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5.過去の呪縛
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「な、泣いてなんていませんっ…!!って言うか、レオンさん!いきなり何をするんですかっ…!!」
突然レオンに抱きしめられ事で驚きと動揺が同時にやって来た。
その為、一瞬で涙は引っ込んでしまった様だ。
「本当に泣いてないのか…?」
「泣いてませんっ…」
レオンは抱きしめる力を緩めると、私の顔をじっと見つめて来た。
こんな至近距離で見つめられて、私は恥ずかしさから視線を合わせることが出来なくて目を泳がせていた。
(びっくりして息が止まるかと思った…。今もだけど…)
「確かに…目元は少し濡れている様だが…今は泣いてはいないみたいだな」
「そうですよっ!泣いてませんっ…!だから、早く離れてくださいっ…」
レオンは私の目元に指を滑らせ、滲んでいる涙を拭ってくれた。
そして慌てている私の姿を見て僅かに口端を上げると、私の耳元に顔を寄せて「動揺し過ぎ」と意地悪そうな声で囁いた。
私は思わずビクッと体を震わせてしまうと、レオンの胸を両手で力いっぱい押しやった。
「ニナって可愛い反応するんだな…」
「……っ…!!」
レオンは私から離れると楽しそうに笑っていた。
私はなんだか悔しくなり、顔を真っ赤に染めながら恨めしそうにレオンを睨んでいた。
(くやしいっ…!レオンさんって意地悪だ…)
「そんなに怒るなよ…。少しからかっただけだろ…?」
「少しじゃないですっ…!」
「どうしたら許してくれるんだ?」
「え?じゃあ、レオンさんがいつも祈ってる事を教えてくださいっ!」
咄嗟に思い浮かんだのはそれだった。
レオンは毎日何を祈っているのか、ずっと気になっていた。
だけど私が聞くと、レオンは一瞬驚いた顔を見せ、その後曇った表情へと変わっていった。
(……聞いてはいけない事だった?)
「俺は祈るためにここに来てるわけじゃない…」
「……?」
レオンが言ってる意味が私には良く分からなった。
私が不思議そうに首を傾げると、レオンはどこか寂しそうな表情を見せた。
「俺はある人の命を奪ってしまったから…、謝る為に毎日ここに通っているんだ…」
「え…?」
「驚いたか…?」
「それは、あの…どういう事ですか…?」
思いも寄らなかったレオンの言葉に驚いてしまったが、とても悲しそうな顔をするレオンを見ていると私は力になりたいと思うようになっていた。
真直ぐ視線を向ける私に気付いたレオンは、少し困惑している様に見えた。
「ニナはこんな話を聞いて怖いとは思わないのか?」
「思いませんっ…。だって私が知ってるレオンさんは悪い人じゃない気がするから…」
私はレオンがどういう人物なのかは全く知らない。
矛盾しているとは思うが、悪い人にはどうしても思えなかった。
「なんだよ…。ニナって本当に変わってるな。大体の人間はこう切り出すと怖がって逃げるんだけどな…」
「私を試したんですか?酷いっ!」
私がむっとした顔を見せると、レオンは静かに過去を語り始めた。
「俺は二年前まで騎士をしてたんだ…」
「騎士…?言われてみると、なんかそんな感じします!」
騎士と言われて、すんなり納得出来た。
長袖のシャツを着ているから肌は見えないけど、がっちりとした体で鍛えられてそうな感じがした。
「俺には幼馴染がいたんだ…。小さい頃から何かと気が合う奴で…入団試験を一緒に受けて合格して、同じ第一騎士団配属になった。だけど第一騎士団って言うのは最前線で戦う事が多いから最も危険な所だと言われてるんだ。でもやりがいはあったし、お互い歴史に名を刻むような騎士になりたいと願ってたからな。俺達にとっては最高の場所だった」
