上 下
29 / 92

第29話 回生起死のデスゲーム

しおりを挟む
悪魔、それは人の中に紛れて存在する種族。
本来魔力の少ない人間とは違って豊富な魔力を持つ彼等は人間には使えない様々な魔法が使える。
そのせいもあり人間にとって危険な存在と認知されていた。
俗に言う悪魔狩りと呼ばれるモノが行なわれ大まかな悪魔は狩り尽くされていた。
それでも人間との間に子を宿す事が出来る種族な彼等はその血を薄くし人間の中へ紛れ込み生活を行なっていた。
そこに本来居た人間に成り代わる事で・・・

『リリン・・・我が娘・・・』
「本当に・・・お父さんなの・・・」

周囲には死体が転がり生きている人々は恐怖に震える中、2人は一定の距離を保ったまま向かい合う。
しかし、悪魔である父親は娘の中に悪魔の血が感じられない事に非常に残念な気持ちで一杯であった。

『すまないな、今まで黙ってて。お前には悪魔の血が全く宿っていないみたいだ・・・』

父親は一歩リリンに近付く。
それはリリンが悪魔と母親との間に作られた子供だと言う証言。
だがその目に宿るには優しさではなく石ころを見詰めるような視線。

『この村の人間は母さんを殺したんだ。生かしておく必要があるか?』

リリンは一歩下がる、父親の声では在るがその姿は人間ですら無いのだ。
恐怖からか小さな手は震えていた。

『そして、リリン・・・直ぐに母さんと同じところへ送ってあげるよ・・・』

その手がリリンに向けて開かれる。
わが子を手にかけると言うのは人間にとっては禁忌、だが悪魔にとっては自らの血が宿ってなければただの人間なのだ。
自らが愛した女性を殺した人間の仲間と言う感覚でしか自分の娘を捕らえていない悪魔は手に魔力を込める。
その手に炎の塊が出現しそれがリリンに向けて放たれようとしていた。

『さようなら我が娘・・・』

誰もそれを止める者は居ない。
次は自分が殺されると誰もが考えている中、ただ1人縛られている彼だけは歯を食いしばってそれを願った!
その瞬間、村を黒い人影が包囲しデスゲームメーカーが発動する!


男は人の命を使って願いを叶えるこのスキルを二度と使用しないと誓っていた。
だがリリンの危機、そしてこのままでは全員あの悪魔に殺される。
口は布で塞がれて声一つ上げられない状況で出来ることがそれしかなかったと言うのもある。
何もせずにこのまま皆殺しにされるくらいなら・・・
その思いで男は再びそのスキルを発動させたのだ。
発動に使われた命は悪魔に操られて盗賊の頭に噛み付いた奴隷の1人。

『本を燃やせ・・・LIFE1』
「な・・・なんだ?!」

その場に居た全員がその声に驚き辺りを見回す。
直ぐにその気配に悪魔は気付いた。
手にしている炎の塊は気を散らした瞬間に飛散し拳を握り締めて周囲を警戒する。
魔力を豊富に持つからこそそのありえない周囲の変化に敏感に気付いたのだろう。
そして、最初の悲鳴が上がる・・・

「ギャアアアアアアア!!!!!!!」

それは腰が抜けて倒れこんでいた村の中年男性であった。
悲鳴を上げながら振りほどこうとしているその中年男性の腕にしがみ付いて噛み付いている女性、彼女は中年男性の妻であった。
悪魔の仲間と言われ盗賊に投げられたナイフが額に突き刺さったまま女性は生気の無い顔で呻きながら男性の腕に噛み付いていたのだ。
どう見ても即死している筈の状態であるにも関わらず動いているのだ。
そして、それは次々に立ち上がり始める。

「な・・・なんなんだこれは・・・」

悪魔もその光景に驚きを隠せない。
魔法を使って生きている人間を操り人形にする事は出来る、だが死んだ者を動かすなんて悪魔でも出来ないのだ。
それなのに周囲に立つのは殺されたはずの村人。
そして、死んだはずの自分の妻であった。
まさか生きていた?
そんな考えが頭の中を過ぎりそうになるが妻の血は自分が魔力を回復させるために吸収した。
なので生きているのはありえないのだ。
それなのに彼女は真っ直ぐに立ち上がっていたのだ。

『お・・・お前生きていたのか・・・』

自分が唯一心を許す妻が生きていた。
人ならざる姿になろうとも悪魔は妻の元へ近寄る。
心の底から彼女の事を愛していたと言う事なのだろう。
だが近寄った悪魔に妻は両手を伸ばして口を開き襲い掛かってきた!

『お、おいっ?!』

生気の無い顔で悪魔に抱き付いて首筋に噛み付く妻。
だが本来の姿へ戻った悪魔の皮膚は人間の歯程度では噛み千切れない、それを理解している為に悪魔は抵抗しなかった。
だが・・・

『ぐ、ぐぁああああああああああああ!!!』

悪魔の首筋から吹き出る緑の血、そして驚くほどの強力な力でその手を振りほどく事も出来ない!
再び妻は悪魔の顔面に噛み付いた!
喰い千切られる鼻、悪魔は必死に妻を突き飛ばそうと両手に力を込め足を上げて妻の腹部に押し付けるがまるでビクともしない。
両肩を掴んでいるその指が体にめり込み腕が千切れそうになっていく・・・

『やめ・・・やめて・・・』

魔法を使って逃げようとするのだが魔力が何故か練れず恐ろしいまでの力で悪魔は恐怖のあまりその表情を歪めたまま押し倒される。

『ぐああああああああああああああああああああああ』

飛び散る肉片、周囲が緑色で染まり愛した者に喰われその命を散らす悪魔がそこに居た。
それと共に周囲でも死体に襲われ殺されていく村人と盗賊。
特に盗賊は悪魔に足を埋められ逃げる事が出来ず順に喰われるのを待つだけという悲惨な状況にあった。
そんな中、男の元へリリンが駆け寄ってきた。

「お兄さん・・・お父さんと・・・お母さんが・・・」

言葉にならない、どう説明したらいいのかも分からない現状で頼れるのがもう男しか居なかったのだろう。
縛られている縄を解こうと必死になってくれるが一向に縄は外れない。
そうしている間に1人がこちらへゆっくりと体を揺らしながら歩いてきた。
男はそれを見て恐怖に染まった。
体を食い千切られ埋まった足を引き千切って足首を直接地面に着いて歩いている盗賊の死体であったのだ。
その時、腕を縛る縄が解けて開放された手で足の中を解く!

「逃げるぞ!」
「ひぁっ?!」

リリンを庇いながら男は広場から家と家の間へ駆け込むのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

処理中です...