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8.優しさ
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私は客間を出て、店内に戻ると一緒に来ていたレオンを探していた。
(さっきは動揺し過ぎて何も言わずに中に入ってしまったけど…レオンさんに悪い事したな…)
きょろきょろと店内を見渡すと、いつもの奥の席にレオンの姿を見つけて私は向かった。
「レオンさん、さっきは勝手に行ってしまってごめんなさいっ…。ご飯もう食べましたか?」
「いや、気にしなくていい。ニナが戻って来るか分からなかったから、まだ食べてない」
レオンはどこか心配そうに私の顔を見つめていた。
私は普段通りの口調で話すと、レオンと向かい合う様に椅子に座ろうとした。
「ニナちゃん、ジルとちゃんと話せた…?」
「はい。話してきました…」
振り返るとそこには複雑な表情を浮かべるリーズの姿があった。
その顔を見た瞬間、リーズは既に全てを知っているのだと確信した。
だからあの時ジルを睨んでいたのだと、分かった気がした。
「そっか…。今日は仕事、休んでいいよ。レオンさん、ニナちゃんをどこかに連れて行ってあげて」
「私、大丈夫ですよ。仕事出来ますっ…」
私が言い返すとリーズは「いいから」と心配そうに私の肩を軽く叩いた。
(リーズさん…。私に気を遣ってくれているのかな…)
私はリーズに心配をかけてしまい申し訳ないなと思っていると、レオンに手を握られた。
「ニナ、行こう。たまには屋台でなんか食べるか…」
「……レオンさん。そう…ですね、じゃあ今日はレオンさんのおごりですか?」
私が冗談ぽく話すと、レオンは「そうだな」と小さく答えた。
レオンにまで気を遣わせてしまっている気がして、申し訳なく思ってしまう。
私はレオンに手を繋がれたまま食堂を後にした。
***
歩きながら私はちらちらとレオンの横顔を眺めていた。
(どうしよう…。レオンさんにも心配かけているよね…)
「ニナは何が食べたい…?」
「……えっと、じゃあクレープ…!」
屋台が見えて来ると、目に入ったクレープの店を指さした。
「クレープか…、わかった。ニナはそこのベンチで座って待ってて。買って来る」
「ありがとうございますっ…」
私は近くにあったベンチに座り、待ってる間ジルの事を考えていた。
(ジル、助けてくれた伯爵令嬢と結婚するのかぁ…)
ジルが私以外の誰かと結婚すると聞いた時、たしかにショックは感じていた。
だけど意外な程冷静でいられる自分に驚いていた。
まるで客観的に見ている様だった。
(1年離れていたから気持ちも離れちゃったのかな…)
私がそんなことを考えていると、レオンが両手にクレープを持って戻って来た。
買って来てくれたレオンには悪いけど、その姿が本当に似合っていなくて笑いが込み上げてくる。
「何笑ってるんだよ…」
「ううん、なんでもないです。ありがとうございますっ…」
私が可笑しそうにクスクスと笑っていることに気付くと、レオンは怪訝そうな顔で聞いて来た。
「味が2種類あって、どっちが好みか分からなかったから両方買って来た…」
「そうなんですね、レオンさんはどっちが良いですか…?」
レオンは手に持ってるクレープを二つ、私の前に差し出して来た。
「両方ともニナの為に買ったものだ…。甘い物好きだろ?」
「好きです、ありがとうございますっ…」
私はレオンの優しさを感じると笑顔でお礼を言い、二つのクレープを手に取った。
「レオンさんは食べないんですか…?」
「俺は他の所で後で買うよ。ニナだって、それだけじゃ足りないだろ…?」
「私を太らせる気ですかっ…!でもレオンさんのおごりなら食べますけどっ…!」
「遠慮するな…。ニナはどっちかと言うと痩せてるし、食べ過ぎても問題ないだろ…」
私は一口クレープを頬張ると、甘さが口いっぱいに広がり表情がどんどん緩んでいく。
そんな私の姿を隣で眺めていたレオンも、ほっとした表情を浮かべていた。
(レオンさん、私の事…元気付けようとしてくれているのかな。…ありがとう)
「さっきジルに呼ばれて…空白だった1年間に何があったのか聞きました…」
「そうか…」
「行った先で事故に遭って、記憶喪失にもなってしまったとか。それから…そこで出会った女性に親切にされて、お互い好きになって…婚約までしているそうです。私、その話を聞いた時…確かにショックは感じたんですけど意外とそうでもなくて。私が今までジルを待っていたのって好きだって気持ちは勿論あったとは思うけど、生きていて欲しいって部分が大きかったみたいです」
「俺の前で強がる必要なんてないんだぞ?」
「本当に強がってるとかじゃなくて…、ほっとしているんです。私の願いは叶ったんだなぁって。1年間教会に通い詰めた甲斐がありましたっ!」
