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第60話 南の隣町『肩甲骨町』にて長兄と出会う

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ナナシが編み出したトイレの便器からお化けが覗いているドッキリは一気にギルドを通じて広まった。
魔石中毒になった人々がそれのお陰で一気に回復に向かい尾骶骨町のスマイル館の名は一気にこの区に広まっていった。
そして、1ヶ月が経過したとある日・・・

「おちんちん!」
「びろ~ん」
「さむらい」
「シャキーン」
「ちんちん」
「ちんちん」
「ちんちん」
「ちんちん侍」
「「「「「ちんちん侍!!!!」」」」」

スマイル館の中ではとんでもないゲームが繰り広げられていた。
名を『ちんちんざむらいゲーム』と言うこのゲーム。
複数人で円を描くように座り誰かを指差して4種類のどれかの台詞を述べ、指差された人は台詞に合った言葉を発すると言うゲームである。
ちなみに『ちんちん』とは「江戸時代の鐘の音」なので一切シモネタでは無いので誤解の無いように。
そして、もう一つのルールとして笑ってはいけないと言うルールが存在する。
なお、指示内容は以下の通りである。

ちんちん→ポーズ無し
おちんちん→びろ~ん
さむらい→シャキーン
ちんちん侍→全員でちんちん侍

そして、本日の勝者が決定した。
最後に残った2人の接線が繰り広げられたが「しゃむらい」と片方が噛んでしまったのに笑ってしまい決着が付いたのだ。

「はい、皆さんお疲れ様でした~」

まとめ役としてナナシが拍手をしながら全員に声を掛ける。
実は最初の方で早々と負けてしまったナナシなのだが誤魔化しつつ話を続ける。

「それじゃあ話していたとおり俺達は移動しようと思います」
「ナナシさん・・・また遊びに戻ってきて下さいね」
「いつでも帰りを待っていますからご主人様」

スマイル館の面々とはまるで家族の様に毎日を楽しく過ごしていた。
その甲斐もあってナナシはここをスケさんに任せて旅立っても大丈夫と判断し次の町へ向かう事にしていたのだ。

「ナナシ、準備出来てるわよ」
「ミスリルありがとうな」
「だからミスリル言うな!」

スマイル館の入り口では旅装束に着替えたリルとルリエッタが待っていた。
横にはナナとネネの姉妹も見送りで立っていた。
結局スマイル館でスケさんと共に住み込みで生活をする事になった彼女達、ナナシのお陰でまさしく生まれ変わったかのように健康的な姉妹となっていた。

「ナナシさん、忘れ物はないですか?」
「あぁ、大丈夫。ルリエッタも大丈夫か?」
「はい、大丈夫です」
「と言うかあんた等本当に付き合ってないんだよね?」
「あぁ」「そうですよ」

そう、この1ヶ月でルリエッタと触れているとナナシはアラシと念話が出来る事が判明し極力互いに触れ合っているようにしていた。
そのせいもあって普段から手を繋いでいる光景はどう見てもカップルにしか見えないのである。
ナナシはともかく、ルリエッタに関しては役得と内心喜びこのまま外堀から埋めていく事も考えていたりする。
女の恋心は異世界でも強いのであった。

「それじゃスケさん、後の事は頼むな」
「あぁ、任せとけ。楽しい事やってたら金が儲かるなんてまるで魔法みたいな仕事やからしっかりやらせてもらうわ」
「毎月ちゃんと振り込むようにするけど、遅れたらごめんな」
「ええてええて、しっかりプールして皆に配給する分は確保しとくから」

ギルドを経由して送金出来るとはいえ、ナナシ自体がギルドに行ける状況でない場合もある。
その時の事も考えて予約送金で前もって処理は行なっているが、洩れだったり送金できない状況の場合も考えてスケさんも理解していた。
伊達に関西弁をしゃべっているだけではないと言う事であった。骨だけど・・・

「ホナ、気ーつけてな」
「あぁ、皆行ってきます!」
「「「いってらっしゃい!」」」

そうしてナナシ、リル、ルリエッタの3人は馬車・・・引いているのは馬ではなく骨だけの豚の魔物『スケルブタ』であるが・・・は尾骶骨町を出発した。
そのまま真っ直ぐ南へ向かい次の町『肩甲骨町』を目指して進む・・・

「しかし、本当に異様な光景だよな・・・」

窓から見える景色にナナシは溜め息を吐きながら語る。
一見すると草原、だが生えているのが草ではなく細い骨。
そして、尾骶骨町に初めて来た時とは逆のルートで進んでいる為に右手に見える山の上。

「あそこにこの区を支配するヤツが住んでいるのか・・・」

そこに存在する屋敷を眺めながら語るナナシ。
勿論隣に座るルリエッタと手は繋いだままである。
まるで独り言を言っているかの様に感じるかもしれないがナナシとルリエッタにはアラシの声が聞こえていた。
正面に座るリルは不思議そうにナナシを気にしながらも相槌だけ打って景色を眺める。
そうして、5時間ほど掛けて3人は肩甲骨町へ辿り着いた。