(騎士ってかっこいい!でも…一番危ない場所って事は命がけだったってことだよね。レオンさん、すごいなぁ…)
「入団したのが15歳の頃で8年目を迎える頃だった。俺達はそこそこ戦果を挙げて、実力もそれに伴って上がっていたから、自分達の力に過信し過ぎていたんだと思う…。あの日…、俺は判断を見誤った。その事により窮地に陥ってしまったんだ…。それで、あいつは俺を庇って……っ…」
「……」
レオンは結末を告げなかったが、何を言おうとしているのか分かってしまった。
私がレオンの方に視線を向けると、その瞳は悲しそうに揺れている様に見えて胸が苦しくなった。
何か励ます様な言葉をかけなきゃと思っているのに、直ぐには言葉が思い浮かばない。
私は悲しそうな表情で見つめる事しか出来なかった。
「ニナ、俺に気を遣う必要なんてないからな…」
「……っ…」
私の視線に気付いたレオンは弱弱しく笑ってみせた。
「その事があってから、剣を持つとあの時の光景が脳裏に浮かぶんだ。あの日以来、剣を握ることは無かった…。だから騎士は辞めたんだ。ここに来てる理由は祈る為じゃない…、自分がしたことへの後悔と、謝罪の為…。こんな事をしても何かが変わるわけではないけど、それ位しか俺には出来ないから…」
「……レオンさん…っ…」
私は気付くとレオンにぎゅっと抱き着いていた。
「ニナ…?どうしたんだ?」
「レオンさん、…なんだか消えてしまいそうだったから…」
「消える、か…。俺が泣いているとでも思ったか?」
「……心が…泣いてますよね。いいんですよっ…!こうしていたら私には顔は見えないし…泣き叫んでもっ」
私がそう言うとレオンは「泣き叫びはしないな」と可笑しそうに笑っていた。
「ニナは優しいな…。だけど、いいんだ。俺は一生この罪を背負って生きて行こうと思っているからな。気持ちだけ受け取っておくよ。ありがとな…」
レオンは優しい声でそう呟くと、私の肩を押して引き剥がした。
(これからの人生、悔やんだまま生きて行くってこと…?レオンさんと毎日ここで会えるのは嬉しいけど、ずっと過去に苦しみ続けるなんて…。そんなの辛過ぎるよ。私に出来る事は何か無いのかな…)
「分かっただろう?ニナももう俺になんて関わらない方が良い。無理して挨拶する必要も無いよ」
「無理なんてしてませんっ…!私はしたいからしてるだけで…。それにやっと…こうやって話せるようになったのに、そんなこと言わないでっ…」
私は悲しそうな瞳でレオンを見つめると、レオンは私の腕を引っ張り再び胸の中に押し込んだ。
そして私は強く抱きしめられていた。
(レオンさん…)
「私、レオンさんの話し相手くらいにならなれますっ!だからっ…、遠慮なく私を使ってください。私達仲間じゃないですかっ…!悩み事の内容は違うけど、お互い励まし合いましょ?そうしたら私も助かるし…嬉しいです!」
「ほんと…、ニナって変わってるよな。俺と傷の甞め合いをしたいのか?」
レオンは呆れた様に答えていたが、先程よりは声が少し明るく感じられて、私はほっとしていた。
「いいじゃないですかっ、傷の嘗め合い…。それで気持ちが少しでも晴れるのなら…、そう思いませんか?」
「……そうだな」
私はどこかで、ジルはもう私の元へは戻って来ないと分かっていたのかもしれない。
だけどそう認めてしまえば、私の築き上げてきた幸せが足元から壊れて行く様で怖くて、強がって帰って来ると信じようとしていた。
レオンは大事な人を失くして、それを全て自分の所為だと思い込んでいる様だった。
罪を背負い謝り続ける事が、生きる糧に繋がっている…とでも言っている様に聞こえた。
理由は違うけど、私達は大切な人を失くした者同士どこか通じ合う所があるのかもしれない。
