その他 短編集

昆布海胆

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帰省事実 ※ホラー

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『守君・・・ちゃんと大事にしてよ』
「分かってるって」

今朝郵便ポストに入っていたお守りをポケットに入れて俺は家を出た。
これは遠距離恋愛をしている愛奈からの誕生日プレゼントだ。
SNSで返信して既読が付いてからメッセージが来なかったのでスマホをしまった。

(手作りのお守りか・・・)

電車に乗り仕事へ向かう俺は来週会える事を考えながらポケットのお守りを握り締める。
月に1回会えるかどうかの関係だが、高校時代から交際が続いている愛奈とは結婚を考えている。

「結婚・・・か・・・」

23歳になり正社員で働く今の俺にとって手が届く現実がそこに在る。
普通に仕事をして普通に生活をして普通に・・・
それはとても特別で普通な事だ。

「来週、プロポーズしよう!」

お守りを握り締めてそう誓った俺は今日も仕事へ向かった。







『今すぐこっちに来て』

仕事が終わりスマホを開くと愛奈からメッセージが届いていた。
突然の言葉に驚く、来週帰省する時に会う予定だっただけに俺は目を疑った。

「どうかしたのか?」

俺はSNSで返信を返す。
だが愛奈からはメッセージが返ってこない・・・

(どうしたんだ?何かあったのか?)

違和感を覚えつつ俺は帰省の予定を1週早める事にした。
自宅へ帰り、両親へ今日帰るとメールを送って直ぐに部屋を出た。
何か胸騒ぎがしたのだ。






俺の実家までは電車で3時間、それほど遠すぎず近すぎない距離だから月に一回は帰れる。
それが遠距離恋愛を続けられている要因の一つでもあるのだ。

切符を購入し電車を待つ俺のスマホに再びメッセージが届いた。

『今すぐこっちに来て』

愛奈からだ。
俺は先程の質問がスルーされているのに違和感を覚えながらメッセージを打つ・・・

「今駅だ。これからそっちに帰省する事にしたから帰る前に家に寄るよ」

そう返信し電車が来たのでスマホをポケットに入れた。
電車内でスマホを使用するのはマナー違反、俺は見慣れた景色を見ながら文庫本を開いた・・・








「ふぅ、着いた着いた」

駅の改札を出てタクシー乗り場に向かいながらスマホを開いた。
愛奈から何か返信が来ていないかと思ったのだが・・・

「なんだ・・・これ・・・」

そこに並んでいたのは愛奈からのメッセージであった。

『今すぐこっちに来て』

『今すぐこっちに来て』

『今すぐこっちに来て』

『今すぐこっちに来て』

『今すぐこっちに来て』

『今すぐこっちに来て』

『今すぐこっちに来て』

『今すぐこっちに来て』

『今すぐこっちに来て』

『今すぐこっちに来て』

『今すぐこっちに来て』

『今すぐこっちに来て』

『今すぐこっちに来て』

『今すぐこっちに来て』

『今すぐこっちに来て』


全く同じメッセージが何件も届いていたのだ。
少し奇妙な感覚に襲われ俺はタクシーの運転手に愛奈の家へ向かってもらうように頼んだ。




「お客さん・・・あそこ・・・ですよね?」
「えっ・・・」

俺は目を疑った。
愛奈の実家に近付いた時にそれが目に入ったのだ。
何台も停まっている消防車、パトカー・・・
そして・・・

焼け落ちた愛奈の実家であった・・・






俺は警官に聞かされた言葉に呆然としていた・・・

「今日の昼過ぎに火事になったようでして・・・家族全員と思われる遺体が・・・」

耳を通り抜ける言葉にそれ以上の言葉が理解できなかった。
待たせているタクシーの運転手に

「釣りは良いです」

と言ってお金を支払いフラフラと自分の家へ足を向かわせる・・・
思考が定まらず混乱したままの俺のスマホがブルブルと震えた。

『今すぐこっちに来て』

そうだ、愛奈からメッセージが届いている・・・
つまり愛奈はまだ生きている!

そう考えた俺の目に色が戻りスマホを操作した。

「愛奈か?今どこだ?」

少し待って返事が返ってきた。

『今すぐこっちに来て』

そして、俺は気付いた。
いや、気付くのが遅すぎた・・・

「分かった・・・」

俺はそう返信しカバンからボールペンを取り出した。
近くの電柱に背中を預けて空を見上げる・・・

何故気付かなかったのか・・・
愛奈から同じメッセージが届いてから俺が返信をした言葉に一切『既読』が付いて居ない事を・・・

「今からそっちに行くよ」

そうスマホでメッセージを送り、俺はボールペンを自らの耳に勢いよく刺し入れた・・・

力なく倒れた俺の横に転がるスマホの最後のメッセージに『既読』の文字が表示され、笑みを浮かべたまま俺の意識は闇に沈んでいった・・・

愛奈・・・もうすぐ・・・会えるよ・・・



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