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異世界召喚された日本人は誰だ? 王女は勇者との子を宿す為に日本人かどうか質問する。

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長い廊下を歩く美女が居た。
腰まで下ろされた金髪の髪は歩く度に静かに揺れ、彼女の後には金色の軌跡が現れる様であった。
清楚な純白のドレスを身に纏う彼女はやがて長い廊下の先の扉を開く。
そこに居る5人の男性と会う為に・・・

「お待たせしました、異世界の勇者様」

彼女はこの国の王女シルフィーネ、異世界から召喚された勇者との子を宿す存在。




この世界には異世界の日本と言う国から、勇者と呼ばれる王家との血を繋ぐ価値の在る者を召喚する伝統が在った。
そして、今代の王女シルフィーネは後継者を宿す為に今日この場所に来ていた。
だが、何の手違いか異世界から召喚された人物が5名も居たのであった。

「あの・・・それで僕達は一体どうしてここに呼び出されたのでしょうか?」
「そもそも俺達は帰れるのだろうな?」

黒髪の少年の言葉に金髪の男性が続く、召喚された者が元の世界に帰れないというのが召喚された世界の者の常識だと考えられている事が過去の文献にも記載されていた。

「御心配には及びません、此度の召喚は勇者様のお力を一時的にお借りするだけの召喚。1ヶ月以内に元の世界にお返しする事を王家に誓って約束しますわ」

シルフィーネの言葉にホッとした雰囲気が広がる。
だがその言葉を真実だと信じない者も勿論居た。

「そんな事言って用事が終われば抹殺して元の世界に帰ったって話にするかもしれないじゃないか!」
「美しい華には棘があるとも言いますからね」

茶髪の男性に続き、頭に入れ墨の入った男が口にする。
そして、最後の一人・・・

「なんでもいいよ・・・別に元の世界に帰れなくても・・・」

黒い前髪が目を隠す程長いその男は部屋の隅で膝を抱えて小さく座っていた。
他の4人とはどうにも合わないのか、陰鬱な雰囲気を持つその男は中でも特に異様であった。
だが王女シルフィーネは自分の使命の為、今宵この中に居る日本人と交配を行う為口を開いた。

「私の求める勇者様、それは日本と言う国から来られた方の子をこの身に宿す事。それ以外の方は直ぐに元の世界にお帰り頂く予定です」

その言葉に男達の目付きが変わった。
子を宿す、つまり目の前の王女シルフィーネと今夜から性行為をすると言う事である。
元の世界でもテレビの中くらいでしか見かけた事の無い程の美女、しかも衣装の効果もあってとんでもない色気を醸し出していたのだ。
黒髪の少年が前かがみになると共に何名かがその言葉に勃起をした。
しかし、王女の言葉の通りだと信じるのであれば彼女と性行為を出来るのはこの中の一人の日本人だけである。

「それではこの中で自分は日本人ではないという方、挙手願います」

王女シルフィーネの言葉に一同は硬直する。
ここで手を上げれば直ぐに元の世界に戻される、何より彼女と性行為を出来なくなってしまう。
そう考えたからなのか、誰一人手を上げる者は居なかった。
一人、帰りたくないから手を上げない人物も居るが・・・

「分かりました。それでは過去の文献に従って皆様をテストさせて頂きます」
「て・・・テスト?」
「一体何をさせる気だ?」
「ご心配には及びません、ちょっとした質問を幾つかさせて頂くだけですから」

そう言って王女シルフィーネは四角い魔道具を取り出し5人の方を向けた。
そして言葉を発する・・

「はい、チーズ」

一瞬意味が分からなかったが、茶髪の男性以外の4人が人差し指と中指を立ててピースサインを行った。
魔法なのか何なのか、シルフィーネがそう言葉を発したと同時に5人の男は互いの姿がボヤけて見えなくなっていた。
だから互いにどんな行動を行ったのかは分からない、ゆっくりと時間を掛けてサインを確認した王女は口を開いた。

「ありがとうございます。そこの茶色い髪の貴方、日本人ではありませんね。お帰り下さい」

そう王女が宣言すると茶髪の男性の足元に魔法陣が出現し、その姿が一瞬で消えた。
殺されたのではなく、ここへ召喚された時と同じような事が起こった事で4人はホッと安堵の表情を浮かべる。
だが、それと共に自分達の知らない魔法の様な力が在る事を知り少し警戒したのは言うまでも無いだろう・・・

「それでは次の質問に移らせて頂きます・・・」


※指でVを作るピースサインをカメラに向かってするのは日本を含む少数の国だけ、ギリシャなんかでは『くたばれ』などと言う侮辱するポーズなので気を付けよう。



「それでは皆さん、土下座をしてみて下さい」

王女シルフィーネの質問にまたもや4人は硬直した。
再び互いの姿が見えなくなり、質問するシルフィーネ以外に自分の姿が見えないのだと判断した各々は膝をついて頭を下げる。
最も実際に土下座を行った事の在る者は一人も居らず、知識として知っているだけの土下座を披露するのだが・・・
頭に入れ墨の入ったスキンヘッドの男だけは間違っていた。
膝をついて両手を地面に付けたのまでは良かったが、深々と頭を下げようとしたのか肘まで地面に付けてお尻を上げてしまったのだ。
その結果・・・

