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第91話 全てはデスゲームの中

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異世界ノア。
それは坂上竜一が死んで転生した世界。
この世界の住人全てが周知している世界特有のルール。
それが淘汰。

1000年に一度神が降臨し世界に住む生きとし生けるものを滅ぼし文明をリセットすると言う。
赤子に転生し17歳の誕生日を迎えた竜一はその日そこに居た。

「これだけか?」
「あぁ、他の者は運命だと受け入れるそうだ」

黒髪の少女、魔王リリンは見た目は少女だがその年齢実に999歳。
1000年に一度世界を淘汰する神によって消滅し新たに無から生誕する魔王である。
向かう合うのは人間の国王ロッツォ。
魔王軍10000に対して人間は僅か100人足らずであった。
そして、その中に竜一は居た。

「眉唾だけど相手が単独で近付いて意思疎通ができれば勝てる可能性があるんだろ?」
「はい、問題は近づけるかどうかですが・・・」

話しかけるのは冒険者ギルドのギルドマスタージタン。
長い白髭がトレードマークの彼は数少ない竜一が生まれた時から持つユニークスキル『デスゲームメーカー』を知る者だ。
他の者の命か竜一が蓄えたポイントを消費して竜一が作り上げた世界へ対象を送り込んで決められた条件化で死のゲームを強制する能力。
事実、竜一はこのスキルを使って天災級と呼ばれる知恵を持つ魔物を倒した実績があった。
この世界へ転生してから耳にタコができるほど繰り返し聞かされたノア暦1000年のその日に死がやってくる。
その死に抗う為にこの日まで延々とポイントを為ながら神を殺すデスゲームを試行錯誤して作り上げてきたのだ。

「そろそろ時間だ。皆の者・・・我等の時代でこの淘汰を終わらせるぞ!」

ロッツォ国王が告げる言葉に誰もが声を出さず心臓に手にした武器を握る手を当てる。
ある者は剣を、またある者は弓を・・・
この世界の敬礼である。

「ふふふ・・・もしも淘汰を回避出来る者が居たのであれば私もこの身を捧げても構わん!」
「「「「うぉぉぉぉおおおおお!!!!」」」」

魔王リリンの言葉に魔者達も歓声を上げる!
魔族と人間が共に手を取り合うのは淘汰を僅かに生き残った者が残す記録によれば毎回の事らしい。
そして、その世界に記録された歴史書には神の存在について様々な事が残されていた。

曰く、全物理攻撃を無効にして全魔法攻撃を無効にして力在る者の全てを見通し無限の攻撃方法で一方的に蹂躙すると・・・
まさに全知全能と言う言葉が相応しい神と呼ばれる存在。
そして、そいつは遂に姿を現した。

「来たか!」

魔王リリンがいち早くそれを察知して合図を送る!
それと同時に一斉にそれへ向かって魔法が飛び道具が襲い掛かる!
空を埋め尽くすほどの物量が向かった先に突如として現れたのは虹色の球体であった。
大きさは半径3メートル、丸い虹色のそれは突然そこに現れて浮かんでいた。
そこへ着弾する魔法と飛び道具の数々・・・
地面が揺れる程の爆発と衝撃が周囲に広がるがその球体は何事も無かったかのようにその場に浮き続けていた。

この世界の最大の破壊力と思われるそれが当たっても全く変化の無い様子に誰もが唖然とした時であった・・・
横に光のラインが球体から走った。
危険を事前に察知出来た者は身を屈めて避けたのだがその一瞬の光でその場に居た9割の者が胴体を切断され切れた部分から一気に蒸発していく・・・
まさに一方的な殺戮・・・
そして、球体の表面に顔が浮かび上がった・・・

「何度繰り返しても無駄な事を繰り返す愚かな者達よ、これより淘汰を開始する・・・これは救いの死である」

その瞬間球体から波動が広がった。
物凄い速度でそれは面で広がり回避する事は不可能。
そして、それが通過した生物の上部にカウントが表示される。
竜一はそれを見て気付いた。

「死の宣告かよ・・・」

そのカウントが0になると共に死が世界中の生き物に訪れる。
きっとあの波動は世界を全て巡るのだろう・・・
攻撃も効かず余命が肉眼で確認できるようになった者達は絶望にへたり込む。
その様子を見詰め続けている球体に向かって一人の男が歩みを進める・・・

「愚かな・・・いや、お前はこの世界の者では無いな?・・・異世界転生・・・中々面白い人生を歩んでいるようだな」

そいつは竜一に向かって語りかけてきた。
抵抗を止めて死を待つだけの者へ語りかけるのは歴史書にも残っていた通りである。
竜一は焦らず一歩ずつ歩みを進めて球体の前まで歩いて進んだ・・・

