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快速殺人電車 第5話
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テルテル坊主・・・
等身大のテルテル坊主は虚ろな表情のまま両親に持ち上げられていた。
身動きをする事も無く、呼吸すらも忘れたテルテル坊主は首を摘まんだ両親の手に持ち上げられたままユラユラと揺れる・・・
電車の振動に合わせる様に左右に小さく揺れる・・・
すると立っていた老夫婦がくるりとこちらに振り返った。
その顔は目と口が黒に染まり3つの闇がこちらを向いていた。
「く・・・来るな・・・」
大成は一歩後ろに下がる、そして視界の隅に先程の女子高生が入り目を疑った。
不思議そうに大成だけを女子高生は見ていたのだ。
そんな大成に向かって老夫婦だったそれらは近づいてくる、その手にはあの注射器の様な物。
ホラー映画を流し見している様な女子高生の視線の違和感、近づく老夫婦・・・
大成は恐怖あまりその場から走り出して隣の車両に逃げようと考えた、だが・・・
「えっ?」
大成の真後ろでプシューと言う音が聞こえた。
聞き慣れたその音に慌てて振り返るが時既に遅く、ドアは完全に閉まり電車は駅を出発し出す。
ドッと滝の様な汗が出てくるが大成はそれどころではない。
視線をやるとあのサラリーマンの男性は座席に座っており、逆側を見れば女子高生も座席に座って窓の外を眺めていた。
「生き方を貫け・・・か・・・」
突然出たその言葉に驚き口を手で塞ぐ、呼吸を止めて自分が無意識に言葉を発するのを拒絶しようとしたのだが・・・
「まぁ、これだけガラガラだったら必要無いか・・・」
今の大成は座ってすらいない、立ったまま自分の口を押えていた手が少し隙間を作り言葉を発するのを勝手に補助したのだ。
明らかに覚えているのと違う行動をとっているのに出た言葉・・・
2度ある事は3度ある、大成は混乱するのを必死に抑えようと深呼吸をして視線をやった・・・
そして、居るのを確認した。
「ど・・・どうすれば・・・」
座席に座る老夫婦、そして立ってはしゃぐ子供とその両親・・・
このままではあの子供の行く末は・・・
だが大成が行動を起こせば4人が今度は消えてまたやりなおし・・・
そこまで考えて大成は気付く。
人が殺されるのを阻止し時が巻き戻る度に少しずつ戻る時間が前になっているのだ。
「そうか・・・なら・・・」
今さっき大成が聞いたドアの閉まる音、つまり今度戻った時はドアが閉まる前に戻れるはず。
それならば外に逃げる事も可能かもしれない!
大成はこれに賭けようと震える足を踏み出した。
向かうは子供の居る方向、どうすればいいのか全く分からないが子供を何とかして助けなければいけない・・・
そう、自分の為に!
「ん?どうやら君は・・・」
座ったままのお爺さんの声が聞こえた。
大成はその瞬間駈け出した!
ゆっくりと注射器の様な物を手に立ち上がる老夫婦よりも先に子供の方へ駆け寄ったのだ。
そんな大成の不審な行動に慌てた両親が子供を守ろうとするが・・・
「どけえええええええええ!!!」
父親と思われる男性を大成は突き飛ばし、目を丸くしている子供を抱き上げ一目散に駈け出したのだ。
呆気にとられた様子の母親だったが、子供が連れ去られた事実に悲鳴を上げる。
「きゃああああああああああ!!誘拐よおお!!!!!」
その母親の声を聞いて抱き抱えていた子供が暴れだす。
だが大成は気にする事無く隣の車両へ続くドアへ駆け、扉の取っ手に手を掛けた。
だが・・・
「なっ?!開かない!?」
「放して!放してよ!!」
暴れながら叫ぶ子供が大成の手から抜け出す。
そして両手を広げて待つ両親の元へ駈け出したのだが・・・
その両親の顔は目と口が闇に変わっており、注射器を持つ老夫婦と4人で子供が近寄るのを待っていた。
4人の目と口、12の闇が笑みを描きながら駆け寄る子供を迎える。
既に言葉を発する事も出来ないのか、子供を迎えるそれらは無言でユラユラと子供を待つ。
あまりの恐怖、しかも老夫婦は注射器を持っているのだ。
大成は苦虫を噛み潰したように顔を歪め、駈け出した。
そして大成は自らの腕を差し込むように子供目掛けて出された注射器から守ろうとした。
ぐさっ!
