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『私は「ただいま」と言わせたい』を妻に見せたい
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「アナタ!起きなさいアナタ!!」
「ん・・・んぁ・・・」
意識がゆっくりと覚醒し目を開くと私は居間に今まで寝ていた事を理解した。
目の前には最愛の妻が腕を組んで立っていた。
「ぁぁ・・・おはようお前」
「おはようお前・・・じゃないわよ!なんでアナタまで寝落ちしてるのよ?!」
そう怒鳴られて昨夜の事を思い出した・・・
毎週金曜の夜11時過ぎからドラマがやっているのだが先月から始まったドラマ『私は『ただいま』と言わせたい』を見たいと妻が言い出したのが始まりだった。
「これよこれ!これね私が愛読しているネット小説が実写ドラマ化されたのよ!」
「へ・・・へぇ・・・」
「小説の方は見たけどこれは是非見たいわ!きっと作者さんの活動報告は大賑わいね!私も書き込んでこなくっちゃ!」
「お、おぅ・・・頑張ってな・・・」
「でも・・・私・・・携帯持ちながら寝ちゃうかもしれないわね・・・」
「なら起こしてやろうか?俺はまだまだ寝るつもりは無いし」
「いいの?」
「別に構わないさ、それにお前がそんなに見たがるって事は面白いんだろ?」
「そうなのよ!奥さんが記憶を失って・・・」
「ちょっちょっと待ってくれ、俺も見たいんだからネタバレは勘弁な」
「もう5話くらい放送したみたいだから今更よ、だけど確かにネタバレはいけないわね。それじゃ午後11時に起こしてくれる?」
「あぁ、任せろ」
「じゃ、おねがいねアナタ~」
そう言って妻は1人寝室に入って携帯をずっと触っていた・・・
そして、いつの間にか寝付いてしまったらしくあの可愛い顔からは想像も出来ない豪音のイビキが発生していた。
「そっか、俺は酒を飲みすぎて寝てしまったのか・・・」
どうにも頭痛がすると思ったら酒の飲みすぎだったらしい・・・
妻には悪い事をした。
ここは素直に謝っておくべきだろう・・・
「お前、本当にすまなかった。来週は、来週こそは起こしてやるから一緒に見よう」
「もぅ、アナタの土下座なんて珍しいから今回はそれで勘弁してあげるわ」
「ありがとうお前・・・」
ゆっくりと両腕を広げて抱き合おうとする二人・・・
「えんだぁあああああああああああああああああああああ!!!!」
「「っ?!?!」」
ビクッと抱き合う直前で声に驚いた二人は視線を向ける。
そこには1人息子が居た。
「あのさ、朝から両親が喧嘩して仲直りして抱き合うのを見せられる息子の気持ちになってくれよ・・・つか飯早くしてくれないと学校遅れるし」
「あっごめんね、今用意するわ」
「はははっすまなかったな」
「まぁずっと喧嘩されるよりかはいいけどさ・・・」
そうしてこの日は平和に過ぎ去っていった。
そして・・・翌週月曜日の夜・・・
「今日こそは見るわよアナタ!」
「おおっ!必ず起こしてやるから安心しろお前!」
「えぇ、それじゃ私はいつものトークルームに行ってくるわ!」
そう言って妻は寝室へ移動した。
俺は今日は酒を飲むのはドラマが始まってからにしようと考えのんびりと新聞を読みながら居間に腰を下ろすのであった・・・
ちなみに1人息子は既に自分の部屋に戻っていたのでこの場には居なかった。
「アナタ!ちょっとアナタ起きて!!!」
「んっんがぁっ?!」
妻の怒声に気付き目を開くと居間の天井が視界に入った。
その横に覗き込むようにしている妻の顔・・・
そして、全てを思い出した!
