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第2話 私、前世で何か悪いことでもしました? 2
しおりを挟むそれにしても、どこかで聞き覚えのある話し方だ。私は前世の記憶を振り返ってみる。
「え、もしかして…………誰?」
「このくそ桜ああああああ」
「ぐええええええええ、ごんなごとずるのは紗綾しかいない」
「分かってくれて何よりよ」
本人かどうか、暴力で分かり合うのは多分私達しかしないと思うけどなあ。普通は昔の恥ずかしい過去とかを暴露し合うんだと思うよ。
危うく殺されかけた。危ない危ない。
私は紗綾に締められた首を擦る。
紗綾は、前世で私が音楽の道に進む前、つまり中学校の時の友達だ。ピアノしか興味がない、面白い話もできず、1人で教室にいた私に話しかけてくれたのが紗綾だった。それに、紗綾は、5人兄弟の長女であることもあって面倒見がよかった。
「でも、なんで私だってわかったの?」
「あんたの音、私が分からないわけないじゃない」
そのセリフはちょっと嬉しいかもしれない。私はニヤニヤしてしまった口を手で隠す。
「それにしてもあんたが悪役令嬢になってるなんてね、笑えるわ。ふふふふふっ」
前言撤回、こいつ殺す。
親友が悪役令嬢になってる一大事を笑うなんてまったく。でも、こうしたやり取りが昔に戻ったみたいで嬉しい。
「人に乙女ゲーム勧めといてスキップして話読んでないからバチあたったのよ。桜が悪役令嬢ね。ははははははっ」
やっぱり、もうこいつ追い出そうかな?
私は紗綾を見た後、そっと扉に視線を向けたが、思いとどまってもう一度紗綾に視線を戻す。
赤い髪にツインテール。そして猫のように吊り上がった瞳。どこかで見たことあるような。
「じゃあ、紗綾はなんの役になったの?」
「私? 私は悪役令嬢の取り巻きAよ」
ふっふふふふふふ。はははははははははは。ぎゃはははははははは。ひっ。
紗綾が悪役令嬢の取り巻きなんて、似合わなすぎる。
「何か文句でも?」
「いえ、何もないです」
また締められたくないので、大人しくしよう。
でもAってことは……。
「取り巻きBは?」
「あーー、あの子? あの子は今日熱で寝込んでるのよ、かわいそうにね」
「それはお大事に」
冷たい風が窓から入る。
部屋が少ししんみりとした後、紗綾が口を開いた。
「そういえば、私あんたのお見舞いに来たんだったわ、それでどこを怪我したわけ?」
「あ、それがその……」
私は紗耶に楽譜を踏み、頭を打った話を一から説明した。
「ぎゃはははははは」
「うるせえ黙れ」
「だって面白すぎる、楽譜踏んで頭打つ人って本当にいるのね」
ここにいますが何か?
というかあれ本当に痛かったんだからね?
私は頭を打った出来事を思い出しで後頭部を守る。紗綾は、それを飽きれたように見ながら話題を変える。
「ところで、どうせあんたのことだから、第一王子の名前もろくに言えないんじゃないの?」
「……」
「何そのなんで分かったの? びっくりみたいな表情は」
「何この友達心読めるの怖すぎなんだが」
「何年一緒にいたと思ってるのよ! はぁああー。仕方ないからあんたのために説明してあげるわ、まず初めはやっぱり王子様よね、アンダンテレント。第1王子よ。1言で言えば腹黒。確か王子ルートは、ヒロインが入学式に音楽室でエリー○のためにを弾いていた所を王子様が聞いてヒロインを好きになるっていうストーリーだったわ」
「あーーーー」
「うん? どうしたの?」
私は体を縮こませてぬうっと手を上げる。
「弾きました。弾きましたエリー○のために」
「ばかなの!?」
私は傷ついたうさぎのような表情を作り紗綾を見上げる。
紗綾は、芋虫を見たような表情で交差させた腕を肩に乗せる。
「きもっ」
いや、流石にひどくない???
ここで、私は1つ的確な例を思いついた。
「例えば1ヶ月何も食べてないライオンがいるとするでしょ?」
「うん?」
「そこにうさぎが来るわけ。ライオンはどうしますか?」
「うさぎを食べる」
「そう、それと同じだね。私は1日ピアノを弾かなかった。そこにピアノがあった。だからピアノを弾くおわり」
「いや違うよ? バカなの?」
私はじーと紗綾を見つめて抗議する。
「はぁー。まぁ、過ぎたことは仕方ないとして他の攻略キャラの説明もしてあげるわ、優しい私に感謝してね」
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