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楽園へのトンネル 第7話
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「ま・・・待って下さい!」
マイケルは焦りを覚え恐怖しながら水の中へ足を踏み入れる。
片側2車線と言う横幅の有るトンネルなのでホリーが食われている場所まで僅か数メートルしかない。
現状トニーが渡り切り、キャシーとミランダも無事に渡った事で今なら大丈夫だと理解したのだ。
とは言え音を大きく立てればあの魚は間違いなく自分を襲う。
誰もが勿論死にたくはない、だが彼等はここへ辿り着くまでに数多くの仲間を見捨ててきた。
それが自分が生き残り、全滅しない為に必要だと理解して・・・
だから自分の番が回ってきたとしても仕方が無い、それは必要な犠牲だからである。
だが、マイケルは・・・マイケルだけは違った。
「ひっ?!」
横で魚たちがホリーを喰らう音が徐々に小さくなっている事から喰い終わるのは時間の問題なのを理解したマイケル。
焦りから急いでしまったのだ。
丁度地面が陥没しているのか、一番深い場所では50センチ程の深さの所に差し掛かった時に手が水面に触れ大きく波紋が広がる。
海や川、プールなどで水中に歩いて入った事の有る者なら分かると思うが、陸から水中に徒歩で侵入する際には体に掛かる負荷が特殊に掛かる。
理由は簡単、水中には水圧等の負荷が掛かり普段は重力が全身に一定の力で掛かっている状態なのに対し、下半身のみ浮力が働く事でそれが発生するのである。
スポーツ選手が体を鍛える為に水中を使うというのはこれを用いる為であるのはよく聞く話だろう。
特に普段負荷が掛かり続ける筈の下半身よりも、水面から出ている部位に重点的に重力が働きバランスを保つために使われる筋肉が普段と違う部位になる事もこれの一端である。
様は半身浴の様な状態で移動をすると言うのは予想以上に難しいという事である。
しかもそれが焦った状態であれば尚更、思った通りに進まない下半身、先を急ごうとする上半身・・・
結果は言うまでも無いだろう。
「うわっ?!うわっ!?」
前のめりになったマイケルは慌てながらも必死に足を動かす。
平常時であれば簡単に体制を立て直せる程大した事ない変化であったが、今のマイケルにとっては十分であった。
そもそも神の言葉を信託として受け取り伝える事が出来る自分を特別だと普段から考えていたマイケル。
自分は有象無象の他者とは違い、生き残る価値がある人間だと考えていたのだ。
だからこそ他者がどれ程死のうが自分の為ならば仕方ないと思っていた節があった。
ここまで共に旅をしてきたというのに、その身を危険に晒す事に慣れていないのだ。
だから見なければいいのに、彼は水面を見てそれに気付く。
急いで前へ進めば間に合うであろう場所で足を止め、こちらへ一斉に迫る魚たちをその目で見てしまったのだ。
「く、来るな!来るなぁああああ!!!」
躊躇、それは僅かな時間であっても混乱を引き起こし思考を停止させる。
トップレベルのアスリートが不必要な事を考えない様に運動をするように、人は違う事に思考を費やすと動きが鈍る。
間に合う筈の事象が間に合わなくなるのである。
結果、慌てて水を渡り切ろうと動いた事で大きく水面は揺れマイケル目掛けて一斉に魚達が襲い掛かってきたのだ!
「ひっひぎぃいいいいいいいいいいいいい!??!!?」
右脚に走る激痛、だが既に前に出した左足は水面から脛が出ており激痛に悲鳴を上げながらマイケルは足を前へ出した!