「う”あっ!?」
異常な程の痛み、とても注射器で刺された時の痛みとは思えない激痛が腕に走る。
それは焼けた鉄の様に刺された部分を熱くし、今にも肉が溶けるかのような感覚に見舞われた。
その大成の悲鳴に子供は目を疑った。
見上げた両親の顔を見たのであろう、自分を見つめる闇を・・・
大成が間に腕を差し込んで子供を守った事で両親の手が止まった。
今にも子供を掴もうとしていたその腕が大成の庇った両腕に目標を変えたのだ。
「ひっ?!」
子供の悲鳴が上がる、それも仕方ないだろう。
大成の両腕が両親の手に掴まれ、その手が肉を握り潰す音が目の前で響いたのだ。
ごきごきごきぐしゃぐしゃぐしゃ・・・
握り潰された大成の両腕、だが不思議な事に大成に痛みは無かった。
注射のせいなのか、これが夢だからなのか・・・
だが注射による痛みは確かにあったのだ。
困惑する大成であったが、子供だけでも助けようと大成は叫ぶ!
「逃げろ!」
その言葉に頷いた男の子は大成の顔をチラリと見て駈け出す。
そのまま逆側の隣の車両に続くドア目掛けて走って行ったのだ。
ごきごき・・・めきめき・・・
大成はその場にへたり込んだ。
握り潰された両腕は解放され、ダラリと垂れていたがそれが理由ではない。
逃げた子供を4人は首だけで追いかけ振り返ったのだ。
その為、4人の首は180度逆に回っており、その可動部から何かが折れて砕ける様な鈍い音が響く。
自分の腕が握り潰された時に音が似ていると大成は思い、何故かクスッと小さく笑った。
痛みが無いからではない、子供を逃がす事が出来、これで時間が再び巻き戻れば自分は電車を降りられる。そう考えたからだ。
そして、目の前の4人が糸の切れた人形の様にその場に崩れた。
普通に考えて首の骨が折れて死んだのだろう、だが誰一人それを気にもしない。
あのサラリーマンも、あの女子高生も・・・そしてドアの所まで行ってこちらを振り返っている子供すらも・・・
等身大のテルテル坊主は虚ろな表情のまま両親に持ち上げられていた。
身動きをする事も無く、呼吸すらも忘れたテルテル坊主は首を摘まんだ両親の手に持ち上げられたままユラユラと揺れる・・・
電車の振動に合わせる様に左右に小さく揺れる・・・
すると立っていた老夫婦がくるりとこちらに振り返った。
その顔は目と口が黒に染まり3つの闇がこちらを向いていた。
「く・・・来るな・・・」
大成は一歩後ろに下がる、そして視界の隅に先程の女子高生が入り目を疑った。
不思議そうに大成だけを女子高生は見ていたのだ。
そんな大成に向かって老夫婦だったそれらは近づいてくる、その手にはあの注射器の様な物。
ホラー映画を流し見している様な女子高生の視線の違和感、近づく老夫婦・・・
大成は恐怖あまりその場から走り出して隣の車両に逃げようと考えた、だが・・・
「えっ?」
大成の真後ろでプシューと言う音が聞こえた。
聞き慣れたその音に慌てて振り返るが時既に遅く、ドアは完全に閉まり電車は駅を出発し出す。
ドッと滝の様な汗が出てくるが大成はそれどころではない。
視線をやるとあのサラリーマンの男性は座席に座っており、逆側を見れば女子高生も座席に座って窓の外を眺めていた。
「生き方を貫け・・・か・・・」
突然出たその言葉に驚き口を手で塞ぐ、呼吸を止めて自分が無意識に言葉を発するのを拒絶しようとしたのだが・・・
「まぁ、これだけガラガラだったら必要無いか・・・」
今の大成は座ってすらいない、立ったまま自分の口を押えていた手が少し隙間を作り言葉を発するのを勝手に補助したのだ。
明らかに覚えているのと違う行動をとっているのに出た言葉・・・
2度ある事は3度ある、大成は混乱するのを必死に抑えようと深呼吸をして視線をやった・・・
そして、居るのを確認した。
「ど・・・どうすれば・・・」
座席に座る老夫婦、そして立ってはしゃぐ子供とその両親・・・
このままではあの子供の行く末は・・・
だが大成が行動を起こせば4人が今度は消えてまたやりなおし・・・
そこまで考えて大成は気付く。
人が殺されるのを阻止し時が巻き戻る度に少しずつ戻る時間が前になっているのだ。
「そうか・・・なら・・・」
今さっき大成が聞いたドアの閉まる音、つまり今度戻った時はドアが閉まる前に戻れるはず。
それならば外に逃げる事も可能かもしれない!
