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第22話 絶望の最下層?

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「くそっ!?次から次へとなんなんだよここは?!」

長髪の盗賊が愚痴を言いながら道先に仕掛けられた罠を回避していく。
足が掛かるように結ばれた不自然な草。
微妙に凹凸のある地面。
左右の壁から不自然に生えた枯れ木。
まるで子供の悪戯の様なそれ事態には大した被害の無い罠。
だが追われて逃げている状態ならそれは凶器になり得る。

「いだっ?!ちくしょ!ふざけんなよ!」

手で不自然に垂れ下がった布を払ったら尖った木屑が刺さっており、それがチクリと手に痛みを与えた。
当然毒が塗られてもいなければ血が出たわけでもない、それが余計にイライラを募らせる。
俺とリリンは一人先に駆けてく盗賊の動きを見て罠を回避していく。
流れてくる溶岩は付かず離れず一定の距離を保ちつつこちらへ向かっていた。
まるで意図的に追い詰めるように…

「おいおい…マジかよ…」

前を走っていた盗賊の足が止まった。
下り続けていた道が突然登りになったと思った先はまるで滑り台の様に急傾斜になっており天井が低いのだ。
道はそこしかなく舌打ちしつつ長髪の盗賊は尻を着いて先に滑り出した。

「えっ…」

俺は迷うことなくリリンを抱き抱えて守るように腹の上に寝かせた。
驚いたリリンが声を上げたが迷うことなく坂を滑り降りた。

「ひやぁぁぁぁぁぁ!?!?」

胸元でリリンが悲鳴を上げるがこっちはそれどころではない、背中が擦れて削られていくのが分かる。
既に着ていた服の背中部分は破れ坂を血がコーティングしているのを想像しながら痛みに耐え続けた。

「ぐあっ?!」

尻餅を付いて少しの段差を放り出された。
背中が焼けるように痛いが後ろから溶岩が流れてくるのを考え立ち上がる。

「あっ…」

今の今までリリンは俺の胸にしがみついていたのに自ら気付いて立ち上がった俺から体を離した。
だが余程怖かったのか左手が俺の体から離れない。

「なんとか生きてるみたいだな、良かった」
「…うん」

明らかに様子がおかしくなりつつあるリリンだが今はそれよりも先へ進まないと…
そう考えた俺達はそれを見て真っ青になる。
周囲に壁はなく半径10メートルにも満たない小さな丸い場所に自分達は立っており目の前にある棺のような物に長髪の盗賊が入ろうとしていたのだ。

「はははっ悪いな!神の仰った通りだ!周りは崖、つまりここが最下層でLIFE1、つまり助かるのは一人のみって訳だ。悪いが俺はまだ死にたくないんでね、その娘はお前にやるよじゃな」

そう言って持ち上げたドアのような構造の棺の蓋を長髪の盗賊は閉めた。
その光景を唖然と見ていた二人の背後からドバァと溶岩が溢れ出る!
俺はリリンを抱き上げて端にまで下がった。
足を溶岩に焼かれても持ち上げていればリリンは助かるかもしれない。
そんな無茶苦茶な事を考えるほど切羽詰まった状況の中、抱き上げたリリンが俺の顔を両手で挟んだ。
そして、見つめ合う…

「もう…いいですよ…」

泣きそうなその顔を見て俺は笑顔を見せる。
背中から流れた血が俺達と長髪の盗賊が通った後を残す床を溶岩が塗り潰していく。
熱い…
熱が離れていても肌を焼いていく。
広がるように流れる溶岩が床を塗り潰し徐々に迫ってきて俺はリリンに一言…

「ごめんな…」

そう告げて俺はリリンを抱き抱えたまま後ろの崖下へ飛び降りた。
運が良ければ俺の体がクッションになって彼女は助かるかもしれない。
落下しながら『上から降ってきた溶岩が降りかかったら結局二人とも助からないな』と考えて小さく笑うのであった。
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