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番外編 新婚旅行編
番外編・新婚旅行編⑤
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私達の滞在する部屋は二階の一番奥にあった。
アルフォンスが扉を開くと、私はゆっくりと室内の中へと入っていく。
「今日からここが俺達の部屋だ。ラウラはお茶でも飲んで少しゆっくりしていてくれ」
「アルは……?」
「俺は詰め所に行って少し挨拶をしてくる」
「それなら私もっ!」
私が慌てて返答をするとアルフォンスは「さっきお茶を頼んでしまったからな」と言った。
「あ……」
「ラウラは少し休んでいてくれ。すぐに戻るよ。それとも、俺と片時も離れたくないか?」
「……っ!」
「くくっ、なんてな。本当にすぐ戻るから、そんなに寂しそうな顔はしないくていい」
きっとアルフォンスは私を休ませるために、先程二人にお茶の準備を命じたのだろう。
それに今回は仕事をしに来たわけではないと話していた。
それならば、今回は大人しく引き下がっておくべきなのかもしれない。
「分かりました。私、そんなに寂しそうな顔してますか?」
「ああ、していたよ」
「……っ!!」
あまりにもあっさりと肯定されてしまい、私は慌てて自分の頬に触れた。
すると顔を覆った手を剥がされ、直ぐに彼の整った顔が迫ってくる。
「どうして顔を隠すんだ? 俺は照れているラウラの顔は結構好みだ。もっと良く見せて」
「……っ、またからかって!」
「ラウラが可愛い態度を見せるのが悪い」
「……っん」
彼の瞳に吸い込まれそうになっていると、唇にふわりと温かいものが重なる。
そして軽く唇を吸われると、すぐに離れていった。
「……ぁ」
「なに? もっとして欲しいか?」
私が切なそうな声を上げると、アルフォンスの口端が僅かに上がる。
そして彼の口から意地悪な言葉が出てきて、私はハッと我に返った。
「……っ! ち、違いますっ!」
「ラウラは本当に嘘を付くのが下手だな。物足りないんだろう? だけど、もうすぐここにはビアンカが来るはずだ。ラウラは濃厚なキスシーンを見せたいか?」
羞恥を感じさせる台詞を聞いて、さらに私の頬は熱を持ち始めていく。
「……っ!!」
「くくっ、耳まで真っ赤だ。本当にラウラは分かりやすい反応をする。そんな妻が愛おしくてたまらなくなるよ。片時も離れたくないのは俺のほうかもしれないな」
アルフォンスは私の耳元に唇を寄せると、艶のある声で囁いた。
彼の吐息が耳元を擽り、ぞくっと体が震える。
「いい子にして待っていたら、後で沢山ご褒美をやる。だから、今は大人しく休んでいてくれるか?」
「……分かりました。でもっ、今の言葉は少し語弊があると思います」
「どういう意味だ?」
「まるで、私が強欲みたいな言い方……」
私が少し不満そうに答えると、アルフォンスは柔らかく微笑み「違うのか?」と当然のように聞き返してきた。
その様子を見て、私のほうがさらに恥ずかしくなっていく。
「ち、違いますっ! アルが意地悪なことばかり言うから、勝手に体が反応してしまうだけで……」
「ラウラが興奮しているのは良く分かった。その熱も後でじっくりと時間をかけて解いてやる」
私は焦っていたこともあり、つい墓穴を掘るような発言をしてしまう。
アルフォンスが満足そうに答えた直後、扉の奥からトントンと音が響いた。
その音に私はビクッと体を震わせ、慌ててアルフォンスから離れる。
「ビアンカか?」
「はい。お茶をお持ちしました」
アルフォンスは「入ってくれ」と返すと、扉が開きカートを押したビアンカが入ってきた。
「悪いが、暫くラウラの相手をしてやってもらえるか? 二人でお茶を楽しんでいてくれ」
「かしこまりました」
彼はそう言うと私の耳元で「また後でな」と告げた後、部屋を出ていった。
