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快速殺人電車 第8話

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ぼやけた視界が急にハッキリと見え、口から入り込む新鮮な空気に驚き咳き込んでしまう。

「うぅっげほっげほっ・・・」

電車に足を入れた瞬間に咳き込んだ大成に周囲の人の視線が集まる。
そこには全員が居た、いや元から居たのであろう・・・
あの老婆の言葉を聞いたからこそその存在を視認出来たのだと大成は息を整えながら思考を巡らせる。
痴漢をされたOLも、友人の首を噛み千切った女子高生も、子供をテルテル坊主にした両親も、注射器で襲い掛かった老夫婦もそこに居る。
だが何処か存在が希薄で意識を反らすと見えなくなりそうに感じたのだ。

プルルルルルル~

ドアが閉まる音が鳴り響き大成は電車内に両足を入れた。
ここで今すぐ電車から降りる様に叫んだとして、誰一人大成の言葉に耳を貸す者は居ないだろう。
だからこそ大成は覚悟を決めた。
この状況でアレを回避する手段はこれしか思い付かなかったのだ。

「皆さんすみません!」

そう大成は頭を下げてドアの間に立った!
合わせたかのように閉まってくるドアを大成は両手で受け止め閉まるのを邪魔したのだ!
当然閉まらなかったドアは最後部車両でドアを操作している駅員に警告が出て伝わる。
都市伝説で電車の運行を故意に妨害した場合は高額な損害賠償を請求されるという話がある、大成も聞いた事があるその話が一瞬頭を過るが自分が電車を遅らせる事で全ての人を助ける事が出来るかもしれない!
我が身を呈して人を助ける、まさしくそれは大成が目指したヒーローその姿であった。

「ちょっと!あなた何してるんですか?!」

慌てて駆け寄ってきた駅員に後ろから引っ張られるが大成は必死に抵抗した。
僅か、そう、本当に僅かで良いんだ・・・
そう考えてた大成の手がドアから引き剝がされた。
歯を食いしばり耐えていたが、腕に走る痛みのせいで力が抜けたのだ。

「どういうつもりですか!?」
「あがっ・・・あぎぎ・・・」
「なんだ・・・その手・・・」

大成が腕に走る激痛に苦悶の表情を浮かべ苦しんでいる様子に、違和感を覚えた駅員も大成の手を見て絶句した。
赤く倍くらいに腫れ上がった両手、だが大成はそれどころでは無かった。
ドアが閉まり走り出す電車の行く先に首を向けて必死にそれを見詰める!
そして・・・

バキバキッ!!!

駅を出てすぐそこに在る踏切、その遮断機が暴走したタンクローリーに突っ込まれ破壊されたのだ!
それを確認して大成は笑みを浮かべた。
最早腕に走る激痛など気にもしていなかった、ただただ自分はやりきって人々を救ったのだと喜んだ。
たとえ、これから鉄道会社に訴えられたとしても後悔する事は無いだろう。
自分は人を救ったのだから・・・

そう大成が考えた時であった・・・
踏切を突っ切ったタンクローリーが走るその先に在るそれが大成の視界に入った。
それは・・・ガスホルダーであった・・・

「えっ・・・」

続けて響く激突音!
ガスタンクと一般的に呼ばれている球体のアレ、中には天然液化ガス等が入っているとされるそれに突っ込んだタンクローリー・・・
続いて響く爆発音!
周囲に激しい衝撃が襲い掛かり大成だけでなく駅員の鼓膜も大きく揺さぶられた。
だが、それはまだ始まりであった・・・
本来ガスホルダーは台風や竜巻が起こっても大丈夫で、雷すらも回避するように避雷針まで設置されている。
そして、火災が近くで起きたとしても熱に強い材質で出来ており、その上中には空気が入っていない為にガスが爆発したり燃えたりする事は無い・・・
そう、ガスホルダーは本来町中に在ったとしても大丈夫な設計の元作られているのである。
本来であれば・・・

