上 下
22 / 39
番外編

23.後悔②-sideフェリクス-

しおりを挟む
 アルフォンスの視線は見つめると言うよりは、睨むと表現した方が正しいかもしれない。

 僕は何か喋らないと…、と頭の中では分かっているのに焦るばかりで良い言葉など一向に浮かんで来ない。
 もし言葉を間違えればこの場で斬り殺されてしまんじゃないかという恐怖を感じていた。
 だから結果的にいつまで経っても言葉が出て来ることはなく、押し黙ってしまった。

「…君は、わざわざラウラを探してこんな所にまで会いに来て、彼女に何を伝えに来たんだ?……ラウラから事情は少し聞いているが、君は妹と浮気をしたのにも関わらずラウラを悪者にして一方的に婚約破棄を迫ったそうじゃないか…。そして更には家まで追い出したと…」
 アルフォンスの声は落ち着いてる様に聞こえたが、明らかに僕に対して嫌悪感を表していた。

「……家を追い出したのは僕ではなく、バーデン伯爵が…」
 僕は慌てる様に否定した。

 家を追い出したのは僕じゃない!
 バーデン伯爵のした事まで僕のせいにされたくはなくて、とっさに声に出てしまった。

「ああ、そうだな。…だったな。ラウラはもうバーデン家の人間では無い。もう君とも無関係だ、そんな赤の他人である君が何故今更ラウラに会いに来る必要があるんだ?」
「…それは…、バーデン伯爵がラウラの事を探していて…僕に連れ帰る様に頼んで来たからです…!」

 僕は本来の目的を既に見失っていた。
 本当はラウラに謝りたくてここまで来たはずなのに、アルフォンスに責められると責任転嫁する様な言葉ばかりが出て来てしまう。

 だけど間違ってはいない。
 僕は嘘をついてはいない…、悪いのはバーデン伯爵だ。


「連れ帰る…?それはどういう意味だ…」
「……バーデン伯爵は、僕とラウラを再度婚約させようと思っているみたいです…」
 怪訝そうな表情を浮かべるアルフォンスの顔色を伺うように、僕はそう言った。

 アルフォンスの怒りの原因は、僕達がラウラに酷い扱いをしたことにあるのは間違いないだろう。
 恐らくラウラは僕等がしたことを、アルフォンスに話したのだろう。
 そしてアルフォンスはそれに同情した…、ならば取り合えず今は悪かったと謝ってラウラとの婚約を望んでる様に見せた方が良いのかもしれない…。

(それでいこう…)

「僕も……、ラウラには本当に悪い事をしたと思っているんです。それに…レオナに惹かれたのは…一時的なものに過ぎません。僕はラウラとやり直したいと思ってま…」
「ふざけるなっ…!」
 黙っていたアルフォンスが突然激怒した。
 怒鳴り声は部屋中に響き渡り、僕はビクッと体を跳ねさせた。

「お前なんかにラウラは渡さない。お前達はラウラの気持ちなど一切考えることはせず、どこまでも自分勝手な事ばかり言うんだな!自ら関係を断っておいて今更連れ戻す…?馬鹿なのか…?そんなことは俺が許さない」
「……も、申し訳ございませんっ…。本当はラウラと婚約する気は無かったんです。でもどうしてもとバーデン伯爵に言われて仕方なく…」

「……君には自分の意思がないのか?ただ他人の言葉に簡単に動かされ、自分では何も考えようとはしない。まるでただの操り人形だな…。君がバーデン伯爵や、彼女の妹にいい様に動かされている姿が容易に想像できる。そんな君に話した所で時間の無駄だな…」
 アルフォンスは呆れた口調で話すと立ち上がった。
 そしてアルフォンスは、僕の横で立ち止まり「哀れな人間だな」と一言呟いた。
 冷たい視線で僕を一瞥すると、そのまま部屋を出て行った。

 アルフォンスが居なくなりほっとした。
 だけど、彼に言われた言葉が心に引っかかっていた。

 『操り人形』と言われたことがショックだった。
 その言葉は間違ってはないからだ。

 今日だって本当はラウラに謝りに来たはずなのに、一言もそんな言葉を言えなかった。
 僕はただ自分は悪くないと言っているだけだった。

 恐らくこの事で僕の心証は最悪なものとなったのだろう。




 後日家に公爵家から抗議文が送られてきた。
 それを読んだ両親は呆れ果て、僕を見限った。

 この侯爵家は僕ではなく弟に継がせると一方的に言われた。
 両親や弟達からは、まるで疫病神を見るような目で見られる。
 毎日嫌味を言われ、睨まれる日々。
 僕は蔑まれ、この家に僕の居場所などはもうないも同然だった。

 こんな生活には耐え切れないが、貴族として育った僕はこの家を捨てて出て行くなんて無理だ。
 だから何を言われても耐えるしかない…。

 自分がこんな状況に堕ちたことでラウラの気持ちが漸く理解出来た。
 僕がしたことで、どれだけラウラを傷付けたのか。
 ラウラは10年以上それを耐えて来たに違いない。

(僕は…なんてことをしてしまったんだ…)

 これはまさに因果応報なのだろう。
 僕は自分がして来た事を、ただ後悔する事しか出来なかった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!

臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。 そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。 ※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています ※表紙はニジジャーニーで生成しました

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。