多数送られると困るので、嵐の方で新シーズンのオープニングとしてフリー素材の音楽を用いた編集が行われていた。
カメラアングルは自称エルフのウサミミソフィをローアングルから映していたのは言うまでもないだろう。
短い動画と言うのは広告を付けるのは難しいが一定層の視聴者に再生を促す効果もあるのである。

「ほらっ見えてきましたよ。アレがこの区唯一の街、交易都市『ひまつぶシティ』です」
「ひまつぶシティ・・・」

この区は90%が森が覆っており、区を移動できる門が存在する場所のちょうど中間に通じる場所に唯一街があると聞かされていたが、まさかの名前に固まる二人・・・

「とりあえず私達エルフが住む森の中のレズの都、そこに案内できる知り合いが居る筈なので向かいましょう」
「ひまつぶシティ・・・」クスクス

ルリエッタ、街の名前がツボッたらしく一人笑い続けていた。
そのすぐ横では真剣な表情のナナシ。
それもその筈、日が少し傾き始めた時刻だと言うのにひまつぶシティからは随分強い明りが出ていたのだ。
電気の無いこの世界であれだけの明りを照らす為には間違いなく魔法が必要であろう。
だが、この区のルールを考えればそれが凄い事だというのは直ぐに理解できた。

「ナナシさん、気付いたみたいですね。そう、あの明りは魔法・・・この区のルールは知っての通り・・・」
「あぁ、死神将軍の区で俺の魔法がファイアーボール等の媒介に出来る魔法を介してしか使えなかった様に・・・」
「そう、この区では・・・希少金属を媒介にしてしか魔法は使えないのです」

電気以上に世通り明りを灯すのに必要な経費が掛かる、それを理解したナナシは交流の中間地点と言う事も踏まえそれを感じ取っていた。
そう、あの町には・・・

「ギャンブル・・・があるんだね?」
「・・・はい!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ

Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」 結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。 「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」 とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。 リリーナは結界魔術師2級を所持している。 ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。 ……本当なら……ね。 ※完結まで執筆済み

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

学園長からのお話です

ラララキヲ
ファンタジー
 学園長の声が学園に響く。 『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』  昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。  学園長の話はまだまだ続く…… ◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない) ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

処理中です...