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第5話 もう入試試験とか聞いてないんだが? 5
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♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪
「ちょっと桜! どうしたのよ」
「んー?」
「んーじゃないわよ。最近あんた、ピアノ弾いてないらしいじゃない。これは事件よ。何? 体調でも悪いわけ?」
私が、自室で本を静かに読んでいると、紗綾が部屋の中に入ってきた。机の上には、王都鳳凰音楽学校の紋章が書かれた便箋が開いたままになっている。
「しかも、この本何? 『誰でも分かる礼儀作法2』やっぱり頭でも撃ったんだわ」
「ちょっと、今読んでるんだから取らないでよ紗綾」
「……っ! あのピアノしか興味がないバカが、もっとバカに」
「バカで悪かったね」
私は、紗綾が持っていた本を取り上げ、また続きのページから読み始めた。
「それで、どうしたの?」
「……」
「無視すんじゃないわよっ」
「うおおっ」
座っていた椅子が引き抜かれて、私は床に尻餅をついた。
「ちょっと、なにするっ」
「やっと、こっち見たわね桜」
「っ……」
どうやら、言い逃れは出来ないようだ。
「失恋し」
「からの?」
「ずっと憧れだった人を追いかけていたから。だから、その人がこの世界にいないと知ってなんのために生きてるのか分からなくなった」
「なるほどねー。桜、このゲームのピアノ演奏してた人好きだったもんね。髙橋……えっと」
「露木」
「それで、桜はこの世界に憧れの人がいないって落ち込んでるみたいだけど、桜はその人の音を忘れたことがあるのかしら?」
「っ……」
初めてあの人に会った、いやあの人の音を聞いたのは、6才の頃に母とあるピアノニストの公演だった。
席は最後尾。こんな遠くからピアノの音を聞くことが出来るのか正直不安だった。なぜならステージに立つピアニストの姿は、自分の手のひらよりも小さかったからだ。
実際に、聞こえるピアノの音は小さかったし、小学生だった私は、まだ音楽で出てくる何曲かしか知らないのでつまらなかった。
何曲も演奏を聞き、退屈に思っていた頃、その人は現れた。スペシャルゲストとして現れた彼女は、身長がとても低かった。
早く帰りたいなあ。帰ってテレビゲームがしたい。
眠たい瞼を擦る。ホールの光が淡くそれがまた、私の眠気を誘った。
ガンッ
殴られたかのように思えた。まるでこちらを挑発しているかのような。そんな音。
何、この音。
さっきまで音なんてそんなに聞こえなかったはずだ。それなのに。
音が空気を震わす。そして空気は、遠くまで彼女の音を運んだ。
本物だ。本物なんだ。
髙橋 露木。パンフレットに書かれた文字をもう一度眺める。
私もこの人みたいになりたい。初めて感じた熱い思いを胸に感じながら、私は、聞き逃すまいと彼女の演奏に耳を傾けた。
そっか。憧れの人の音はこんなに近くにあったんだ。私の記憶の中に。
「いたよ、紗綾。私の中に憧れの人」
「そう」
「私決めた。私は髙橋 露木のように、ううん。髙橋 露木を超えるピアニストになる。そして、例え私が死んでもずっと人々の思い出に残るような音を出せるピアニストになる」
「そのいきよ、そんでもって王子も義理の弟も先輩もみんなメロメロにするのよ」
「それは遠慮する」
「ふふ、いつもの桜に戻ったわね」
もし、私が乙女ゲームのヒロインだったら絶対紗綾に攻略されてただろうなあ。
「それにしても、せっかく3人とも受かってお祝いムードだったのに、1人で引きこもってた罪は重いからね」
「痛たたっ。ごめんて」
「よーし。じゃ今からマリアの所に行くわよ、合格お祝いパーティー準備してるんだから」
「ええ、今から? ずっとピアノ弾いてなかったし今弾きた」
「よーし。じゃあこのまま連行!」
マリア嬢が料理が苦手なのは以外だったけど。真っ黒に焦げた手作りクッキーは、苦いのに何故か美味しく感じた。それに、3人で時間が足りないほど話をしたので、帰る頃には空が真っ暗になっていた。