水中から出た右足の足首、そこに3匹程の魚が食らいついており肉を噛み千切り地面に落ちてビチビチと魚は跳ねる。
直ぐに残った左足に食らいつこうと襲い掛かる魚から逃げる様にマイケルは駈け出す。
食いちぎられた右足首から流れた血が更に魚を呼び寄せるが伸ばした手を引っ張られマイケルは助かった。
「あ、ありがとう・・・ありがとう」
「ちょっちょっと泣かないでくださいよ・・・」
その手を引っ張ったのはキャシーであった。
水面から出た事で安堵し座り込むマイケルはキャシーの前で跪きお礼の言葉を繰り返す。
だがそんなマイケルをキャシーは見ずに、その視線を水の端へ向ける。
ホリーが魚に食い殺された方向をジッと見ていたのだ。
だからそれに気付くのが遅れた。
いや、お礼を言い続けるマイケルの声も邪魔だったのだろう・・・
「・・・げろ・・・キャシー逃げろー!!!」
繰り返し告げられた声に気付き振り返ったその瞬間、キャシーの目の前には絶望が広がっていた。
巨大な口、左右に開いたそれはローゼンメイデンの様な拷問器具を想像させる・・・
黒く大きな謎の生物、それが腹を左右に開いてキャシーに迫っていたのだ。
トニーが横の車の上に避難して叫んでいたのだが耳に入っていなかったキャシー・・・
そして、勢いよく左右から閉じられる口・・・
無数の剣山の様な口内に一瞬にして挟まれたキャシーは声を上げる暇も無くその姿を消す。
「えっ・・・?」
頭を垂れていたマイケルは突然ビクンっと震えたキャシーの手の反応に顔を上げた。
そして、見る・・・目の前で閉じられた歯の様な物から生えるキャシーの右腕・・・
目の前から聞こえる肉が潰れ砕かれる咀嚼音。
それが一体なんなのかは理解できない、だがマイケルの耳にトニーの『逃げろ』と言う言葉が聞こえ慌てて立ち上がり横へ走り出すマイケル。
「あぐっ?!」
だが同時に先程まで感じていなかった右足首の痛みに顔を歪め、左足だけで跳ねる様に距離を取ろうとするマイケル。
その後ろで再び開いた口の中へキャシーの残った腕も飲み込まれ噛み砕かれる音を耳にしながらマイケルは近くに在る車の裏へと逃げるのであった・・・
マイケルは焦りを覚え恐怖しながら水の中へ足を踏み入れる。
片側2車線と言う横幅の有るトンネルなのでホリーが食われている場所まで僅か数メートルしかない。
現状トニーが渡り切り、キャシーとミランダも無事に渡った事で今なら大丈夫だと理解したのだ。
とは言え音を大きく立てればあの魚は間違いなく自分を襲う。
誰もが勿論死にたくはない、だが彼等はここへ辿り着くまでに数多くの仲間を見捨ててきた。
それが自分が生き残り、全滅しない為に必要だと理解して・・・
だから自分の番が回ってきたとしても仕方が無い、それは必要な犠牲だからである。
だが、マイケルは・・・マイケルだけは違った。
「ひっ?!」
横で魚たちがホリーを喰らう音が徐々に小さくなっている事から喰い終わるのは時間の問題なのを理解したマイケル。
焦りから急いでしまったのだ。
丁度地面が陥没しているのか、一番深い場所では50センチ程の深さの所に差し掛かった時に手が水面に触れ大きく波紋が広がる。
海や川、プールなどで水中に歩いて入った事の有る者なら分かると思うが、陸から水中に徒歩で侵入する際には体に掛かる負荷が特殊に掛かる。
理由は簡単、水中には水圧等の負荷が掛かり普段は重力が全身に一定の力で掛かっている状態なのに対し、下半身のみ浮力が働く事でそれが発生するのである。
スポーツ選手が体を鍛える為に水中を使うというのはこれを用いる為であるのはよく聞く話だろう。
特に普段負荷が掛かり続ける筈の下半身よりも、水面から出ている部位に重点的に重力が働きバランスを保つために使われる筋肉が普段と違う部位になる事もこれの一端である。
様は半身浴の様な状態で移動をすると言うのは予想以上に難しいという事である。