だからこんなにも私はレオンの事が気になっているのだろうか…。
突然レオンに抱きしめられ事で驚きと動揺が同時にやって来た。
その為、一瞬で涙は引っ込んでしまった様だ。
「本当に泣いてないのか…?」
「泣いてませんっ…」
レオンは抱きしめる力を緩めると、私の顔をじっと見つめて来た。
こんな至近距離で見つめられて、私は恥ずかしさから視線を合わせることが出来なくて目を泳がせていた。
(びっくりして息が止まるかと思った…。今もだけど…)
「確かに…目元は少し濡れている様だが…今は泣いてはいないみたいだな」
「そうですよっ!泣いてませんっ…!だから、早く離れてくださいっ…」
レオンは私の目元に指を滑らせ、滲んでいる涙を拭ってくれた。
そして慌てている私の姿を見て僅かに口端を上げると、私の耳元に顔を寄せて「動揺し過ぎ」と意地悪そうな声で囁いた。
私は思わずビクッと体を震わせてしまうと、レオンの胸を両手で力いっぱい押しやった。
「ニナって可愛い反応するんだな…」
「……っ…!!」
レオンは私から離れると楽しそうに笑っていた。
私はなんだか悔しくなり、顔を真っ赤に染めながら恨めしそうにレオンを睨んでいた。
(くやしいっ…!レオンさんって意地悪だ…)
「そんなに怒るなよ…。少しからかっただけだろ…?」
「少しじゃないですっ…!」
「どうしたら許してくれるんだ?」
「え?じゃあ、レオンさんがいつも祈ってる事を教えてくださいっ!」
咄嗟に思い浮かんだのはそれだった。
レオンは毎日何を祈っているのか、ずっと気になっていた。
だけど私が聞くと、レオンは一瞬驚いた顔を見せ、その後曇った表情へと変わっていった。
(……聞いてはいけない事だった?)
「俺は祈るためにここに来てるわけじゃない…」
「……?」
レオンが言ってる意味が私には良く分からなった。
私が不思議そうに首を傾げると、レオンはどこか寂しそうな表情を見せた。
「俺はある人の命を奪ってしまったから…、謝る為に毎日ここに通っているんだ…」
「え…?」
「驚いたか…?」
「それは、あの…どういう事ですか…?」
思いも寄らなかったレオンの言葉に驚いてしまったが、とても悲しそうな顔をするレオンを見ていると私は力になりたいと思うようになっていた。
真直ぐ視線を向ける私に気付いたレオンは、少し困惑している様に見えた。
「ニナはこんな話を聞いて怖いとは思わないのか?」
「思いませんっ…。だって私が知ってるレオンさんは悪い人じゃない気がするから…」
私はレオンがどういう人物なのかは全く知らない。
矛盾しているとは思うが、悪い人にはどうしても思えなかった。
「なんだよ…。ニナって本当に変わってるな。大体の人間はこう切り出すと怖がって逃げるんだけどな…」
「私を試したんですか?酷いっ!」
私がむっとした顔を見せると、レオンは静かに過去を語り始めた。
「俺は二年前まで騎士をしてたんだ…」
「騎士…?言われてみると、なんかそんな感じします!」
騎士と言われて、すんなり納得出来た。
長袖のシャツを着ているから肌は見えないけど、がっちりとした体で鍛えられてそうな感じがした。
「俺には幼馴染がいたんだ…。小さい頃から何かと気が合う奴で…入団試験を一緒に受けて合格して、同じ第一騎士団配属になった。だけど第一騎士団って言うのは最前線で戦う事が多いから最も危険な所だと言われてるんだ。でもやりがいはあったし、お互い歴史に名を刻むような騎士になりたいと願ってたからな。俺達にとっては最高の場所だった」
(騎士ってかっこいい!でも…一番危ない場所って事は命がけだったってことだよね。レオンさん、すごいなぁ…)