「神様か・・・名前を聞いてもいいですか?」
「名前・・・そうだな・・・万物の存続を否定する者として過去に『否万』と書いて『イナバン』と呼ばれた事はあったな」
「それではイナバン様、この淘汰を止めるには一体どうしたら良いのですか?」

それはイナバンも予期しなかったのであろう、無表情になった後突然笑い出した。

「いや、人間と言うモノは本当に面白い!過去に我に問いをしてきた者は居なかったぞ」
「俺は・・・いえ、僕はこの世界に転生して今まで暮らして来ました。良い事ばかりではなかったですがそれでもこのノアが大好きなのです。なんとか淘汰を止めていただけませんでしょうか?」
「残念ながらそれは出来ぬ相談だ。何故ならばこれは世界に課せられたルールであり執行する私が全てだからだ」
「そうですか・・・分かりました。それじゃあ俺は最後まで抵抗させてもらいます!」

その言葉を受けた瞬間イナバンは竜一の存在に危機感を一瞬覚えた。
死を待つだけの下等な1人の人間と言うだけの存在に感じさせられた今まで感じた事の無い威圧の様な物に一瞬反応が遅れたのだ。
それがイナバンの命運を分けた。

「デスゲームメーカー発動!」

竜一の言葉が聞こえると同時にイナバンと竜一は世界から忽然と姿を消す・・・
それは竜一が数年掛けて作り上げた全く新しいデスゲーム。
元の世界をベースに作り上げられた世界を見下ろす形でイナバンと竜一は向かう合う。
そして、それぞれの脳内にそれは響き渡る・・・
竜一の脳内には・・・

『記憶を失い別人となった状態で殺し合い死亡せよ…LIFE1』

そして、イナバンには・・・

『相手を殺さずにデスゲームの中だと認知せよ…LIFE∞』

それが聞こえると共に竜一の体は女学生・・・まなみとなった。
一方イナバンは球体の体をウサギの着ぐるみの中に収め顔だけ出す姿となった。
これは竜一が作り上げたデスゲーム。
ありとあらゆるイナバンが記憶を取り戻せる要素を含んだ世界。
神であるイナバンが圧倒的に有利であるその理由が、イナバンにはこのデスゲーム内の過去未来全てを見通せる目が在り、まなみになった竜一を殺しあった上で自分が殺す以外の方法では負ける事は無いと言う条件。
しかも竜一の勝利条件に、『別人となった状態で』とある以上イナバンがこの世界のまなみの正体に気付いたらその時点で終わるのだ。
そして、この世界で唯一まなみだけが苗字を持っていない事、世界に記された竜一の『あらすじ』を読む事、自らが死神ではなく淘汰の神である事を示す力の数々・・・
切欠は幾つもある、だが竜一はこのデスゲームの中で仕組んだのだ。

自らが生きた前世の世界の記憶を限りなく再現し登場する人物も竜一の記憶の中の人物を再現した。
それは自分が同級生に殺された事すらも内容に含めるまさに狂気の沙汰であった。
そして、幾重にも積み重ねられた物語の末に逆転勝利をさせる事でまなみの名を認知したイナバンの意識を反らしたのだ。
竜一は知っていたのだ。
他者を騙す時は嘘の中に真実を幾つも混ぜる事でバレ難くなると言う事を・・・








「思い出したようだね?」
『そん・・・な・・・』

まなみの姿が異世界で育った竜一の姿に変化する。
だがその実体はそこには無い、これは竜一がイナバンに勝った時の為のエンディングとしてデスゲームに組み込んだモノなのだ。

『だ・・・だが私は神だ!どうやってもお前は私を滅ぼす事は出来ないぞ?!』
「イナバン・・・君は神だから死ぬ事は無い・・・けどさ、さっき聞こえただろ?『END』って。教えてあげるよ、終わったゲームの世界はそこで終わりなんだ。その先には何もなく時間も何もかものが停止した世界となる・・・もしもイナバンがこの世界に気付いていたら俺がここに永遠に残されると言うリスクがあったんだ」

竜一は遠い目をして語る・・・
幾度も幾度もデスゲームを組み上げては失敗を繰り返し、淘汰のその日まで延々とポイントを使い続けて作り上げたこのデスゲームだからこそイナバンに勝利できたのだ。

「それじゃそろそろお別れだねイナバン・・・いや、淘汰の神よ」
『私は消えない!永遠に消えない私はいつの日かあの世界へ帰る!絶対にだ!』
「そうかい?じゃあ頑張って・・・」

その言葉と共に竜一の姿は消えた。
止まった世界に残されたイナバンの雄叫びが響くのだがそれに反応を示す者は何処にも居なかった・・・
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