「おぁっ?!今は何時だ?!」
「もう深夜3時よ・・・今週もまた駄目だったのね・・・」
「そうか・・・すまない、本当にすまなかった・・・」
「もぅ、私も寝ていたんだからお相子よ・・・」
「いや、俺はちゃんと起きてるつもりだったんだ・・・それなのに・・・本当にすまない・・・」
泣きながら俺は頭を下げた。
2週続けて寝落ちするなんてもう年なのかもしれない。
せめて時間に目覚ましをセットでもしていれば・・・
そう考えると頭痛がして頭に手をやる・・・
「んっ?これなんだ・・・?」
頭を触るとそこにはタンコブが出来ていた。
こんな場所をぶつけた記憶は全く無いのだが・・・
触るとズキンッと痛みが走り目から星が見えた。
「あら?どうしたの?」
「ん?いやな、なんか痛いと思ったらタンコブがいつの間にか出来ててな・・・」
「ふーん、あっもしかしたら寝落ちした時に倒れこんでぶつけたのかもね」
「あぁ、それならありそうだな」
「もぅ、大丈夫なの?」
「あぁ、心配掛けたなお前」
「あなた・・・」
「おまえ・・・」
「えんだあああああああああああああああああああああ!!!!」
「「ってうぉぉおおおお?!?!」」
突如現れた息子がそこに居た。
眠たそうに目をパチパチとしながらゆっくりと歩いて台所へ行ってお茶を飲んで戻ってきた。
「喉が渇いたから飲みに来ただけだから・・・俺の事は気にせずにどうぞ続きを」
そう言って息子は出て行った。
それを見送り二人して笑いながら寝室に入るのであった。
月曜日の仕事が終わり今日こそは寝ずに妻を起こして一緒にドラマを見る!
そう決意した俺は寝ても大丈夫なように携帯のアラームを番組放送開始の10分前にセットした。
「これでよし!」
何度も携帯電話をチェックして番組放送前に寝たとしても起床出来る様にして俺は座ってテレビを見る事にした。
アルコールは飲まない、3度目の正直と言うヤツだ。
だがこれと言った番組もやっておらず適当にチャンネルを回しながら俺はその時を待つのであった・・・
「父さん、父さん、風邪引くぞ」
「んっ?んぁぁ?!」
体を揺すられて目を覚ました俺は目の前に息子が居るのに驚いた。
またいつの間にか寝てしまっていたらしい・・・
また痛む頭を押さえながら時間を確認すると・・・
「午前1時・・・なんてこった・・・」
「どうかしたん?」
「いや、母さんとドラマを見る約束していたんだが寝過ごしてしまったみたいでな」
「ふーん・・・まぁもう寝るからまた明日~」
「あぁ、おやすみ」
ズキズキと痛む頭を撫でながら携帯をチェックすると・・・
「そんなバカな・・・解除されているだと?!」
携帯のアラームは手動で解除しないとスムーズと言って数分後に再びなるように設定されている。
それが解除されていると言う事はちゃんと操作をして解除を行なったと言う事に他ならない。
それも寝惚けながら操作をしたとしてもアラームは3つセットされていたのだ。
つまり寝惚けながら3つ共順番に解除して再度寝たと言う事になる・・・
「そんな筈は無いだろ・・・」
自問自答、答え出ない事であるが違和感しか残らない事実に混乱する。
携帯を操作しながらドラマはもう見逃したので妻には朝謝罪するとしてメールチェックをしている時であった。
「なんだこれ?」
それは自撮り動画であった。
ファイルの一番新しい所に動画が残されていたのだ。
落ち着いて携帯を操作してその動画を再生すると・・・
『よし撮影オッケー!現在時刻は11時ジャスト、今日はしっかり起きてましたよ~さて起こしてくるか・・・』
そう言い残して立ち上がって妻を起こしにいく俺・・・
