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34.夜会へ

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 部屋でレオンと寛いでいると、トントンとノックする音が聞こえてきた。

「レオンハルト殿下、そろそろ夜会が開催されます。会場へと向かわれますか?」
「ああ、そうだな。ニナ…行こうか」

 執事が入って来ると夜会が始まった事を知らされ、私達はソファーから立ち上がった。
 立ち上がるとレオンはすぐに私に手を差し出してくれて、それだけでなんだかドキドキしてしまう。

(初めての夜会…楽しみだな)


「会場までご案内致します…」
「ああ、頼む」

 執事の後を追うように私とレオンは並んで歩き、再び長い廊下を通る。

「この廊下、すごく長いですよね。王宮ってすごく広そうだけど、レオンさんは迷ったりとかしなかったんですか?」
「そうだな。子供の頃は何度か迷いそうになったことはあったけど、いつも傍にはメイドが居たから迷ったことは無かったな」

 歩きながら私が問いかけると、レオンは思い出す様に答えた。

(レオンさんの幼少期ってどんなだったんだろう。今度ゆっくり聞いてみよう…)

「レオンさんはここに来るのは久しぶりで懐かしいですよね?」
「少し懐かしさは感じるな。だけど、俺はそれ程長く王宮にいたわけでは無いから、そこまで思いれはないけどな…」

「え…?そうなんですか…?」
「15歳の頃には騎士団に入団していたからな。俺は幼い頃から騎士になる事だけを考えて過ごしていたから…」

「それで本当に夢を叶えたんですね。レオンさんってすごいな。私もレオンさんが騎士している時の姿、見てみたかったなぁ…。……っ…ご、ごめんなさいっ!騎士時代の話って…あんまりしたくないですよね…」

 会話が弾みついそんなことを口走って、私は慌てて謝った。

「いや、もう気にしていないから。変に気を遣わなくても大丈夫だぞ。俺もニナのおかげで過去を乗り越えられたからな」
「レオンさんっ…」

 私が泣きそうな顔でレオンのことを見つめていると、レオンは困った様に小さく笑った。

「そんな悲しそうな顔をするなよ、俺は本当にもう平気だ」
「……うん」

 レオンの表情を見ていると、無理している様子はなく本当に大丈夫そうで私は安心した。

「ニナ、そろそろ会場に着くな。周りが賑やかになってきた…」
「ほんとだ、奥から音楽が聞こえてくるっ…!」

 長い廊下を抜けると、夜会の会場になる大広間が見えて来た。
 周りには着飾った貴族達の姿が見え始め、ざわざわと人の話し声も聞こえてくる。
 その光景を見ると、ここがパーティー会場なのだと実感が湧いてきて、私の胸は高鳴っていく。

「本日、レオンハルト殿下は急遽参加という形になりますので、入場はご自由にして頂いて構わないとのことです」
「ああ、案内助かったよ。ありがとう」

 レオンが挨拶を済ますと、執事は傍から離れて行った。

 会場の入口には長い列が出来ていた。
 恐らくがあれが会場入りする列なのだろう。

「レオンさん、並びますか…?」
「ああ、そうだな」

 私達は列の最後尾へと並んだ。

 私は辺りをきょろきょろと落ち着きがない様子で見渡していた。
 先程からこちらに向けられて来る視線が気になって仕方が無い。
 それは私ではなく、レオンに向けられているものだと暫くしてから気付いた。
 レオンが王子だから気になって見ているのかと思っていたが、どうやら違う気がする。
 何故なら送られて来る視線は、どれも若い令嬢達によるものだったからだ。

「レオンさん…」
「どうした…?」

「さっきから視線を感じませんか?」
「ああ、確かに…俺もそれは感じていた。俺は社交界にはあまり参加した事が無かったし、王宮行事にも殆ど参加してなかったから、俺が王子だと言う事は知られていない方だと思うんだが…」

「あの、多分ですけど…レオンさんが目立っているんじゃないですか?」
「どういう意味だ…?」

「レオンさんって…絶対女性受けする容姿だと思うんですよ。綺麗な顔してるし…体型だってがっちりしていて、守ってくれそうな感じするし…」

 私が不満そうな顔でレオンを見つめていると、レオンは意地悪そうな顔で私のことを見つめて来た。

「ニナは嫉妬してくれているのか?可愛いな…」
「……っ…、う、浮気は…だめですっ…」

 私が恥ずかしそうに小声で呟くと、レオンは可笑しそうに笑い出した。

「浮気か…。こんなに可愛いニナがすぐ傍にいるのに、他の女に気を取られるわけがないだろう?なんならニナが誤解しない様に、この場で濃厚なキスでも見せつけるか…?」
「……っ…!!」

 レオンは私の耳元でそんなことを囁き始め、私は慌てて口元を手で隠し、顔を激しく横に振った。

(こんな場所でとか絶対無理っ…!ここにどれだけの人がいると思っているの!?)

「ぷっ…、冗談だよ。そんなことしたらニナの可愛い顔を他の男にも見られる事になるからな。ニナが照れてる顔を見せるのは俺の前だけにして欲しいからな。今だって、そんなに顔を真っ赤に染めて…」
「これはっ、レオンさんが突然変な事を言うからっ…!」

 私が慌てて言い返すと、レオンは再び私の耳元に唇を寄せた。

「これ以上…その可愛い顔を他の人間に晒すつもりなら、後でお仕置きだな…」

 レオンは吐息交じりに私の耳元で囁いた。
 私はビクッと体を震わせレオンから離れようとするが、何故かレオンの手は私の腰にしっかりと固定されていた。
 その為逃げられない。

「お二人は仲が宜しいんですね…」

 突然、前に並ぶ同年齢位の男から声を掛けられた。

「そう見えますか?……ニナ、聞いたか?俺達仲良く見えているらしいぞ?俺の妻は夜会に参加するのが初めてで、少し緊張してる様なんだ。だからその緊張を少し解そうとしていた所なんです…」
「つ、妻…!?」

 突然レオンから妻と呼ばれて私は動揺してしまった。
 それと同時に恥ずかしくなり顔が赤く染まっていく。

「もしかして、新婚さんですか?」
「まぁ、そんな所です。そうだよな、ニナ?新婚って言われたくらいで、そんなに顔を真っ赤に染めて…ニナは本当にどうしようもないな」

 私が動揺していると、レオンは私の耳元で「お仕置きは決定だな」と小さく囁いた。

「……っ…!」
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