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24.近くて遠い

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 翌朝、目覚めると私は自分のベッドの上にいた。
 視界には見慣れた天井が浮かび上がり、私はいつもと同じ朝を繰り返そうとしていた。
 しかし、意識が落ちてくると体の怠さを感じて、ゆっくりと上半身を起こす。
 その瞬間、昨晩ルシエルに抱かれた記憶を思い出し、私の心臓はバクバクと揺れ始める。

(私、昨日お兄様に抱かれたんだ……)

 視線をゆっくりと胸元に下ろしていくと、私はちゃんとナイトドレスを身に付けていた。
 しかも、いつも私が着ているものだ。

(お兄様が眠っている間に着せてくれたのかな?)

 そんなことを頭の中で思い浮かべ私が一喜一憂していると、トントンと扉を叩く音が響き、突然の物音にビクッと体が跳ね上がる。

「だ、誰?」
「フィリーネ様、起きられましたか? ロゼです。入りますね」
 
 私が動揺した声を上げると、良く聞き慣れた声が響き、その後すぐに扉が開かれてロゼがこちらに向かって歩いてくる。
 普段であれば絶対に動揺などしないのだが、昨日のことがあるせいで私はかなり焦っていた。
 私は咄嗟に布団を首元まで捲り上げる。

(お願い、ロゼには気付かれませんようにっ!)

 昨晩、ルシエルは私の体中に愛撫をしていたはずだ。
 その時に、たくさん彼に証を刻まれた。
 こんなものを見られてしまえば直ぐにロゼに昨日のことがバレてしまう。
 彼女は私の恋を応援してくれる人間なのでバレても問題なのかもしれないが、人に知られるのは恥ずかしいと感じて咄嗟にこんな行動に出てしまった。

「お、おはよう、ロゼ」
「フィリーネ様? 顔が少し赤いようですが、体調が優れませんか?」

「え? そ、そんなことはっ……」
「そうですか? それなら宜しいのですが。一応、今日はベッドでゆっくりされますか?」

 ロゼは心配そうに私の顔を覗き込んできた。
 彼女には普段なんでも相談していたこともあり、咄嗟に隠してしまったことに少し後ろめたさを感じ始めていた。

(ごめん、ロゼ……)

 今は恥ずかしくて話せないけど、もう少し落ち着いたら彼女にも話そうと思っている。

「ううん、大丈夫。気を遣ってくれてありがとう」
「あまりご無理はされないでくださいね。今、ルシエル様もおりませんし」

「え……?」
「ルシエル様は朝から外出されていますよ。予定では夕方に戻るそうです」

 私は少し浮かれすぎていたのかもしれない。
 昨日彼と初めて体を重ねて、今日はずっと一緒に過ごせるものだと勝手に思い込んでいた。
 彼が外出しているのだと知ると、急にがっかりしてしまう。
 
「そう、なんだ……」
「そんなに寂しそうな顔をされないでください。きっと夕食はご一緒に摂れると思いますよ」

 ロゼの言葉を聞いて私は小さく笑顔を作った。
 今日は元々予定があっただけであり、明日は一日中一緒に過ごせるに違いない。
 私は前向きに考えることにした。

 昨日彼に抱かれた時に、ルシエルの心に触れることができた。
 ルシエルは本気で私のことを好きでいてくれるのだと確信した。
 それがあるから、今の私は多少のことでは不安になんてならない、そう思っていた。


 しかし、ルシエルが外出するのは今日だけではなかった。
 両親が領地に旅立ってから、毎日のように日中は出かけていて邸にはいない。
 私が何気なく「どこに行っているんですか?」と問いかけても「少し用事があってね」と曖昧な返事しかもらえない。
 こんな言い方をするということは、私には話す気がないものだと直ぐに察してしまい、それ以上聞くこともできなくなってしまった。

 しかし、全く会えないわけではない。
 夕食は毎日一緒に摂っているし、その後二人だけで過ごす時間も作ってくれている。
 あれから彼に抱かれることも数回あった。
 彼の心は私に向いていて、一緒過ごしている時は今までと変わらず私のことを大切にしてくれているのも分かっている。
 大好きな人の特別になれて幸せなはずなのに、私は少し寂しさを感じていた。
 
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