合格パーティー楽しかったなあ。またパーティーできるといいなあ。
「ちょっと桜! どうしたのよ」
「んー?」
「んーじゃないわよ。最近あんた、ピアノ弾いてないらしいじゃない。これは事件よ。何? 体調でも悪いわけ?」
私が、自室で本を静かに読んでいると、紗綾が部屋の中に入ってきた。机の上には、王都鳳凰音楽学校の紋章が書かれた便箋が開いたままになっている。
「しかも、この本何? 『誰でも分かる礼儀作法2』やっぱり頭でも撃ったんだわ」
「ちょっと、今読んでるんだから取らないでよ紗綾」
「……っ! あのピアノしか興味がないバカが、もっとバカに」
「バカで悪かったね」
私は、紗綾が持っていた本を取り上げ、また続きのページから読み始めた。
「それで、どうしたの?」
「……」
「無視すんじゃないわよっ」
「うおおっ」
座っていた椅子が引き抜かれて、私は床に尻餅をついた。
「ちょっと、なにするっ」
「やっと、こっち見たわね桜」
「っ……」
どうやら、言い逃れは出来ないようだ。
「失恋し」
「からの?」
「ずっと憧れだった人を追いかけていたから。だから、その人がこの世界にいないと知ってなんのために生きてるのか分からなくなった」
「なるほどねー。桜、このゲームのピアノ演奏してた人好きだったもんね。髙橋……えっと」
「露木」
「それで、桜はこの世界に憧れの人がいないって落ち込んでるみたいだけど、桜はその人の音を忘れたことがあるのかしら?」
「っ……」
初めてあの人に会った、いやあの人の音を聞いたのは、6才の頃に母とあるピアノニストの公演だった。
席は最後尾。こんな遠くからピアノの音を聞くことが出来るのか正直不安だった。なぜならステージに立つピアニストの姿は、自分の手のひらよりも小さかったからだ。
実際に、聞こえるピアノの音は小さかったし、小学生だった私は、まだ音楽で出てくる何曲かしか知らないのでつまらなかった。
何曲も演奏を聞き、退屈に思っていた頃、その人は現れた。スペシャルゲストとして現れた彼女は、身長がとても低かった。
早く帰りたいなあ。帰ってテレビゲームがしたい。
眠たい瞼を擦る。ホールの光が淡くそれがまた、私の眠気を誘った。
ガンッ
殴られたかのように思えた。まるでこちらを挑発しているかのような。そんな音。
何、この音。
さっきまで音なんてそんなに聞こえなかったはずだ。それなのに。
音が空気を震わす。そして空気は、遠くまで彼女の音を運んだ。
本物だ。本物なんだ。
髙橋 露木。パンフレットに書かれた文字をもう一度眺める。
私もこの人みたいになりたい。初めて感じた熱い思いを胸に感じながら、私は、聞き逃すまいと彼女の演奏に耳を傾けた。
そっか。憧れの人の音はこんなに近くにあったんだ。私の記憶の中に。
「いたよ、紗綾。私の中に憧れの人」
「そう」
「私決めた。私は髙橋 露木のように、ううん。髙橋 露木を超えるピアニストになる。そして、例え私が死んでもずっと人々の思い出に残るような音を出せるピアニストになる」
「そのいきよ、そんでもって王子も義理の弟も先輩もみんなメロメロにするのよ」
「それは遠慮する」
「ふふ、いつもの桜に戻ったわね」
もし、私が乙女ゲームのヒロインだったら絶対紗綾に攻略されてただろうなあ。
「それにしても、せっかく3人とも受かってお祝いムードだったのに、1人で引きこもってた罪は重いからね」
「痛たたっ。ごめんて」
「よーし。じゃ今からマリアの所に行くわよ、合格お祝いパーティー準備してるんだから」
「ええ、今から? ずっとピアノ弾いてなかったし今弾きた」
「よーし。じゃあこのまま連行!」
マリア嬢が料理が苦手なのは以外だったけど。真っ黒に焦げた手作りクッキーは、苦いのに何故か美味しく感じた。それに、3人で時間が足りないほど話をしたので、帰る頃には空が真っ暗になっていた。
合格パーティー楽しかったなあ。またパーティーできるといいなあ。
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