「なん・・・だこれ・・・」

町の入り口に到着し馬車が停車したので外へ出た3人はその光景に唖然と固まる。
それはそうだろう、本来町の入り口には門番が立っている。
町から一歩出れば魔物が歩き回る世界なので当たり前なのだ。
しかし、尾骶骨町の入り口には2人の門番が何故か四つん這いで警備していたのだ。
一見すると土下座をしようとしているようにも見える光景、だが・・・

「ようこそ肩甲骨町へ、こんな姿勢で失礼します」

まるで何事も無かったかのように普通に門番から話し掛けられ驚く3人。
気付けばナナシ達をここまで乗せてくれた馬車の操縦者はUターンをして町から離れていた。
そして、普通に3人は門を通過させてもらい町の中へ入った。

「ここでも何人か居るな・・・」
「一体なんなんでしょうかね・・・」

ルリエッタも流石に疑問を口にしだした。
町に入って直ぐに住人が四つん這いで生活をしている姿が目に入る。
その周囲の人間がそれを気にせずに行動しているのがまた異様な雰囲気を出していた。

「なんにしてもギルドに行きましょ。何か情報があるかもしれないわ」

リルの提案に2人は頷き肩甲骨町のギルドへと移動した。
中は尾骶骨町のギルドと似た様な感じであったがここでも何人かが四つん這いになっていた。
3人は真っ直ぐに受付に向かって行き、受付嬢と思われる女性の服を着た骸骨に話しかけた。

「すみません、尾骶骨町から初めてここへやって来たのですが」
「はい、ようこそ肩甲骨町のギルドへ。それで今日はどういったご用件でしょうか?」
「いくつか情報が欲しいの。話せる範囲でいいから」

そう言ってリルが銀貨1枚を骸骨に手渡しナナシにウインクをする。
そして、受付から町の状況を話してもらっている時であった。
ギルドの入り口が突然吹き飛び地面へと転がった。

「騒がしくしてすまねぇな、ちょいっと探し人が居てな」

そう言って入ってきたのは白いスーツを着てサングラスの様な物を装着した骸骨であった。
両手をスーツのポケットに入れたままの状態で一体どうやってドアを破壊したのか不明であるが中を見てナナシと目が合う。
骨だけの顔なので表情が一切分からないにも関わらずまるでニヤリと笑ったかのように感じた。

「お前だな?俺の弟の六郎を倒したのは、俺の名は死神3兄弟の次男『長兄』だ」
「「・・・えっ?」」

ナナシとリルが同時に疑問を口にして首を傾げる。
死神3兄弟の六郎をナナシが倒した事がバレているのもそうだが、次男なのに名前が長兄なのだ。

「話がある、ちょっと面貸さんかい」

そう言って外へ出て行った。
唖然とどうしようか悩んでいるナナシとリルであったが後ろから震えた声で骸骨が声を掛けた。

「行って下さい、早く・・・でないと・・・」

まるで何かに怯えるような声に骸骨なのだが怖がっているのが目に見えて分かった。
その怖がり様に手を繋いでいたルリエッタの手が小さく震えているのを感じナナシは強く握り返して答えた。

「とりあえず行くか」
「そうね・・・ここに居ても迷惑みたいだからね」

ルリエッタも出て行くことに賛成し3人はギルドの外へと移動した。
ギルドの外へ出ると前の通路が広く開けられ先程の白スーツの骸骨が待っていた。

「よしよし、もう少し遅かったらこの建物ぶっ壊しているところだったぜ」

そう言ってギルド前の通路の真ん中に立ったまま長兄はナナシが近付いてくるのを待つ。
そして、周囲に障害物が一切無い状況を確認して長兄は口を開いた。

「簡単に言うとな、お前。俺らの仲間にならねぇか?」
「仲間・・・」
「そうだ、あの六郎を倒せるくらい強い男なら俺は歓迎するぜ」

そういう長兄はポケットから右手を出してナナシの前で開いた。
それは握手を求める仕草であった。
これを握り返せば了承したと言う意味なのだろうが・・・

「悪いな」

そう言ってナナシはその手の平を差し出した手でパンッと叩いた。
その瞬間周囲から音が消えた。
誰もが長兄から放たれた殺気に声が出なくなったのだ。

「そうか・・・ならまずは実力差ってやつを思い知らせてやるわ!」

そう言った長兄から恐ろしい程の殺気を感じてナナシはルリエッタをリルの方へ走らせる。
明らかに力の差は大きい、ただでさえナナシはレベル1のままなのである。
だが・・・

「ファイアーボール!」

ナナシの詠唱と共に周囲に火の玉が5個ほど出現する。
それはナナシがネネより教わったこの区の魔法、ナナシはこの魔法を使用する事で自身の詐欺魔法を発動したり出来る。

「へぇ~中々面白そうな能力を持っているみたいだな、それが弟を殺した訳か」
「そうだ、それじゃあ第2ラウンド・・・だな!」

先手必勝とばかりにナナシは顔の横を飛んでいた人魂を掴んでそのまま長兄に向かって投げつけた!
だが・・・

「なるほどね、これで六郎を倒したってわけだ」

驚く事にナナシの投げつけた火の玉は長兄の正面で空中で停止していた。
そして、ナナシの意思とは別にその場で火の玉は掻き消えるのであった。
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