妹が自ら89人目の妻になりにいった話。

序盤の村の村人

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 妹がバカなこともたまには役に立つのですわね。

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「お前とは、婚約破棄をする」

 なんて、言葉使いが悪いのでしょうか。お前だなんて、きっと私の名前も、言えないに違いないありませんわ。

 しかし、私も人のことを言えないかもしれません。なぜなら私は、すっかりこいつの存在を忘れていたからですわ。それほど私にとってはこの婚約者は重要人物ではありませんでした。

「そして、この愛しいリリと婚約を結ぶことを宣言する!」

 婚約者は、妹のリリを胸に抱きながらそう宣言しました。妹は、勝ち誇ったような顔で私を見てきました。少しむかつきますわね……。

 それにしても、こんなパーティーの真っ只中で婚約破棄をするとは……バカなのでしょうか。いや、バカでしたね。それともバカ以上でしょうか。

「お姉さまごめんなさい、私レイを愛しているの、お姉さまなら分かってくれるわよね」

 リリは、ハンカチを顔に当てながら泣いまねをしていますわ。白々しいですわね……。

 でも、婚約者を奪い取るなんて妹がよくやりそうですわ。妹は、昔から私のぬいぐるみや、羽ペン。お友達にもらったお菓子まで欲しがってすべて自分の物にしてきてましたから。

「お前、よくもリリを泣かしたな」

 やはり、王子が、私の名前を覚えていないのは確定かしら……。そして、なぜ、リリが泣き真似をしていることが私のせいなのかしら。ここまで来ると頭が痛くなりそうだわ。

「婚約は、すきにしたらいいと思いますわ」

 私は、王子の言葉をガン無視して答える。王子は、それに気づかなかったのだろうか、リリと婚約できることに喜んでいる。

「よかった! ねえ、レイ結婚式はいつにする?」
「明日にでもしたいな」
「もうっ、レイったら」

 二人は、もう私が眼中にないようで、二人の世界に入っている。以外とこの頭がお花畑のコンビお似合いかもしれませんわね。類は友を呼ぶとはいいますが、バカは、バカを惹き付ける能力でもあるのかしら……?謎ですわね。

「では、すぐさまこの書類にサインをしていただけますか?」

 私は、執事に2枚の紙を持ってこさせる。

「お姉さま、その書類はなんですの?」
「こちらが、私とレイ王子の婚約破棄の書類で、こちらが、リリとレイ王子の結婚の書類ですわ」
「むうう、そんなことは後にして、デートに行きたいわ、レイ」
「そうだな、いまから街に遊びに行こう」
「そうとなったら早く帰っておめかししないとだわ」

 彼らは自分たちが婚約破棄を言い出したことを忘れたのだろうか。まるで他人事のように今からデートに行こうと言ってるような気がするわ。

「リリ、いいのですか?ここで書類にサインをしないと私と第一王子が婚約破棄したことにならないのですよ?」
「お姉さま、さっきリリに婚約はすきにしてもいいって言ったじゃないっ」
「口約束は、当てにならないのですよ? きちんと書類に書いてくださいませ」
「もう、本当にお姉さまはわがままね、だからモテないのよ」

 妹には、脳みそがないのかしら……?まだうちで飼っている犬のジョンの方が賢い気がしますわ。

 私は、屋敷で飼っているゴールデンレトリバーの大型犬を思い出してにやける。

 はあー、今すぐにでも家に帰ってあのもふもふに……おっと脱線してしまいましたわね。

「分かったサインをすればいいんだろ、リリ早くサインをしてデートに行こう」
「ぷー、はーい」

 妹は、頬を膨らませながらしぶしぶサインをした。いちいちやることがむかつきますわね。

 レイ王子と妹は、サインした内容を読まずにペンを置いた。

「できたわ、お姉さまこれでもういいでしょう」

 自分の名前をサインしただけなのにずいぶん偉そうですわね。

「ええ、ありがとうございました。そして、王子様、祝福いたしますわ。89人目の妻を迎えたことを」
「は、え、は?」

 妹は、何を言ってるのか理解出来ないようで口をパクパクさせているわね。

「お姉さま、なにそれ嫌がらせ?分かったリリに嫉妬してるんでしょ?」
「いいえ、全くしていませんよ」
「じゃあ、なんでそんな嘘をつくのよっ」

 妹は、信じられないのか、それとも信じたくないのか私を睨み付けてくる。

「ごめん、リリ本当のことなんだ……」
「レイ?レイまで何を言ってるの?」
「いままで、だまっててごめん。僕には88人の妻がいる。けど、君は、どんな僕でも愛してくれるっていっただろ? もちろん許してくれるはずだよな」
「なんで、なんでよ! 僕にはリリしかいないよって言ってたじゃない!」
「それは、くちどく時に誰でも使うセリフだろ?」
「それにっ、他に妻がいるって言わなかったじゃない!」
「だって聞かれなかったし、知ってると思ってたんだ」
「第一王子に88人の妻がいる話しは有名でしてよ、この前も新聞にのっていましたわ」
「新聞なんてもの、読まないわよ!」

 リリは、勉強や礼儀作法の授業が大嫌いで、全く受けてなかったものね。両親もそんなリリをあまやかしていましたし……。

「じゃ、じゃあお姉さまはなんでこいつの婚約者だったのよ! こんな事故物件みんな嫌に決まってるじゃない」
「知りませんわ、全てはお父様が決めたことなので……。権力を握りたかったんじゃないかしら?」
「お、お父様っっ!!」

 リリは、怒った声で叫んだ。パーティーに参加していた貴族が、リリに注目する。

「こ、婚約破棄よ婚約破棄するわ。88人も妻がいる人と結婚したくないもの。そ、そうよお姉さま第一王子はお姉さまに譲るわ」
「それは、無理かと思いますわ」
「なんでよ!そんなはずないわ」
「ここを見てください」

 私は、さっきリリがサインした書類の一部を指さした。そこには、

 お互いに婚約破棄をしないと誓います。

 という、一文が小さく書かれていた。

 リリは、私からその書類を奪い取ろうと手を伸ばしたが、私はそれをかわしました。

「お姉さま、嵌めたのね! きっと私が可愛くてモテてることに嫉妬したんでしょ!」
「いいえ、あなたから婚約破棄してほしいと言われて破棄しただけですわよ」
「分かったわ、今までお姉さまから奪ったものを返すし、謝るからその紙をちょうだい」
「ちなみに、これはコピーで本物はもうすでに国王様に提出済みですわ」
「くそ、お姉さまあああ」

 この後、リリのドロドロな女同士の後宮物語が始まったとか始まらなかったとか。

 fin

  最後まで読んでいただきありがとうございました。
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