上 下
41 / 93

第41話 二人目の女神

しおりを挟む
停車した車内に残る猫の死体を共有箱に入れてピコハンは車両を降りる。
そこは日本人ならばプラネタリウムを想像するのは間違いない星空が一面に広がる空間であった。
そして、目の前にドアが一つ在る。

「多分、これがダンジョンの核なんだよな・・・」

ピコハンは周囲に警戒しながら真っ暗な地面を進みドアノブに手を伸ばす。
ここはダンジョン、何が起こるか分からないので周囲に警戒は行ないながらノブを捻りドアを開く。

「おっ君が  の言ってた人間だね」

そこには人形が椅子に座って話しかけていた。
フランス人形と言えば誰もが想像するアレと同じ姿で椅子の上に足を伸ばしたまま座りこちらを真っ黒の瞳で見詰めている。
ピコハンは前回同様中に入れば危険は無いだろうと考えその中へ足を踏み入れる。

「流石に二回目になると胆が据わってるのかな?」

堂々と進むピコハンの様子に手拍子をしながら人形は話す。
その時ピコハンの肩に手が置かれた。

「っ?!」

何の気配も感じず肩に手を置かれた瞬間まで気付かなかったその存在に驚きながらもピコハンは無駄な抵抗はしない。
その人形の強さを瞬時に理解したからだ。
今もしもこの肩に置かれた手を払いのけようとしても自分の手のほうが怪我をするのに気付いたのだ。

「なるほど、見事だね。名乗るのが遅れたね、僕は  だよ」

前回の女神同様名前を名乗ったのだろうがそれは音になっておらずピコハンの耳には届かなかった。
それよりもその声がピコハンには前に居る人形か、肩に手を置いている人形のどちらから放たれているのか理解できない事に驚いていた。
そして、察する・・・
この神はこの人形達を操る神なんだろうと。

「僕はピコハン、前に会った女神さんに言われてここまで来たんですけど・・・」
「あぁ話は聞いているよ。今回は怪我を特にしてないみたいだね、いや~たいしたもんだ」

その言葉にピコハン自身も良く自分が無事だったものだと理解した。
ただ前回の成長が無ければ間違い無くここまで到達は出来なかったのが分かっているだけに運がかなりの量を占めているのは理解している。
ヘタすれば死んでいたと思われる事も多かったからだ。

「まぁそんなに硬くならなくてもいいよ少し話でもしようじゃないか」

その言葉と共に周囲の空間が一瞬で大広間と言った感じの部屋に変化した。
そして、先程人形が座っていた椅子が半回転しその前にテーブルが用意されているのに気付いた。

「とりあえず紅茶でも飲みながら君の話を聞かせてくれないかな?」

再びピコハンは驚く。
周囲に数十人もの執事服やメイド服を着た人形達が整列し頭を下げている。
そして、テーブルの正面に一人の女性が座っているのに気が付いた。

「あなたがここの女神様ですか?」
「あぁ、そっかやっぱり君には僕らの真名は伝わらないんだね」

真名、それはその者を表す本当の名前・・・
特に高位の者の真名は近い存在の力を持つ者でなければそれを聞くことすら出来ないのだ。

「それじゃ失礼します」

ピコハンは用意された席に着席する。
そして、晩餐が始まった。
用意された食事はピコハンが今まで食べた事も無いような美しく美味しい物ばかりで一口食べる毎にピコハンの体の疲労が取れて肉体が強化されるのを感じていた。

「ははっそんなに焦らなくても沢山あるからゆっくり噛んで食べるといいよ」

その言葉に少し落ち着いたピコハンを見て女神は口を開く。

「それじゃ君について質問だ。君には前世の記憶があったりするかい?」
「前世?」
「あぁ悪い、なんでもないよ」

色々と女神は話を聞きたい様子であったのに、それ以降特に質問をされる事は無く晩餐は終了した。
満腹になったピコハンに女神は手を翳しその手から茶色の光がピコハンの中へ入っていく。

「うん、君は多分違うと思うけど可能性は0じゃないからね。これは私からの土の加護だ」
「あ、ありがとうございます」

ピコハンは頭を下げる。
そんなピコハンの体をそっと手で押して女神は扉の外へ押し出す。
軽く押されただけなのにピコハンの体はまるで吹き飛ばされたように地面を滑り真後ろへ水平移動する。

「えっ?」
「もう行くといい、でないと間に合わなくなるかもしれないからね」
「間に合わなくなる?」

ピコハンは首を傾げるが女神がそう言うのであれば何か理由があるのだろうと理化し、女神に一礼して停車している車両の中へ飛び込む。

「可能性は0じゃない、だけど・・・ううん、これ以上は僕が気にしても仕方ないからね」

自身を私ではなく僕と呼んだ女神は空間を繋ぐ扉をその手で閉める。
ピコハンは気付いていなかった。
会話をして土の加護を与えてくれたその女神すらも人形の体だった事に・・・






「本当、何にもないんだな・・・」

車両内を順に通っているピコハンだが、やはりあの猫を倒した事で中の異常な現象は完全に消失していた。
そして、壊れた車両内の傍らに落ちている物を適当に拾って量が溜まったら共有箱に入れて再度進む。
金属片や見た事もない生地の様な物などそれなりの量を回収しながらピコハンは最後尾車両にまで戻り天井のダンジョン内に繋がっていた縦穴を登って洞穴の様な場所に戻る。
そして、通路を進み天井の鉄骨の重力に引き上げられ鉄骨の下に逆さまに立って歩いている時にそれは聞こえた。

「キャー!!!」
「なんなんだこいつらは?!」

子供数名の声であった。
ピコハンは駆け出す。
そして、目の前に5本の鉄骨を走る板の様なそいつが再び現われるのだが腹部の刃は鉄骨の上へ出しているようでピコハン側からは攻撃し放題であった。

「しかもこんなに弱かったっけ?」

蹴り一発でバラバラに破壊され飛ぶそいつらを次々と破壊し数分後襲撃は落ち着いた。
そして、後ろの壁の近くまで戻り鉄骨を横に飛ぶとピコハンの体は鉄骨を中心に周り鉄骨の上に立つ。
そこには幼い少女2人を守ろうと一人立っている少年がピコハンを睨みつけていた。

「お、お前はなんだ?!」

今にも泣き出しそうな少年であったが彼はその身を呈してあのピコハンが破壊したやつらから後ろの少女二人を守っていたのだ。
その勇気に微笑みながらピコハンは声に出す。

「もう大丈夫だよ」

少女二人はピコハンの声に顔を上げる。
そして、ピコハンは脳裏に妹の事が過ぎるのだがそれを振り払って少女達に怪我が無いのを確認する。

「怪我とかはしてないみたいだね」
「だからお前は誰なんだ?!」

目の前の少年が吼える、それはそうだろうピコハンは忘れがちだがまだ10歳である。
少年が見た目小学校低学年程度に見えるのでピコハンの目にも7歳か8歳くらいと予測していた。

「俺はこのダンジョンを攻略しているピコハンって言う冒険者さ」
「冒険者・・・人間なんだよな?」
「こんな普通の耳した獣人は居ないと思うけど・・・」

そんな当たり前の事を話すピコハンの様子に少女の一人がクスッと笑いを漏らす。
それを切欠に少年も名乗るのであった。

「お、俺はクルスって言うんだ。二人はカーラとシリア、俺の友達さ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...