「そこの頭にタトゥーの入った方、日本人ではありませんね。お帰り下さい」

こうしてまた一人その姿が消える事となった。
3人は姿が見えるようになったと共に互いの顔を見合わせ生唾を飲み込む。
勝ち残れば目の前の美女とSEXが出来ると欲望に忠実な金髪の男性、まだ未経験だけど性行為に興味津々な黒髪の少年、SEXはどうでもよくて元の世界に帰りたくないと願う男・・・
勝ち残った3人は何も語らない・・・


※土下座、それは日本にしか存在しない日本の礼式のひとつで、姿勢は座礼の最敬礼に類似する。決して空気抵抗を極限まで減らした姿勢でもなくこの世で最も低姿勢で美しく好奇なスポーツではない(アンサイクロペディア参照)


一つため息を吐いた王女シルフィーネ、だがその溜め息が形となり数字へと変化した。

「それでは次の質問です。これをご覧ください」

そう言って煙の様な物が形を成す。それは数字の『1』であった。
そして、それが次々と空中に文字となって並んでいく・・・
一体目の前で何が起こっているのか理解の及ばない3人は固唾を飲んでそれを見守っていた。

「最後のここに当てはまる数を指で示して下さい。これは日本人にしか分からない問題だそうです」

そこに描かれたのはこういう物であった。



1→1
2→2
3→3
4→5
5→4
6→4
10→2
100→6
1000→?



目の前に現れたそれにも驚いたが3人は目を疑った。
意味が全く分からなかったからだ。
互いの姿が見えなくなり答えを他の二人が伝えているのかも分からない。
だが焦る事は無く各々は考えた・・・

指で答えを示すという事は0~10の中のどれか、そして日本人にしか分からないという言葉・・・
一人が気付くのに合わせもう一人も理解をして指で答えを示した。
実に5分程そのまま待ち続けた王女シルフィーネは笑みを浮かべ頷く。

「金髪の貴方、日本人ではありませんね。どうぞお帰り下さい」

そうして金髪の彼の姿も消えた。


※答えは漢字に直すと直ぐに分かりますね、画数です。言うまでもなく『千』なので答えは『3』である。


「おめでとうございます。元々日本人と言うのは黒髪だと知識では知っていたのですが染めるという事もあると記録が残っていましたので確かめさせてもらいました。それでは最後の質問です。もしもお二人がこれを正解なさりましたら・・・」

そう言う王女シルフィーネは頬を赤く染めながら照れて告げる。

「今夜からどちらかの子を宿すまでお二人の相手をさせて頂きます」

そう言って少年と男の返答を待たず最後の質問に移った。

「それでは問題です。 川に桃が流れて来ました。 その効果音を口頭で述べて下さい」

唖然と口を開く二人・・・
質問の意味が理解できず暫く固まった二人であるがやがてある事に気付き思い出て少年が答える・・・
しかし、前髪の長い男はその答えに辿り着くことなく・・・

「ぷ・・・ぷかぷか?」

そう答え、王女シルフィーネは帰りたくない彼を元の世界へと返すのであった・・・


※日本にしか存在しない童話桃太郎で有名な効果音、国語辞典によると『物が水の流れのままに浮きつ沈みつして、漂いゆくさまを表わす語。どんぶりこ。』とあります。ただ生きていてこの言葉を使う事が果たして在るのだろうか・・・


「おめでとうございます。勇者様、お名前をお伺いしても?」
「僕は・・・タイラ エイジです。」
「エイジ様ですね、さぁこちらへ」

少年は王女シルフィーネに手を引かれ一歩踏み出した。
すると目の前が一瞬にして変わり大きなベットの前に立っていた。
驚く少年の唇に王女シルフィーネの唇が重なり、そのまま少年は王女にされるがまま押し倒されるのであった・・・

「やだらめぇ~」


※やだら(やたら)めぇ(美味い)と言う鹿児島の徳之島方言、実際にこの名前の居酒屋さんもあるそうです。







翌朝、搾り取られた様子の少年は、この世の極楽を味わいつくした表情で全裸で仰向けに寝ていた。
隣でスヤスヤと眠る絶景の美女、ついさっきまで彼女と致していた事を思い出すだけでこれが夢ではないのかと疑いたくなる程である。
だが、体に残る幸福の倦怠感が現実だと知らせてくる・・・

「お目覚めですか勇者様」

そこへ美しいメイドがやってきた。
これから王女が子を宿すまで自分の身の回りの世話を行ってくれるメイドである。

「朝食の準備が出来ていますが如何致しますか?」
「あっ頂きます」

少年はベットから出て服を着てメイドの用意した食卓へ向かった。
そこに並ぶ素晴らしい料理の数々に目を輝かせそれを食べ始める。
そんな少年にメイドが声を掛けた。

「そう言えば、勇者様のお名前をうかがってもよろしいでしょうか?勇者様とお呼びするのも外では色々と困る事もありますので・・・」
「あっ僕は・・・タイラ エイジって言います」
「平 英二さまですね畏まりました」
「あ~ちょっと発音が違いまして・・・正確には『Taylor Age』です」
「えっ・・・」


異世界転移者の翻訳スキルそれにより全員が同じ言語を話していると勘違いされる異世界、勇者として残された彼ではなく最後に戻された前髪の長い引きこもりの男が日本人であった・・・
王女シルフィーネがそれを知る事は結局無く、元気な子ど宿した事で墓場までその事実を持っていくことを決意したメイド。
世の中には知らない方が幸せと言う事があるのである・・・


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