動画は1分しか撮影できないみたいでどんどん残り時間が短くなっていく・・・
そして俺は妻の手を引きながら戻ってきた。
『さぁ今日こそはドラマが見れるぞお前・・・』
そこまで言った俺の背後に立っていた妻の表情に驚いた。
能面と言えば分かると思うが無表情にも関わらず口と目の部分が穴になった様な顔をしていたのだ。
そして、俺の直ぐ後ろで妻はいつの間にか手にしていた棒状の物を振り上げて・・・
動画はそこで終わっていた。
「な・・・なんなんだこれは・・・」
後頭部に痛みを覚えるその部分を擦るとまるでそこを叩かれた様にコブが出来ていた。
俺は恐ろしさに振るえ、妻が寝ている寝室に向かわずにそのまま居間で横になって眠るのであった。
「アナタ!ちょっとアナタ起きて!!!」
「ん・・・んん・・・」
妻に揺すられ目を覚ますが俺はあの動画の事が忘れられず妻がドラマが見れなかったと叫ぶ声を無視して携帯を手に取った。
「ちょっと、アナタ聞いてるの?!」
「なぁお前・・・昨日の夜の事・・・覚えてるか?」
「えっ?昨日の・・・よる・・・?」
不思議そうな顔をする妻に俺は携帯に残っていた動画を再生して見せる事にした・・・
見る見る真っ青になる妻の表情、俺は何も言わず妻の返事を待っていた。
すると妻は突然自分の携帯電話を取り出して電話をかけ始めた・・・
「もしもし母さん?うん、あたし・・・実は・・・」
突如電話をし始めた妻を何も言わずに見詰める俺・・・
いつの間にか横には息子が来ており無言で朝食を食べていた。
「うん・・・分かった。今夜ね」
電話が終わったのを見計らって息子が声を掛けた。
「婆ちゃん来るの?」
「うん、今夜来てくれるって」
そう言う妻の少し悲しそうな表情が気になりながらも仕事に行く時間が近付いていたので急いで着替えて朝食を食べて仕事に行くのであった。
そしてその夜。
家に帰った俺を待っていたのは儀式であった。
「アブラカタブラ・・・痛い娘痛い娘飛んでいけー!」
部屋に入った俺を待っていたのは魔女の様な服装に着替えた義母と大量のろうそくが立てられ床に魔法陣が描かれた中央に妻が座っていた。
そう言えばアブラカタブラって呪文はヘブライ語でabreq ad habra と書かれて『雷石を投げて死に到らしめよ』と言う意味だったな・・・
そんなどうでも良い豆知識を思い出しながらその光景を眺めていたら・・・
「ヴァシルゥウウウラァアアアアアアアアアアアア!!!」
義母がご近所迷惑を考えず叫び声を上げた。
すると妻の体がビクビクッと震えたと思ったら何故か俺の体が持ち上がり天井に激突した!
「ぐべぇ?!」
そのまま今度は重力に逆らわずに床に落下し俺の意識は闇に沈んだのであった。
「アナタ・・・起きてアナタ・・・」
「ん?あぁ・・・お前・・・大丈夫なのか?」
目を覚ますと部屋は片付けられており義母がソファーに座って俺の芋焼酎を美味しそうに飲んでいた。
ズキズキと痛む頭を擦りながら体を起こすと義母が話し始めた。
義母によると俺の体に記憶喪失になった妻に離婚された男の霊が取り付いていたらしくそれの除霊を見様見真似でやってくれたらしい・・・
「そ、そうなのか・・・それで・・・」
「うん、無事に除霊出来たって」
まるで信用できないが確かに体が少し軽くなった様な気がする。
そんな俺の様子を気にして見詰めてくれる妻の顔が気付けば直ぐ近くに在った。
少し愛する妻の顔に恥ずかしくなり視線を反らした時であった。
「婆ぁああああああああああああああああああん!!!!!!」
突如叫んだ義母に驚いて俺と妻は抱き合って立ち上がってしまった!!!