***
アルフォンスが出て行った後、ビアンカがお茶の準備を始める。
「まさか、ビアンカさん達も来ているなんて思わなかったわ。言ってくれたら良かったのに……」
「アルフォンス様は、ラウラさんを驚かせるのが大好きな人だからね」
彼女の言葉に私はすぐに納得し、思わず苦笑する。
「ふふっ、相変わらずアルフォンス様に翻弄されているのね」
「はい……。私も一度くらいは翻弄する立場になってみたい」
ビアンカの言葉に反射するように、本音を漏らしてしまう。
彼女の前ではほとんど気を遣うことがないので、思ったことをそのまま口にすることが出来るのだ。
「それって案外簡単じゃない?」
「え? どういうことですか?」
「アルフォンス様はラウラさんにメロメロだし、少し誘惑すれば簡単に翻弄させることが出来るんじゃない?」
「メロメロって……。詳しく教えてくださいっ!」
少し羞恥を感じながらも、私はビアンカに真剣な顔で訪ねた。
すると彼女は少し戸惑った顔を見せる。
「そんなに必死な顔で言われると困るんだけど……。でも、そうね。例えば、普段と違う行動をしてみるとかはどう?」
「具体的には?」
「例えばラウラさんのほうから行動してみるとか。いつもと違うラウラさんを見たら、アルフォンス様も動揺するんじゃない?」
「なるほど……」
上手く出来たら、アルフォンスの知らない顔を見れるかもしれない。
私は彼のことが大好きだから、全てを知りたいと思っている。
だからこそ、この行為がとても魅力的に感じた。
「ビアンカさん。私、決めました」
「え? なにを?」
「この旅行中にアルを翻弄させて、私の知らない彼の顔を暴いてみようと思います!」
「随分面白い言い方をするのね。いいとは思うけど、あまりやり過ぎると返り討ちにされるんじゃない?」
私が意を決して告げると、ビアンカは少し驚いた顔を見せたが直ぐに苦笑いを浮かべた。
彼女が言っていることは間違ってはいないため、私の表情は僅かに引き攣る。
「うっ……、そうですね。そうならないように頑張ります」
こうして、私の小さな作戦はひっそりと幕を上げたのだった。
アルフォンスが扉を開くと、私はゆっくりと室内の中へと入っていく。
「今日からここが俺達の部屋だ。ラウラはお茶でも飲んで少しゆっくりしていてくれ」
「アルは……?」
「俺は詰め所に行って少し挨拶をしてくる」
「それなら私もっ!」
私が慌てて返答をするとアルフォンスは「さっきお茶を頼んでしまったからな」と言った。
「あ……」
「ラウラは少し休んでいてくれ。すぐに戻るよ。それとも、俺と片時も離れたくないか?」
「……っ!」
「くくっ、なんてな。本当にすぐ戻るから、そんなに寂しそうな顔はしないくていい」
きっとアルフォンスは私を休ませるために、先程二人にお茶の準備を命じたのだろう。
それに今回は仕事をしに来たわけではないと話していた。
それならば、今回は大人しく引き下がっておくべきなのかもしれない。
「分かりました。私、そんなに寂しそうな顔してますか?」
「ああ、していたよ」
「……っ!!」
あまりにもあっさりと肯定されてしまい、私は慌てて自分の頬に触れた。
すると顔を覆った手を剥がされ、直ぐに彼の整った顔が迫ってくる。
「どうして顔を隠すんだ? 俺は照れているラウラの顔は結構好みだ。もっと良く見せて」
「……っ、またからかって!」
「ラウラが可愛い態度を見せるのが悪い」
「……っん」
彼の瞳に吸い込まれそうになっていると、唇にふわりと温かいものが重なる。
そして軽く唇を吸われると、すぐに離れていった。
「……ぁ」
「なに? もっとして欲しいか?」
私が切なそうな声を上げると、アルフォンスの口端が僅かに上がる。
そして彼の口から意地悪な言葉が出てきて、私はハッと我に返った。
「……っ! ち、違いますっ!」
「ラウラは本当に嘘を付くのが下手だな。物足りないんだろう? だけど、もうすぐここにはビアンカが来るはずだ。ラウラは濃厚なキスシーンを見せたいか?」
