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第二章:私の心を掻き乱さないでくださいっ!

60.不安事②

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ミレーユの件が関わっているので、一応イルメラの名前は伏せて話すことにした。

「実は、高貴な方から明日のお茶会に誘われました」
「高貴な方、か。それは男か?」

「ち、違いますっ!」
「そうか……続けて」

私が話している間、エルネストは手を握っていてくれた。
というよりは、逃げないように掴まれているとも取れる。
私は緊張しながら、なるべく言葉を選ぶように話していく。

「参加するのは私と友人と、高貴な方の三人です」
「お茶会に誘われると言うことは親しいのか?」

「いえ、今日初めて話しかけられました。あることで協力関係を結びたいと」
「かなり怪しい話だな」

「うっ……。分かっています。でも高貴な方のお誘いを断る事なんて出来ません」
「たしかに、公爵令嬢の誘いは断れないか」

「はい……。私は協力関係を結ぶ理由だけで、呼ばれた訳ではないと思っています」
「どういうことだ?」

私はそこまで話すと、視線を下に落とした。
イルメラがエルネストのことを慕っていることは、直接聞かされたわけではないが、なんとなく雰囲気で分かっていたからだ。
あの時はまだエルネストの気持ちを知らなかったし、私の勘違いだろうと考えていた。
だからあの時までは、何を言われても否定すればいいと思っていた。

「その高貴な人には思っている方がいるようなんです。聞いた話では幼い頃からずっと……。きっと、その話もされるんじゃ無いかと思っています」
「…………」

エルネストは黙り込んでしまった。
私が話を暈かしすぎて、内容が上手く伝わっていないのかもしれない。
そんな不安を感じてエルネストの方に視線を向けた。
すると目が合ってしまい、ドキッとする。

「フェリシアはどうするつもりなんだ?」
「どうするとは?」

「フェリシアの言う高貴な人からその話をされた時、君はどう答えるんだ?」
「それは……」

「というか、それって私のことだろう?高貴な人というのはイルメラ嬢だよな。そして友人がイリア嬢」
「なっ!なんで分かったんですかっ」

敢えて名前を伏せていたのに、全て伝わっていて私は戸惑ってしまう。

「公爵令嬢と私が言った後、フェリシアは否定する事無く話を続けていたからな」
「……っ!!」

どうやら私は話すことに気を取られていて、エルネストの言葉の罠に気付かなかったようだ。

「その前から薄々気付いてはいたよ。フェリシアには仲の良い友人は余りいないし、話の流れから容易の想像が付く。協力関係というのは、恐らく姉上のことだろう」
「なんで……。私、何も言ってないのに」

「接点を考えれば簡単に分かる事だ」
「……っ」

やっぱりエルネストには敵わないとはっきりと分かった。

「イルメラ嬢も随分と強引な手に出たな。フェリシアが断れないのを分かっていた上で誘ったのだろうな」
「どうしよう」

エルネストの言葉を聞き私は更に不安を感じてしまう。
イルメラは何か思惑があって、私に近づいてきたと考えて間違いなさそうだ。

「そんな顔をするな。明日か……、予定をずらせばなんとかなりそうだな。私も同行するよ」
「は、い……?」

「イルメラ嬢はフェリシアが断れないのを知った上で強行手段に出たのだから、同じ手を使っても然程問題にはならないだろう。私はフェリシアの付き添いと言うことにしておこうか」
「そんなっ、わざわざ予定をずらして貰うなんて悪いです。それにこれは私が断れなかったのがそもそもの問題……」

私が話していると、突然エルネストによって唇を指で塞がれた。

「違うだろう。強引に誘ったのはイルメラ嬢だ。それにフェリシア一人に行かせたらますますややこしいことになりそうだから、早く決着を付けるためにも同行させて。これはもう決定事項だ」
「エルネスト様も十分強引ですっ!」

「分かってる。でも、フェリシアがまた思い悩んでいる姿を見たくはないからな。それに誤解は不安を生む材料になり得るから、早めに芽は潰しておいたほうがいい」
「エルネスト様が言うと、なんか少し怖いです」

(何か悪いことを企んでいるような顔に見えるけど、大丈夫かな)

「安心していい。私はフェリシアの味方だ。味方には優しくするよ」
「……っ」

結局全てエルネストに見抜かれてしまい、彼の指示に従う形になってしまった。
明日のお茶会で一波乱起きそうで、すごく怖い。
だけどエルネストが一緒に居てくれるということは、少しだけ心強く感じた。

「ごめんなさい……、私って本当にだめですよね。いつも誰かに頼ってばかりで、自分のことなのに何一つ解決出来なくて……」

今回の事も結局エルネストを巻き込むことになってしまった。
こんな自分が不甲斐なくて嫌になる。
私がしょんぼりしながら弱弱しい声で呟くと、エルネストはそのまま私のことをぎゅっと抱きしめてくれた。

「そんなことはない。君に頼られるのは素直に嬉しいよ。謝るのなら、私に隠そうとしたことを悔いて欲しいな」
「エルネスト様って甘いですね。そんな風に言われたら、また簡単に頼ってしまうかも……」

「それで構わない。少なくとも私にとってフェリシアは『特別』な存在なのだから。だけど、そこまで気にしている様なら一つ条件を付けても構わないか?」
「なんですか?」

「これから先、何かあった時には些細なことでも一番最初に私を頼ること。そうすれば私も安心出来るし、フェリシアだって気持ちが楽になるはずだ。一緒に解決策を探そう」
「……それ、優しすぎます。そんなに私を甘やかせてどうするつもりですかっ!これ以上ダメな人間なってもいいんですかっ!」

「いいよ。フェリシアの心から不安がなくなるのであれば願ったり叶ったりだ」
「私、エルネスト様にまだ何も返せていないのに……?」

「それは後払いで構わないよ」
「後払いって……」

「フェリシアが私の気持ちに答えてくれた時に、沢山貰うから」
「……っ」

エルネストの優しさに涙が零れた。
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