しかもそれが焦った状態であれば尚更、思った通りに進まない下半身、先を急ごうとする上半身・・・
結果は言うまでも無いだろう。
「うわっ?!うわっ!?」
前のめりになったマイケルは慌てながらも必死に足を動かす。
平常時であれば簡単に体制を立て直せる程大した事ない変化であったが、今のマイケルにとっては十分であった。
そもそも神の言葉を信託として受け取り伝える事が出来る自分を特別だと普段から考えていたマイケル。
自分は有象無象の他者とは違い、生き残る価値がある人間だと考えていたのだ。
だからこそ他者がどれ程死のうが自分の為ならば仕方ないと思っていた節があった。
ここまで共に旅をしてきたというのに、その身を危険に晒す事に慣れていないのだ。
だから見なければいいのに、彼は水面を見てそれに気付く。
急いで前へ進めば間に合うであろう場所で足を止め、こちらへ一斉に迫る魚たちをその目で見てしまったのだ。
「く、来るな!来るなぁああああ!!!」
躊躇、それは僅かな時間であっても混乱を引き起こし思考を停止させる。
トップレベルのアスリートが不必要な事を考えない様に運動をするように、人は違う事に思考を費やすと動きが鈍る。
間に合う筈の事象が間に合わなくなるのである。
結果、慌てて水を渡り切ろうと動いた事で大きく水面は揺れマイケル目掛けて一斉に魚達が襲い掛かってきたのだ!
「ひっひぎぃいいいいいいいいいいいいい!??!!?」
右脚に走る激痛、だが既に前に出した左足は水面から脛が出ており激痛に悲鳴を上げながらマイケルは足を前へ出した!
水中から出た右足の足首、そこに3匹程の魚が食らいついており肉を噛み千切り地面に落ちてビチビチと魚は跳ねる。
直ぐに残った左足に食らいつこうと襲い掛かる魚から逃げる様にマイケルは駈け出す。
食いちぎられた右足首から流れた血が更に魚を呼び寄せるが伸ばした手を引っ張られマイケルは助かった。
「あ、ありがとう・・・ありがとう」
「ちょっちょっと泣かないでくださいよ・・・」
その手を引っ張ったのはキャシーであった。
水面から出た事で安堵し座り込むマイケルはキャシーの前で跪きお礼の言葉を繰り返す。
だがそんなマイケルをキャシーは見ずに、その視線を水の端へ向ける。
ホリーが魚に食い殺された方向をジッと見ていたのだ。
だからそれに気付くのが遅れた。
いや、お礼を言い続けるマイケルの声も邪魔だったのだろう・・・
「・・・げろ・・・キャシー逃げろー!!!」
繰り返し告げられた声に気付き振り返ったその瞬間、キャシーの目の前には絶望が広がっていた。
巨大な口、左右に開いたそれはローゼンメイデンの様な拷問器具を想像させる・・・
黒く大きな謎の生物、それが腹を左右に開いてキャシーに迫っていたのだ。
トニーが横の車の上に避難して叫んでいたのだが耳に入っていなかったキャシー・・・
そして、勢いよく左右から閉じられる口・・・
無数の剣山の様な口内に一瞬にして挟まれたキャシーは声を上げる暇も無くその姿を消す。
「えっ・・・?」
頭を垂れていたマイケルは突然ビクンっと震えたキャシーの手の反応に顔を上げた。
そして、見る・・・目の前で閉じられた歯の様な物から生えるキャシーの右腕・・・
目の前から聞こえる肉が潰れ砕かれる咀嚼音。
それが一体なんなのかは理解できない、だがマイケルの耳にトニーの『逃げろ』と言う言葉が聞こえ慌てて立ち上がり横へ走り出すマイケル。
「あぐっ?!」
だが同時に先程まで感じていなかった右足首の痛みに顔を歪め、左足だけで跳ねる様に距離を取ろうとするマイケル。
その後ろで再び開いた口の中へキャシーの残った腕も飲み込まれ噛み砕かれる音を耳にしながらマイケルは近くに在る車の裏へと逃げるのであった・・・
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