羞恥を感じさせる台詞を聞いて、さらに私の頬は熱を持ち始めていく。
「……っ!!」
「くくっ、耳まで真っ赤だ。本当にラウラは分かりやすい反応をする。そんな妻が愛おしくてたまらなくなるよ。片時も離れたくないのは俺のほうかもしれないな」
アルフォンスは私の耳元に唇を寄せると、艶のある声で囁いた。
彼の吐息が耳元を擽り、ぞくっと体が震える。
「いい子にして待っていたら、後で沢山ご褒美をやる。だから、今は大人しく休んでいてくれるか?」
「……分かりました。でもっ、今の言葉は少し語弊があると思います」
「どういう意味だ?」
「まるで、私が強欲みたいな言い方……」
私が少し不満そうに答えると、アルフォンスは柔らかく微笑み「違うのか?」と当然のように聞き返してきた。
その様子を見て、私のほうがさらに恥ずかしくなっていく。
「ち、違いますっ! アルが意地悪なことばかり言うから、勝手に体が反応してしまうだけで……」
「ラウラが興奮しているのは良く分かった。その熱も後でじっくりと時間をかけて解いてやる」
私は焦っていたこともあり、つい墓穴を掘るような発言をしてしまう。
アルフォンスが満足そうに答えた直後、扉の奥からトントンと音が響いた。
その音に私はビクッと体を震わせ、慌ててアルフォンスから離れる。
「ビアンカか?」
「はい。お茶をお持ちしました」
アルフォンスは「入ってくれ」と返すと、扉が開きカートを押したビアンカが入ってきた。
「悪いが、暫くラウラの相手をしてやってもらえるか? 二人でお茶を楽しんでいてくれ」
「かしこまりました」
彼はそう言うと私の耳元で「また後でな」と告げた後、部屋を出ていった。
***
アルフォンスが出て行った後、ビアンカがお茶の準備を始める。
「まさか、ビアンカさん達も来ているなんて思わなかったわ。言ってくれたら良かったのに……」
「アルフォンス様は、ラウラさんを驚かせるのが大好きな人だからね」
彼女の言葉に私はすぐに納得し、思わず苦笑する。
「ふふっ、相変わらずアルフォンス様に翻弄されているのね」
「はい……。私も一度くらいは翻弄する立場になってみたい」
ビアンカの言葉に反射するように、本音を漏らしてしまう。
彼女の前ではほとんど気を遣うことがないので、思ったことをそのまま口にすることが出来るのだ。
「それって案外簡単じゃない?」
「え? どういうことですか?」
「アルフォンス様はラウラさんにメロメロだし、少し誘惑すれば簡単に翻弄させることが出来るんじゃない?」
「メロメロって……。詳しく教えてくださいっ!」
少し羞恥を感じながらも、私はビアンカに真剣な顔で訪ねた。
すると彼女は少し戸惑った顔を見せる。
「そんなに必死な顔で言われると困るんだけど……。でも、そうね。例えば、普段と違う行動をしてみるとかはどう?」
「具体的には?」
「例えばラウラさんのほうから行動してみるとか。いつもと違うラウラさんを見たら、アルフォンス様も動揺するんじゃない?」
「なるほど……」
上手く出来たら、アルフォンスの知らない顔を見れるかもしれない。
私は彼のことが大好きだから、全てを知りたいと思っている。
だからこそ、この行為がとても魅力的に感じた。
「ビアンカさん。私、決めました」
「え? なにを?」
「この旅行中にアルを翻弄させて、私の知らない彼の顔を暴いてみようと思います!」
「随分面白い言い方をするのね。いいとは思うけど、あまりやり過ぎると返り討ちにされるんじゃない?」
私が意を決して告げると、ビアンカは少し驚いた顔を見せたが直ぐに苦笑いを浮かべた。
彼女が言っていることは間違ってはいないため、私の表情は僅かに引き攣る。
「うっ……、そうですね。そうならないように頑張ります」
こうして、私の小さな作戦はひっそりと幕を上げたのだった。
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