「えんだあああああああああああああああああああああ!!!!」
更に追い討ちと言わんばかりに背後にいつの間にか立っていた息子が叫び声を上げて二人して抱き合ったまま転倒してしまう。
「おやおや、仲が良いようで関心関心」
「婆ちゃん二人共いつもこんな感じだよ」
ケラケラ笑う義母と息子の様子に溜め息を吐きながら立ち上がると義母がリモコンを操作した。
するとテレビにいつの間にか接続されていた義母のHDが再生され妻が見たがっていたドラマの第1話が始まった。
「えっ?あれっ?」
「お母さんもね、好きで全部録画してくれてたみたいなの」
「そ、そうか!」
そのまま俺達4人は一緒にドラマを見始める。
色々あったけど念願のドラマを見る事も出来た。
助けてくれた義母にドラマが終わったらお礼を言おうと思っていたのだが・・・
「義母さん、本当にありがt・・・」
「婆ああああああああああああああああああああああん!!!!!」
「「うぉぁった?!」」
「えんだあああああああああああああああああああああ!!!!」
「「ひょうぇっ?!」」
この義母の血を間違い無く受け継いだ息子に何度目か分からない溜め息を吐きながら円満な家庭に笑顔を見せるのであった・・・
完
「ん・・・んぁ・・・」
意識がゆっくりと覚醒し目を開くと私は居間に今まで寝ていた事を理解した。
目の前には最愛の妻が腕を組んで立っていた。
「ぁぁ・・・おはようお前」
「おはようお前・・・じゃないわよ!なんでアナタまで寝落ちしてるのよ?!」
そう怒鳴られて昨夜の事を思い出した・・・
毎週金曜の夜11時過ぎからドラマがやっているのだが先月から始まったドラマ『私は『ただいま』と言わせたい』を見たいと妻が言い出したのが始まりだった。
「これよこれ!これね私が愛読しているネット小説が実写ドラマ化されたのよ!」
「へ・・・へぇ・・・」
「小説の方は見たけどこれは是非見たいわ!きっと作者さんの活動報告は大賑わいね!私も書き込んでこなくっちゃ!」
「お、おぅ・・・頑張ってな・・・」
「でも・・・私・・・携帯持ちながら寝ちゃうかもしれないわね・・・」
「なら起こしてやろうか?俺はまだまだ寝るつもりは無いし」
「いいの?」
「別に構わないさ、それにお前がそんなに見たがるって事は面白いんだろ?」
「そうなのよ!奥さんが記憶を失って・・・」
「ちょっちょっと待ってくれ、俺も見たいんだからネタバレは勘弁な」
「もう5話くらい放送したみたいだから今更よ、だけど確かにネタバレはいけないわね。それじゃ午後11時に起こしてくれる?」
「あぁ、任せろ」
「じゃ、おねがいねアナタ~」
そう言って妻は1人寝室に入って携帯をずっと触っていた・・・
そして、いつの間にか寝付いてしまったらしくあの可愛い顔からは想像も出来ない豪音のイビキが発生していた。
「そっか、俺は酒を飲みすぎて寝てしまったのか・・・」
どうにも頭痛がすると思ったら酒の飲みすぎだったらしい・・・
妻には悪い事をした。
ここは素直に謝っておくべきだろう・・・
「お前、本当にすまなかった。来週は、来週こそは起こしてやるから一緒に見よう」
「もぅ、アナタの土下座なんて珍しいから今回はそれで勘弁してあげるわ」
「ありがとうお前・・・」
ゆっくりと両腕を広げて抱き合おうとする二人・・・
「えんだぁあああああああああああああああああああああ!!!!」
「「っ?!?!」」
ビクッと抱き合う直前で声に驚いた二人は視線を向ける。
そこには1人息子が居た。
「あのさ、朝から両親が喧嘩して仲直りして抱き合うのを見せられる息子の気持ちになってくれよ・・・つか飯早くしてくれないと学校遅れるし」
「あっごめんね、今用意するわ」
「はははっすまなかったな」
「まぁずっと喧嘩されるよりかはいいけどさ・・・」
そうしてこの日は平和に過ぎ去っていった。
そして・・・翌週月曜日の夜・・・
「今日こそは見るわよアナタ!」
「おおっ!必ず起こしてやるから安心しろお前!」
「えぇ、それじゃ私はいつものトークルームに行ってくるわ!」
そう言って妻は寝室へ移動した。
俺は今日は酒を飲むのはドラマが始まってからにしようと考えのんびりと新聞を読みながら居間に腰を下ろすのであった・・・
ちなみに1人息子は既に自分の部屋に戻っていたのでこの場には居なかった。
「アナタ!ちょっとアナタ起きて!!!」
「んっんがぁっ?!」
妻の怒声に気付き目を開くと居間の天井が視界に入った。
その横に覗き込むようにしている妻の顔・・・
そして、全てを思い出した!
