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19.二度目のキス

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「んぅっ……はぁっ……」

 彼の体温は外の冷気に当たっていたせいで下がっていたが、口付けをされると咥内の温度が蕩けるほど高いことに気付かされる。
 ルシエルとキスをするのはこれで二度目になるが、私の中にはまだ恥じらいが残っているようだ。
 先程から響くリップ音に羞恥し、どこかそわそわとしてしまう。

「フィー、もっとキスに集中して」
「はぁっ、……はい」

 ルシエルに指摘されて思わず頷いてしまうが、簡単に慣れることなんて無理だ。

「少し口を開いて。フィーが僕以外、考えられなくなるようにしてあげる」
「……っ!」

 彼は唇を離すと、私の額にそっと自分の額をくっつける。
 息がかかる程の至近距離で誘惑するかのようにそんなことを言う。
 次第に私の頬は熱を持ち始め、鼓動もさらに高鳴っていく。

「照れているの? そんなに顔を真っ赤に染めて、本当に可愛いな。だけど、これくらいで照れていたら、この後フィーはどうなってしまうんだろうね」
「……っ、脅さないでくださいっ!」

「ふふっ、脅したつもりはないよ。ただ、少し意地悪を言っただけ。僕の言葉に翻弄するフィーを見るのは愉しいからね」
「こんな時にからかうなんて酷いですっ!」

 ルシエルの言葉に一々反応してしまうことが恥ずかしくなり、私はムッとした顔で反論する。
 すると彼は私の手をとって、自分の首のほうに移動させた。

「手はここ。ちゃんと僕の首に掴まっているんだよ」
「え? なにを……っ!」

 続いて、彼の手が私の膝裏にまわされ、突然ふわりと体が浮き上がる。
 私は浮遊感に驚き、慌てるように彼の腕にぎゅとしがみついた。

「いい子だね。そのまましっかりと掴まっておくんだよ」
「お兄様!?」

 彼は私を抱えたままベッドまで歩き出した。
 到着すると、ゆっくりと私の体を下ろし、彼自らも腰を下ろす。
 ベッドに連れてこられたことで、私の心拍数はさらに上がっていく。
 ルシエルは本気で私を抱こうとしていることが分かってしまったからだ。
 私がドキドキしながら天井を見つめていると、ゆっくりと彼の顔が降りてくる。
 その瞳は私だけを捉えていて、一度目が合ってしまうと逸らすことなど不可能だ。

「お喋りはおしまい。フィー、いい子だから口を開けて」
「……っ、恥ずかしい」

 私は恥じらうように視線を揺らしながら、ぽつりと呟いた。

「大丈夫、そう思うのは最初だけ。だけど、今日だけは僕が折れてあげる。少し強引にはなってしまうけど、耐えてね」
「え……? ……んぅっ!?」

 彼はふっと小さく笑うと、僅かに口端が上がった。そしてそのまま私の唇を塞ぐ。
 熱の籠った彼の舌先が私の唇の輪郭をなぞるように動き、食むように何度も吸われる。

「んっ……」
「フィーの唇は柔らかくて甘いね。ずっと味わっていたくなる」

 最初は唇にのみ刺激を与えてきたが、暫くすると彼の舌先は私の歯列をなぞるように舐め始める。
 なんとも言えないゾクゾクした感覚に襲われ、私は僅かに口を開いてしまう。
 すると、それを見計らったかのように滑付いたものが私の咥内に入り込んでくる。

「んぅっ……!」
「やっと開いてくれたね。嬉しいよ。沢山フィーを味わわせて」

 彼の満足そうな声が聞こえてきたかと思うと、熱いものが私の咥内を激しく動き回る。
 上顎の裏をなぞられると、ぞわっとした感覚に襲われじっとしていることができなくなる。
 ルシエルから逃げようと顔を横に傾けようとするが、直ぐに戻されてしまう。

