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39.救われないもの

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 暖かさを感じてゆっくりと目を開けると、暖炉の中で形を変える様に揺れている炎が視界に映っていた。

(ここは…どこ?)

「……起きたのか?」
「…ん…あれ…?…カイ…ン…さん?」

 私がゆっくりと体を起こすと、少し離れた所に座っているカインと目が合った。

(どうしてカインさんがいるの…?たしか…あの時、急にカインさんに背後から襲われて…)

「……っ…!!」

 意識を失う寸前の記憶を呼び覚ますと、警戒する様にカインを見つめた。

「ど、どういうつもりですか…!?私を誘拐したの?」
「……そうだ。俺が君を誘拐した。だけど安心してくれ…。君には危害を加えるつもりは無いからな。君を攫った俺に言えた義理ではないが、身の安全だけは保障する。だから、そんなに怖がらなくても大丈夫だ」

 そんな事を言われても、誘拐犯の言う言葉なんて信じられるはずがなかった。
 私は立ち上げると、扉の方へと移動した。

「どこに行くつもりだ?今は深夜だぞ?それに言っておくがここは森の中だ。夜の森が危険なのは君も知っているんじゃないか?」

 私はカインの言葉を聞かずに扉を開くと、確かにこの場所は森の中で間違いは無さそうだった。

 外は真っ暗で、深夜なので月明りも殆どない。
 そんな夜の森の中を歩く事がどんなに危険なのか、私にでもすぐに分かった。

「どうして、こんなことをしたんですか?」

 私は諦めて扉を閉めると、カインを睨みつけた。

「事情はもちろん話すよ。そんな格好じゃ寒いだろ…?暖炉の方で暖まっていた方がいいんじゃないか?」
「……っ…」

 私は肩が出ているドレスに裸足だった為、寒さには勝てず不満そうな顔をしながらも暖炉の方へと戻った。
 夜の森は温度が一気に下がる為、本当に寒い。

「肩、寒そうだな。嫌かもしれないが、俺の上着を使ってくれ…」

 床に置かれていたカインの上着を見て、私が寝ている時に掛けていてくれたことに気付いた。

 カインは私を攫った癖に、どうして私に優しくするのか不思議でならなかった。
 私は寒さには抗えず、上着を取ると肩の上から羽織った。

 ここはどうやら森の中にある小さな小屋の様だ。
 部屋はそれほど広いわけでもなく、家具なども殆ど置かれていない。
 ここは住居と言うよりは、一時的に休む為の場所の様に思える。


「どういうことなのか、ちゃんと説明してくださいっ…」
「ああ。ちゃんと話す。まずはこんなことに君を巻き込んでしまった事、本当に申し訳なく思ってる、すまない。謝って済むことではない事も分かってる、だから君を解放させたら…ちゃんと…」

「そんな謝罪の言葉なんていりませんっ!私…許すつもりないし…。それよりどうしてこんなことになっているのか…それを教えてくださいっ!」

 私はカインの言葉を遮る様に強い口調で言った。

「そうだな…。今回君を攫ったのは、レオと引き剥がす為だ。君が邪魔だったんだよ…」
「……っ…」

 カインの思いがけない言葉に私は言葉を失ってしまった。

「君はディレクの事はレオから聞いて、ある程度は知っているんだよな?」
「はい…、少しだけ…」

「レオが王都から去った後、俺は傷心していたエリーヌの傍に付いて出来る限り力は尽くしたけど…俺ではエリーヌの傷を癒すことが出来なかった。だから…レオに会いにあの街まで行き、王都に戻る様に説得した。結局追い返されたけどな…」
「レオンさんだって…ずっと長い間苦しんでいたんだと思います。毎日教会に通わないと悪夢に魘されて眠れないって言ってたから…」

「今だってレオもあの悪夢からは逃れられず、苦しんでいるんだと思うんだ…」
「レオンさんは、大丈夫ですっ…!」

(レオンさん、私が傍にいれば悪夢は見なくなったって言ってくれた…。だからレオンさんはきっと大丈夫…)

「どうしてそう言い切れるんだ?どうせ君の前では強がっているだけだろ?」
「そんなこと…ないと思う」

「君はレオでは無いのに、心の内が全て分かるのか?レオがどれだけディレクと深い繋がりがあったのか、何も知らない君にはレオの傷を癒す事なんて…絶対に無理だよ」

 カインは冷たい瞳で私を見ていた。

「カインさんだって…レオンさんじゃないんだから、レオンさんの気持ちが分かるわけ無いですよね?私は過去の事は確かに知らないけど、今のレオンさんの事は誰よりも分かっているつもりですっ!貴方に絶対無理とか言われたくない」

 今までレオンが私に言ってくれた言葉を全て否定された気がして、言わずにはいられなかった。

「君の言いたい事は分かる…。だけど、無理なんだ。俺もこの4年間、ずっとエリーヌの傍にいて、彼女を救う事だけを考えて来た。だけど…、何も変わらなかった。お互いを救えるのは同じ傷を持つ二人だけだ…。レオの事を本気で救いたいと思っているのであれば、レオから身を引いて欲しい…」
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