上 下
6 / 92

第6話 生存へのか細い道

しおりを挟む
『生存せよ…LIFE1』

頭の中で聞こえたその言葉に坂上は違和感を覚える。
それはゲームをよくやる坂上だからこそ気付いた違和感。
人の声ではなく機械で作られた台詞でナレーションを想像させた。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…」

頭の上で白根さんが泣きながら謝り続けていた。
チラリと顔を見ると自分を見ることなく目を閉じ続けているのに再び違和感を覚える。

「もう関わらないって決めてたのに…また巻き込んでしまって…」
(また?)
「しかもこれじゃ…」

泣きながら語る彼女の言葉は最後まで聞き取れない。
腹部の痛みは治まるどころか酷くなる一方で立ち上がる事すら困難なのは目に見えていた。
全身から吹き出す粘った汗が背中を濡らし横たわったまま呼吸すらも辛い…

「さぁそろそろ俺の相手もしてくれよ」
「ぃゃ…」
「聞こえねぇよ」

白根さんの腕が誰かに掴まれて連れていかれた。
声からして石崎だろう…
ドサリとマットに押し倒された様な音が響き意識が薄くなっていく…

「まなみのヤツは最近抵抗しなかったから新鮮でいいぜ」

まなみ…確か自分と共に酷い目に遇わされていた女生徒の名前だったか…
首を動かすのも辛い坂上の耳に飛び込んできた会話に勝手な想像を膨らませる。
寝れば痛みから一時的に解放されると薄まる意識が夢を見始めていたのだ。

この時、既にプレハブ内には煙が充満しつつあった。
煙は空気よりも軽かった為に坂上がその煙を吸うより早く他の3人が倒れ始める…
その音で坂上はボヤける目を見開いた。
同時に腹部から伝わる激痛が意識を覚醒させる!

「なん…だこれ…」

自分のすぐ上まで煙が充満し部屋を埋め尽くしつつあったのだ。
ゲーム脳、そんな言葉が似合うように坂上の思考はこの極限状態に覚醒した。

まだだ…まだ俺は終わってない…

痛みのせいで大きく動くことは不可能だが少しなら動けることを坂上は確認する。

なにか…助かる方法を…

そして、坂上はそれに気付いた。
一瞬躊躇したが汚いといった感情よりも生きる意思が上回ったのだ。
必死に体を動かしほんの数センチだが顔をそこへ持っていくことに成功した。

(オエエ…くせぇ…けど…)

両手でそれを包み込むように隙間をなるべく作らない様にして坂上は足洗場の排水口に張り付いたのだ。
幸いだったのは、その排水口がUの字で逆流を防ぐ形ではなく垂直に下水に落とす形だった事であろう。
下水の悪臭に包まれた空気を吸い込んだことで吐き気や内蔵が拒絶反応を示すが必死に坂上はそれを圧し殺した。
込み上げる酸っぱいものを何度も飲み込みながら目を必死に閉じた坂上。
視界が煙で真っ暗になり何も見えない中、坂上は夢を見た。

本に囲まれた部屋で数名の人間が上半身を失った死体の前に立ち尽くす。
自分は泣く少女に何かを告げて…
一冊の本を探し始める…
そんな俺の腕にしがみつくようにして止めようとする少女の顔が視界に入り…

『白根さん?!』

声にならない声と共に口をパクパクさせて目を開いた坂上の視界に飛び込んできたのは薄暗い部屋で身体中に管や装置が取り付けられていた。
動かない体を動かそうとするが神経が繋がっていないかのように何の反応も返ってこない。
指先ひとつ動かせないが現状を理解しようと目だけ動かした時にそいつは現れた。

『コングラッシュレーション!』

漆黒のマントを羽織った骸骨。
そいつがカタカタと口を動かしながら話し掛けてきた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

欠損奴隷を治して高値で売りつけよう!破滅フラグしかない悪役奴隷商人は、死にたくないので回復魔法を修行します

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
主人公が転生したのは、ゲームに出てくる噛ませ犬の悪役奴隷商人だった!このままだと破滅フラグしかないから、奴隷に反乱されて八つ裂きにされてしまう! そうだ!子供の今から回復魔法を練習して極めておけば、自分がやられたとき自分で治せるのでは?しかも奴隷にも媚びを売れるから一石二鳥だね! なんか自分が助かるために奴隷治してるだけで感謝されるんだけどなんで!? 欠損奴隷を安く買って高値で売りつけてたらむしろ感謝されるんだけどどういうことなんだろうか!? え!?主人公は光の勇者!?あ、俺が先に治癒魔法で回復しておきました!いや、スマン。 ※この作品は現実の奴隷制を肯定する意図はありません なろう日間週間月間1位 カクヨムブクマ14000 カクヨム週間3位 他サイトにも掲載

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

処理中です...