「おぁっ?!今は何時だ?!」
「もう深夜3時よ・・・今週もまた駄目だったのね・・・」
「そうか・・・すまない、本当にすまなかった・・・」
「もぅ、私も寝ていたんだからお相子よ・・・」
「いや、俺はちゃんと起きてるつもりだったんだ・・・それなのに・・・本当にすまない・・・」
泣きながら俺は頭を下げた。
2週続けて寝落ちするなんてもう年なのかもしれない。
せめて時間に目覚ましをセットでもしていれば・・・
そう考えると頭痛がして頭に手をやる・・・
「んっ?これなんだ・・・?」
頭を触るとそこにはタンコブが出来ていた。
こんな場所をぶつけた記憶は全く無いのだが・・・
触るとズキンッと痛みが走り目から星が見えた。
「あら?どうしたの?」
「ん?いやな、なんか痛いと思ったらタンコブがいつの間にか出来ててな・・・」
「ふーん、あっもしかしたら寝落ちした時に倒れこんでぶつけたのかもね」
「あぁ、それならありそうだな」
「もぅ、大丈夫なの?」
「あぁ、心配掛けたなお前」
「あなた・・・」
「おまえ・・・」
「えんだあああああああああああああああああああああ!!!!」
「「ってうぉぉおおおお?!?!」」
突如現れた息子がそこに居た。
眠たそうに目をパチパチとしながらゆっくりと歩いて台所へ行ってお茶を飲んで戻ってきた。
「喉が渇いたから飲みに来ただけだから・・・俺の事は気にせずにどうぞ続きを」
そう言って息子は出て行った。
それを見送り二人して笑いながら寝室に入るのであった。
月曜日の仕事が終わり今日こそは寝ずに妻を起こして一緒にドラマを見る!
そう決意した俺は寝ても大丈夫なように携帯のアラームを番組放送開始の10分前にセットした。
「これでよし!」
何度も携帯電話をチェックして番組放送前に寝たとしても起床出来る様にして俺は座ってテレビを見る事にした。
アルコールは飲まない、3度目の正直と言うヤツだ。
だがこれと言った番組もやっておらず適当にチャンネルを回しながら俺はその時を待つのであった・・・
「父さん、父さん、風邪引くぞ」
「んっ?んぁぁ?!」
体を揺すられて目を覚ました俺は目の前に息子が居るのに驚いた。
またいつの間にか寝てしまっていたらしい・・・
また痛む頭を押さえながら時間を確認すると・・・
「午前1時・・・なんてこった・・・」
「どうかしたん?」
「いや、母さんとドラマを見る約束していたんだが寝過ごしてしまったみたいでな」
「ふーん・・・まぁもう寝るからまた明日~」
「あぁ、おやすみ」
ズキズキと痛む頭を撫でながら携帯をチェックすると・・・
「そんなバカな・・・解除されているだと?!」
携帯のアラームは手動で解除しないとスムーズと言って数分後に再びなるように設定されている。
それが解除されていると言う事はちゃんと操作をして解除を行なったと言う事に他ならない。
それも寝惚けながら操作をしたとしてもアラームは3つセットされていたのだ。
つまり寝惚けながら3つ共順番に解除して再度寝たと言う事になる・・・
「そんな筈は無いだろ・・・」
自問自答、答え出ない事であるが違和感しか残らない事実に混乱する。
携帯を操作しながらドラマはもう見逃したので妻には朝謝罪するとしてメールチェックをしている時であった。
「なんだこれ?」
それは自撮り動画であった。
ファイルの一番新しい所に動画が残されていたのだ。
落ち着いて携帯を操作してその動画を再生すると・・・
『よし撮影オッケー!現在時刻は11時ジャスト、今日はしっかり起きてましたよ~さて起こしてくるか・・・』
そう言い残して立ち上がって妻を起こしにいく俺・・・
動画は1分しか撮影できないみたいでどんどん残り時間が短くなっていく・・・
そして俺は妻の手を引きながら戻ってきた。
『さぁ今日こそはドラマが見れるぞお前・・・』
そこまで言った俺の背後に立っていた妻の表情に驚いた。
能面と言えば分かると思うが無表情にも関わらず口と目の部分が穴になった様な顔をしていたのだ。
そして、俺の直ぐ後ろで妻はいつの間にか手にしていた棒状の物を振り上げて・・・
動画はそこで終わっていた。
「な・・・なんなんだこれは・・・」
後頭部に痛みを覚えるその部分を擦るとまるでそこを叩かれた様にコブが出来ていた。