「フィー、逃げたらだめだよ」
「はぁっ、それ、やだっ……」

 生理的な涙が溢れ、視界が僅かに曇り始める。
 私の言葉を聞いて、ルシエルはゆっくりと唇を剥がすと、涙で濡れた目元を指で優しく拭ってくれた。

「こんなことを言ったらフィーは怒るかもしれないけど、その泣き顔、堪らないくらいに可愛いな」
「……っ」
 
 突然そんなことを言われて、私は困惑気味に眉間を寄せた。

「ふふっ、怒っちゃった? そんな表情もまた愛らしく見えるよ。僕にとってどんなフィーでも愛おしいことには変わりないからね」
「……っ!!」

 彼は恥じらうこともなくさらりとそんなことを言う。
 それに比べて、私は一々その言葉を真に受けて反応させてしまうことが少し悔しく思えた。

「フィー、さっきみたいなことはしないから、今度は自分で口を開いて舌を伸ばしてみて」
「……は、恥ずかしい、です」

 突然そんなことを言われて、羞恥から私はもじもじしながら答えた。

「知ってる。だけどやって。それともさっきみたいに口の中を激しく犯して欲しい?」
「あれはやだっ……、なんかぞわぞわして、変な気分になる」

「ふふっ、それって気持ち良いってことじゃない?」
「ち、違いますっ……!」

 私は咄嗟に否定した。
 先程強引にと言っていたが、彼は私が嫌がると直ぐに止めてくれた。
 意地悪な一面もあるが、私に妙に甘くて、いつも優しいことを知っている。
 だからこそ、私はこれほどまでに彼に惹かれてしまうのかもしれない。
 自分のことを大切に思ってくれて、いつも見守ってくれる彼に。
 
「フィー、口を開けようか」
「……っ」

 彼はじっと私を見つめながら再び急かしてくるので、私は小さく口を開き羞恥を耐えるかのように舌先を僅かに伸ばした。

「ああ、すごく可愛いね。その恥じらった顔も、僕を堪らない気持ちにさせる。それじゃあ、遠慮なく味わわせてもらおうか」
「……はぁっ……んっ」

 彼は自らも舌を伸ばすと、私の舌先に絡めるように押し付けてくる。
 その光景はどこか妖艶に見え、私の鼓動は高鳴りドキドキと揺れ動く。

「フィーも僕のに絡めてみて」
「んぅっ、……はぁっ」

 私は羞恥を耐えながらも小さく舌先を動かす。お互いの唾液が混ざり、厭らしい水音に耳を塞ぎたくなる。

(恥ずかしいっ……)

 最初は羞恥にばかり気を取られていたが、何度も舌同士を擦り合わせていると咥内の温度が上がり、頭の奥がふわふわとした感覚に包まれていく。
 それが妙に心地よくて、体から強張った力がスーッと抜けていくようだ。

「そんなに蕩けた顔をして……。気持ち良さそうだね」
「んっ、体がへんなのっ……はぁっ……」

 唇を解放されて、私は肩を揺らしながら呼吸を繰り返していた。
 離れたはずなのに、先程のキスの感覚がまだしっかりと残っている。
 私の口端から溢れていた唾液を、ルシエルは舌を伸ばして綺麗に舐めとってくれた。

「……っ」
「変なわけではないよ。フィーは敏感なんだね。肌も火照ってきたようだし、次はこっちの熱を解放していこうか」

 ルシエルの手が私の首筋に触れる。
 突然触られて私は思わずびくっと体を震わせた。
 体が温まっているのは私だけではなかったようだ。彼の掌もいつの間にか温かくなっている。

「そんなに怯えないで。怖いことはしないよ。全て僕に任せえくれたらいいから。フィーは楽にしていて」
「……っ、はい」

 彼はそう言うと、私の着ていたワンピースのボタンを一つづつ外していく。
 私はドキドキしながら、じっとその光景を眺めていた。
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