私は笑顔でそう答えていた。
ジルの事は今でも心から感謝しているし、幸せになって欲しいとも思っている。
例え私では無い人と結ばれても…。
(さっきは動揺し過ぎて何も言わずに中に入ってしまったけど…レオンさんに悪い事したな…)
きょろきょろと店内を見渡すと、いつもの奥の席にレオンの姿を見つけて私は向かった。
「レオンさん、さっきは勝手に行ってしまってごめんなさいっ…。ご飯もう食べましたか?」
「いや、気にしなくていい。ニナが戻って来るか分からなかったから、まだ食べてない」
レオンはどこか心配そうに私の顔を見つめていた。
私は普段通りの口調で話すと、レオンと向かい合う様に椅子に座ろうとした。
「ニナちゃん、ジルとちゃんと話せた…?」
「はい。話してきました…」
振り返るとそこには複雑な表情を浮かべるリーズの姿があった。
その顔を見た瞬間、リーズは既に全てを知っているのだと確信した。
だからあの時ジルを睨んでいたのだと、分かった気がした。
「そっか…。今日は仕事、休んでいいよ。レオンさん、ニナちゃんをどこかに連れて行ってあげて」
「私、大丈夫ですよ。仕事出来ますっ…」
私が言い返すとリーズは「いいから」と心配そうに私の肩を軽く叩いた。
(リーズさん…。私に気を遣ってくれているのかな…)
私はリーズに心配をかけてしまい申し訳ないなと思っていると、レオンに手を握られた。
「ニナ、行こう。たまには屋台でなんか食べるか…」
「……レオンさん。そう…ですね、じゃあ今日はレオンさんのおごりですか?」
私が冗談ぽく話すと、レオンは「そうだな」と小さく答えた。
レオンにまで気を遣わせてしまっている気がして、申し訳なく思ってしまう。
私はレオンに手を繋がれたまま食堂を後にした。
***
歩きながら私はちらちらとレオンの横顔を眺めていた。
(どうしよう…。レオンさんにも心配かけているよね…)
「ニナは何が食べたい…?」
「……えっと、じゃあクレープ…!」
屋台が見えて来ると、目に入ったクレープの店を指さした。
「クレープか…、わかった。ニナはそこのベンチで座って待ってて。買って来る」
「ありがとうございますっ…」
私は近くにあったベンチに座り、待ってる間ジルの事を考えていた。
(ジル、助けてくれた伯爵令嬢と結婚するのかぁ…)
ジルが私以外の誰かと結婚すると聞いた時、たしかにショックは感じていた。
だけど意外な程冷静でいられる自分に驚いていた。
まるで客観的に見ている様だった。
(1年離れていたから気持ちも離れちゃったのかな…)
私がそんなことを考えていると、レオンが両手にクレープを持って戻って来た。
買って来てくれたレオンには悪いけど、その姿が本当に似合っていなくて笑いが込み上げてくる。
「何笑ってるんだよ…」
「ううん、なんでもないです。ありがとうございますっ…」
私が可笑しそうにクスクスと笑っていることに気付くと、レオンは怪訝そうな顔で聞いて来た。
「味が2種類あって、どっちが好みか分からなかったから両方買って来た…」
「そうなんですね、レオンさんはどっちが良いですか…?」
レオンは手に持ってるクレープを二つ、私の前に差し出して来た。
「両方ともニナの為に買ったものだ…。甘い物好きだろ?」
「好きです、ありがとうございますっ…」
私はレオンの優しさを感じると笑顔でお礼を言い、二つのクレープを手に取った。
「レオンさんは食べないんですか…?」
「俺は他の所で後で買うよ。ニナだって、それだけじゃ足りないだろ…?」
「私を太らせる気ですかっ…!でもレオンさんのおごりなら食べますけどっ…!」
「遠慮するな…。ニナはどっちかと言うと痩せてるし、食べ過ぎても問題ないだろ…」
私は一口クレープを頬張ると、甘さが口いっぱいに広がり表情がどんどん緩んでいく。
そんな私の姿を隣で眺めていたレオンも、ほっとした表情を浮かべていた。
(レオンさん、私の事…元気付けようとしてくれているのかな。…ありがとう)
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「そうか…」
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「俺の前で強がる必要なんてないんだぞ?」
「本当に強がってるとかじゃなくて…、ほっとしているんです。私の願いは叶ったんだなぁって。1年間教会に通い詰めた甲斐がありましたっ!」
私は笑顔でそう答えていた。
ジルの事は今でも心から感謝しているし、幸せになって欲しいとも思っている。
例え私では無い人と結ばれても…。
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