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第一章:私の婚約者を奪おうとしないでくださいっ!

8.王子の別の一面

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私はエルネストに連れられるまま、廊下を並んで歩いていた。
普段は訪れたことの無い棟だったので、落ち着きの無い様子で辺りをきょろきょろと見渡していた。

「どうした?」

私の態度に気付いたエルネストが訪ねてくる。

「あの、どちらに向かっているのでしょうか」
「学園内に設けられている応接間だな。王族や高位貴族にはこういった部屋が個別に与えられているんだ。無論、この部屋には姉上も入って来ないから安心してくれ」

「そう、なんですね……」

私は未だに握られているエルネストの手に視線を向けた。
先程からこれの所為で私の緊張は解けないままだ。

「悪いな。この手は部屋に着くまでは解放しないよ」
「……っ!?」

「ぷっ、そんなに驚いた顔をして、本当に君は分かりやい反応をするんだな。だけど悪く思わないで欲しい。こうでもしない限り、君は直ぐに逃げようとするだろう?」
「……っ」

エルネストの言うとおりだったため、私の体はピクッと小さく反応した。
私の態度を見てエルネストはクスクスとおかしそうに笑っていた。

「少し話しをするだけだ。そんなに怖そうな顔で構えなくても平気だよ。……ここだな、着いたよ」


***


エルネストの足がピタッと止まると、扉をゆっくりと開いた。
内部は割と広々としていて、中央には寛げそうなふんわりとしたソファーが置かれている。
窓も大きいので日差しがいっぱいに入って来る。
そしてここは最上階なので、内部の様子を外から覗き見されることもなさそうだ。

「フェリシア嬢、入ってくれ」
「お、お邪魔します……」

私は緊張しながら応接間に一歩足を踏み入れた。
すると部屋の奥にいる、常駐していそうな執事と目が合いドキッとしてしまう。

「グラン、彼女はフェリシア・アルシェ嬢だ。私とは同級生であり友人だ。彼女にお茶を用意してもらえるか?」
「エルネスト様がご友人を連れて来られるなんて始めての事ですね。はい、今すぐにご用意いたします。フェリシア様、そちらのソファーにかけてお待ちください」

執事は私に向けてにっこりと愛想のいい笑顔で答えた。
エルネストが私の紹介をしてくれたおかげで、私は小さく頭を下げるだけだった。
そして「こっちにどうぞ」とエルネストに案内され、ソファーに腰かけた。

「この執事はグラン。幼い頃から私の身の回りの世話を任せている執事だ」
「優しそうな方なんですね」

私は執事を見てぽろっと漏らした。

「そうか?フェリシア嬢にはそのような姿に見えるんだな。だけどグランは使用人達の間では、それはそれは恐れられている存在らしいぞ」
「ええ!?そ、そうなんですか?」

私はその話を聞いて驚いた反応を見せると、思わずグランのことを二度見してしまった。

(全くそんな風には見えないけど。人って外見だけじゃ分からないんだ)

「ぷっ、くくっ……」
「……?」

私がそんなことを考えていると、前方から笑い声が僅かに聞こえてきた。
対面して座っているエルネストの方に視線を向けると、必死に笑いを耐えている様子だ。

「全く、エルネスト様は人が悪い。フェリシア様が驚いていますよ」
「ああ、悪い」

(もしかして、からかわれた!?)

「間違ってはないだろう?お前は使用人達の中ではボスのような存在だからな」
「ボス……」

私はつられるようにぼそりと呟いた。
王子であるエルネストの口から『ボス』なんて言葉が出てきたのが意外すぎて、面白くてつい吹き出してしまった。

「ふふっ」

そんな私の姿を見て二人もにこやかな表情を浮かべていた。

「フェリシア嬢、次からグランのことはボスと呼んで構わないよ」
「え……」

「エルネスト様、お戯れはその辺に。フェリシア様が困っておられますよ」
「そうか?先程までは楽しそうに笑っていたようだが?」

「あ……、ついおかしくなってしまって。も、申し訳ありませんっ」

私は失礼な態度を取ってしまったことに気付き、慌てるように謝った。

「気にしなくていい。面白いものを見れて私も満足しているからな。このグランを戸惑わせたフェリシア嬢は大したものだ」
「……っ」

今までエルネストに対しては少し怖いという印象を持っていた。
それは王族という地位があったからだろう。
だけど目の前にいる彼は執事をからかい、楽しそうに笑っている。
人間味を感じることが出来て、どことなく私はほっとしていた。

そんなやり取りをしていると、お茶の準備が出来てテーブルの上に並べてくれた。
それに加えて可愛らしい形の焼き菓子まで用意してくれたようだ。

「まずはお茶でも飲んで、一息つこうか」
「はいっ、いただきます」

私はカップを手に取り、一口喉に流し込んだ。
するとハーブの爽やかな香りが鼻から抜けて「はぁ」と、小さく息を吐くと強ばった体から余計な力が抜けていくようだ。
飲みやすい温度にあたためられているので、二口、三口と喉に流していく。

「すごく美味しいお茶です」
「気に入ってもらえたようで良かったよ。グラン、彼女におかわりを用意してやってくれ」

あっという間に飲み干してしまうと、直ぐにグランがお茶を注いでくれた。

「ありがとうございますっ」
「お菓子の方も宜しければお召し上がりくださいね」

その後私はお菓子にも手を付けて、美味しそうにパクパクと食べ始めてしまった。
本来の目的を完全に忘れ、一時の楽しいお茶の時間を堪能していた。
その頃には緊張が完全に消え失せ、リラックスした状態に変化していた。
エルネストの気さくな一面を見れたことも大きく影響していたのだと思う。

エルネストはその時を見計らい、話しを切り出した。

「落ち着いたところで本題と行こうか」
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