暴走したタンクローリーが支えていた支柱の1つを破壊し、上に覆いかぶさる形でガスホルダーが倒壊、その真下でタンクローリーが爆発炎上、更に折れた支柱がタンクローリーの爆発で内部へと突き刺さり小型飛行機がぶつかったとしても大丈夫とされているガスホルダーに穴をあけていた。

そもそもガスと言うモノが爆発するには3つの条件が必要とされている。
閉じられた空間で、ガスと空気がある一定の割合で混ざり、そこに着火元がある

偶然、そう本当に偶然であるが落下したガスタンクとタンクローリーがこの3つの条件を当てはめてしまったのだ。
噴き出されるガスにタンクローリーから漏れた炎上する燃料・・・
落下先で偶然できた空間にそれらが混ざり合いそれは必然的に大爆発を引き起こす。
誰の目から見ても不幸としか言えない偶然が幾重にも重なりあいその状況を生み出した。
誰一人として想像もしないであろう、全ては一人の人間に絶望を味わわせる為だけに神が用意しているなどと。

衝撃が襲い掛かり、次に音がやって来て、最後に炎が襲い掛かった。
まるで映画のワンシーンの様であった。
大成だったそれが意識を保てるはずも無く一瞬にして圧し潰され燃やされているのをただただ呆然と見ているソレ・・・
大成の魂と呼ばれる存在であった。
周囲10キロ近くに広がった衝撃は数多の命を一瞬にして奪い去り、大きく残る傷痕を地図に残す事となった・・・
その事実を目の当たりにした大成はただただ絶望に打ちひしがれた。

『残念だったね~でもこれが君の選んだ結末だから仕方ないね~』
「ち、違う・・・俺はこんなの望んでなんか・・・」
『違わないさ、全ては君の選んだ結末、君が何もしなければ死ななかった多くの命を君が消したんだ』
「そ・・・そんな・・・」
『あ~楽しかった。最後の最後に本当に楽しい光景を見せてくれて君には感謝しているよ』
「さい・・・ご?」
『そう、もうこの世界を維持するのにも疲れてね。そろそろネタ切れを感じていたから終わりにしようと考えてたのさ』

魂だけとなった大成はそこに居ると感じている占い師の姿をしたそれに向かって強い意志を示した。

「世界を維持している・・・貴方は神なのですか?」
『まぁ神の一柱ではあるかな?今はね、さてそれじゃあそろそろお別れを・・・』
「ま、待ってくれ!頼む・・・」
『ん~?何を頼むって言うのだい?』
「世界を終らせないで下さい・・・お願いします・・・」
『あ~そっか・・・妹さんの為かな?』
「っ?!」

大成は呼吸をしてはいないが息を飲んだ。
そして、全てを見透かされていると感じ口を開く・・・

「俺のたった一人の妹なんです・・・その為だったら俺なんでもやります!」
『健気だね~あと数か月の命なのに』
「ですから、お願いです」

肉体を離れた大成は徐々に人としての記憶を失い始めていた。
だがそれでも残した妹の事だけは忘れずに懇願する・・・
病に犯され余命宣告まで受けている妹を救うために大成は白紙の小切手を切る思いで願う。
全て目の前の神が御膳立てし誘導している可能性も考慮して・・・
そして、実際にそれは真実であった。内心ほくそ笑みながら大成の願いに歓喜する神は告げる。

『良いよ~君の尊い願いは成就させてあげよう』
「あ、ありがとうございま・・・」
『ただし、願いには対価と言うモノが必要なのは分かるよね?』

そうして告げられる神と呼ばれる存在からの提案。
飽きられて消滅されるのを待つばかりとなったこの世界を含む数多の世界、そこで他の神を喜ばせるデスゲームを行う事。
その内容を見て、神々が大成に新しい寿命を与え、大成の寿命と世界の寿命をリンクさせる契約。
そして、大成が生きている限り妹の命は神の元で保護されるという契約。

「構いません、妹が生きられるのであれば」
『あぁ素晴らしい覚悟と決意だね~それじゃあ君は今日から人ではなくなる。だから君には新しい名を与えようじゃないか』
「新しい・・・名・・・」
『そう、君は今日からガイアだ』

これは維持神ヴィシュヌとガイアの出会いの話・・・
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