俺は恐ろしさに振るえ、妻が寝ている寝室に向かわずにそのまま居間で横になって眠るのであった。
「アナタ!ちょっとアナタ起きて!!!」
「ん・・・んん・・・」
妻に揺すられ目を覚ますが俺はあの動画の事が忘れられず妻がドラマが見れなかったと叫ぶ声を無視して携帯を手に取った。
「ちょっと、アナタ聞いてるの?!」
「なぁお前・・・昨日の夜の事・・・覚えてるか?」
「えっ?昨日の・・・よる・・・?」
不思議そうな顔をする妻に俺は携帯に残っていた動画を再生して見せる事にした・・・
見る見る真っ青になる妻の表情、俺は何も言わず妻の返事を待っていた。
すると妻は突然自分の携帯電話を取り出して電話をかけ始めた・・・
「もしもし母さん?うん、あたし・・・実は・・・」
突如電話をし始めた妻を何も言わずに見詰める俺・・・
いつの間にか横には息子が来ており無言で朝食を食べていた。
「うん・・・分かった。今夜ね」
電話が終わったのを見計らって息子が声を掛けた。
「婆ちゃん来るの?」
「うん、今夜来てくれるって」
そう言う妻の少し悲しそうな表情が気になりながらも仕事に行く時間が近付いていたので急いで着替えて朝食を食べて仕事に行くのであった。
そしてその夜。
家に帰った俺を待っていたのは儀式であった。
「アブラカタブラ・・・痛い娘痛い娘飛んでいけー!」
部屋に入った俺を待っていたのは魔女の様な服装に着替えた義母と大量のろうそくが立てられ床に魔法陣が描かれた中央に妻が座っていた。
そう言えばアブラカタブラって呪文はヘブライ語でabreq ad habra と書かれて『雷石を投げて死に到らしめよ』と言う意味だったな・・・
そんなどうでも良い豆知識を思い出しながらその光景を眺めていたら・・・
「ヴァシルゥウウウラァアアアアアアアアアアアア!!!」
義母がご近所迷惑を考えず叫び声を上げた。
すると妻の体がビクビクッと震えたと思ったら何故か俺の体が持ち上がり天井に激突した!
「ぐべぇ?!」
そのまま今度は重力に逆らわずに床に落下し俺の意識は闇に沈んだのであった。
「アナタ・・・起きてアナタ・・・」
「ん?あぁ・・・お前・・・大丈夫なのか?」
目を覚ますと部屋は片付けられており義母がソファーに座って俺の芋焼酎を美味しそうに飲んでいた。
ズキズキと痛む頭を擦りながら体を起こすと義母が話し始めた。
義母によると俺の体に記憶喪失になった妻に離婚された男の霊が取り付いていたらしくそれの除霊を見様見真似でやってくれたらしい・・・
「そ、そうなのか・・・それで・・・」
「うん、無事に除霊出来たって」
まるで信用できないが確かに体が少し軽くなった様な気がする。
そんな俺の様子を気にして見詰めてくれる妻の顔が気付けば直ぐ近くに在った。
少し愛する妻の顔に恥ずかしくなり視線を反らした時であった。
「婆ぁああああああああああああああああああん!!!!!!」
突如叫んだ義母に驚いて俺と妻は抱き合って立ち上がってしまった!!!
「えんだあああああああああああああああああああああ!!!!」
更に追い討ちと言わんばかりに背後にいつの間にか立っていた息子が叫び声を上げて二人して抱き合ったまま転倒してしまう。
「おやおや、仲が良いようで関心関心」
「婆ちゃん二人共いつもこんな感じだよ」
ケラケラ笑う義母と息子の様子に溜め息を吐きながら立ち上がると義母がリモコンを操作した。
するとテレビにいつの間にか接続されていた義母のHDが再生され妻が見たがっていたドラマの第1話が始まった。
「えっ?あれっ?」
「お母さんもね、好きで全部録画してくれてたみたいなの」
「そ、そうか!」
そのまま俺達4人は一緒にドラマを見始める。
色々あったけど念願のドラマを見る事も出来た。
助けてくれた義母にドラマが終わったらお礼を言おうと思っていたのだが・・・
「義母さん、本当にありがt・・・」
「婆ああああああああああああああああああああああん!!!!!」
「「うぉぁった?!」」
「えんだあああああああああああああああああああああ!!!!」
「「ひょうぇっ?!」」
この義母の血を間違い無く受け継いだ息子に何度目か分からない溜め息を吐きながら円満な家庭に笑顔を見せるのであった・・・
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