「入団したのが15歳の頃で8年目を迎える頃だった。俺達はそこそこ戦果を挙げて、実力もそれに伴って上がっていたから、自分達の力に過信し過ぎていたんだと思う…。あの日…、俺は判断を見誤った。その事により窮地に陥ってしまったんだ…。それで、あいつは俺を庇って……っ…」
「……」
レオンは結末を告げなかったが、何を言おうとしているのか分かってしまった。
私がレオンの方に視線を向けると、その瞳は悲しそうに揺れている様に見えて胸が苦しくなった。
何か励ます様な言葉をかけなきゃと思っているのに、直ぐには言葉が思い浮かばない。
私は悲しそうな表情で見つめる事しか出来なかった。
「ニナ、俺に気を遣う必要なんてないからな…」
「……っ…」
私の視線に気付いたレオンは弱弱しく笑ってみせた。
「その事があってから、剣を持つとあの時の光景が脳裏に浮かぶんだ。あの日以来、剣を握ることは無かった…。だから騎士は辞めたんだ。ここに来てる理由は祈る為じゃない…、自分がしたことへの後悔と、謝罪の為…。こんな事をしても何かが変わるわけではないけど、それ位しか俺には出来ないから…」
「……レオンさん…っ…」
私は気付くとレオンにぎゅっと抱き着いていた。
「ニナ…?どうしたんだ?」
「レオンさん、…なんだか消えてしまいそうだったから…」
「消える、か…。俺が泣いているとでも思ったか?」
「……心が…泣いてますよね。いいんですよっ…!こうしていたら私には顔は見えないし…泣き叫んでもっ」
私がそう言うとレオンは「泣き叫びはしないな」と可笑しそうに笑っていた。
「ニナは優しいな…。だけど、いいんだ。俺は一生この罪を背負って生きて行こうと思っているからな。気持ちだけ受け取っておくよ。ありがとな…」
レオンは優しい声でそう呟くと、私の肩を押して引き剥がした。
(これからの人生、悔やんだまま生きて行くってこと…?レオンさんと毎日ここで会えるのは嬉しいけど、ずっと過去に苦しみ続けるなんて…。そんなの辛過ぎるよ。私に出来る事は何か無いのかな…)
「分かっただろう?ニナももう俺になんて関わらない方が良い。無理して挨拶する必要も無いよ」
「無理なんてしてませんっ…!私はしたいからしてるだけで…。それにやっと…こうやって話せるようになったのに、そんなこと言わないでっ…」
私は悲しそうな瞳でレオンを見つめると、レオンは私の腕を引っ張り再び胸の中に押し込んだ。
そして私は強く抱きしめられていた。
(レオンさん…)
「私、レオンさんの話し相手くらいにならなれますっ!だからっ…、遠慮なく私を使ってください。私達仲間じゃないですかっ…!悩み事の内容は違うけど、お互い励まし合いましょ?そうしたら私も助かるし…嬉しいです!」
「ほんと…、ニナって変わってるよな。俺と傷の甞め合いをしたいのか?」
レオンは呆れた様に答えていたが、先程よりは声が少し明るく感じられて、私はほっとしていた。
「いいじゃないですかっ、傷の嘗め合い…。それで気持ちが少しでも晴れるのなら…、そう思いませんか?」
「……そうだな」
私はどこかで、ジルはもう私の元へは戻って来ないと分かっていたのかもしれない。
だけどそう認めてしまえば、私の築き上げてきた幸せが足元から壊れて行く様で怖くて、強がって帰って来ると信じようとしていた。
レオンは大事な人を失くして、それを全て自分の所為だと思い込んでいる様だった。
罪を背負い謝り続ける事が、生きる糧に繋がっている…とでも言っている様に聞こえた。
理由は違うけど、私達は大切な人を失くした者同士どこか通じ合う所があるのかもしれない。
だからこんなにも私はレオンの事が気になっているのだろうか…。
応援ありがとうございます!
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