大成はこれに賭けようと震える足を踏み出した。
向かうは子供の居る方向、どうすればいいのか全く分からないが子供を何とかして助けなければいけない・・・
そう、自分の為に!
「ん?どうやら君は・・・」
座ったままのお爺さんの声が聞こえた。
大成はその瞬間駈け出した!
ゆっくりと注射器の様な物を手に立ち上がる老夫婦よりも先に子供の方へ駆け寄ったのだ。
そんな大成の不審な行動に慌てた両親が子供を守ろうとするが・・・
「どけえええええええええ!!!」
父親と思われる男性を大成は突き飛ばし、目を丸くしている子供を抱き上げ一目散に駈け出したのだ。
呆気にとられた様子の母親だったが、子供が連れ去られた事実に悲鳴を上げる。
「きゃああああああああああ!!誘拐よおお!!!!!」
その母親の声を聞いて抱き抱えていた子供が暴れだす。
だが大成は気にする事無く隣の車両へ続くドアへ駆け、扉の取っ手に手を掛けた。
だが・・・
「なっ?!開かない!?」
「放して!放してよ!!」
暴れながら叫ぶ子供が大成の手から抜け出す。
そして両手を広げて待つ両親の元へ駈け出したのだが・・・
その両親の顔は目と口が闇に変わっており、注射器を持つ老夫婦と4人で子供が近寄るのを待っていた。
4人の目と口、12の闇が笑みを描きながら駆け寄る子供を迎える。
既に言葉を発する事も出来ないのか、子供を迎えるそれらは無言でユラユラと子供を待つ。
あまりの恐怖、しかも老夫婦は注射器を持っているのだ。
大成は苦虫を噛み潰したように顔を歪め、駈け出した。
そして大成は自らの腕を差し込むように子供目掛けて出された注射器から守ろうとした。
ぐさっ!
「う”あっ!?」
異常な程の痛み、とても注射器で刺された時の痛みとは思えない激痛が腕に走る。
それは焼けた鉄の様に刺された部分を熱くし、今にも肉が溶けるかのような感覚に見舞われた。
その大成の悲鳴に子供は目を疑った。
見上げた両親の顔を見たのであろう、自分を見つめる闇を・・・
大成が間に腕を差し込んで子供を守った事で両親の手が止まった。
今にも子供を掴もうとしていたその腕が大成の庇った両腕に目標を変えたのだ。
「ひっ?!」
子供の悲鳴が上がる、それも仕方ないだろう。
大成の両腕が両親の手に掴まれ、その手が肉を握り潰す音が目の前で響いたのだ。
ごきごきごきぐしゃぐしゃぐしゃ・・・
握り潰された大成の両腕、だが不思議な事に大成に痛みは無かった。
注射のせいなのか、これが夢だからなのか・・・
だが注射による痛みは確かにあったのだ。
困惑する大成であったが、子供だけでも助けようと大成は叫ぶ!
「逃げろ!」
その言葉に頷いた男の子は大成の顔をチラリと見て駈け出す。
そのまま逆側の隣の車両に続くドア目掛けて走って行ったのだ。
ごきごき・・・めきめき・・・
大成はその場にへたり込んだ。
握り潰された両腕は解放され、ダラリと垂れていたがそれが理由ではない。
逃げた子供を4人は首だけで追いかけ振り返ったのだ。
その為、4人の首は180度逆に回っており、その可動部から何かが折れて砕ける様な鈍い音が響く。
自分の腕が握り潰された時に音が似ていると大成は思い、何故かクスッと小さく笑った。
痛みが無いからではない、子供を逃がす事が出来、これで時間が再び巻き戻れば自分は電車を降りられる。そう考えたからだ。
そして、目の前の4人が糸の切れた人形の様にその場に崩れた。
普通に考えて首の骨が折れて死んだのだろう、だが誰一人それを気にもしない。
あのサラリーマンも、あの女子高生も・・・そしてドアの所まで行ってこちらを振り返っている子供すらも・・・
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