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22.闇落ちーsideルイスー

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「ラナ、今日は沢山歩いて疲れたよね。明日は魔王城に入ることになると思うから今日はもう眠っていいよ」
「うん…。ルイスは?」

「僕は明日の準備が少しあるからもう少しだけ起きてるよ。ラナはもう眠たそうな顔してるね、無理しないでもう寝ちゃって大丈夫だよ…」
「そっか…。う…ん……。おやす……」

「おやすみ、僕の愛しいラナ……」
 眠ったのを確認して、そっと彼女の額に唇を落とした。
 そして口端が僅かに上がる。

 この時をずっと待っていた。
 もうすぐ本当の意味で彼女を手に入れる事が出来る。
 そう思うと込み上げる笑みを堪える事なんて出来なかった。

「ラナ…これからはずっと一緒だよ。僕からの贈り物を喜んでもらえたら嬉しいな…。でもラナの事だから怒るかな。そうだとしてもラナは優しいからきっと僕の事を許してくれるよね。ふふっ…早く驚いたラナの顔が見たいよ」
 興奮気味に独り言を漏らすと、寝ている彼女の唇にそっと口付けた。



「レイ…」
 僕が名前を呼ぶと背後に、すっと気配が現れる。
 そこに現れたのは以前廃墟で出会った悪魔だった。

「はい、勇者殿。こっちの準備は既に整っているよ、君達が良ければいつでも儀式に入れるけどさ…本当にいいの?」
「こっちも大丈夫だ。レイ、僕はお前の意見なんて聞いてないよ?」
 この悪魔と話すといつもイライラさせられる。
 そんな僕の態度は口調に現れていた。

「だってさ、この子って君にとって大事な子なんでしょ?君がやろうとしている事は相当残酷な事だよ。一生この子に恨まれる事になるだろうね、それでも本当にやるつもり?」
「そんなことは分かってるよ。それよりレイはお喋りが好きみたいだけど、自分の立場分かってる?僕にとってはお前の存在を消す事位簡単だって事…忘れた訳では無いよね?」
 僕が殺気立った声で低く囁くと、悪魔は怖がる表情は一切出さずにおどけたようにわざとらしく肩を竦めた。

「ハイハイ、わかってますよ。だからこうやって悪魔の俺が君に協力してるんでしょ?準備が出来たならこのまま転送するよ」
「そうしてくれ…」

 この悪魔は以前ラナの事を襲おうとした事があり、一度は殺そうと思った。
 だけど状況が変わり今は利用させてもらっている。
 悪魔もそうする事が一番自分にとって最善だと分かっているから僕の提案に乗って今は協力関係を結んでいるのだろう。


 ***



 悪魔に転送されると、真っ暗な静かな城の内部へと一瞬で移動した。
 僕は眠っている彼女を横向きに抱きかかえながら、一歩ずつ前へと進んで行く。

 城の内部だと言うのに、とても冷え切っていて息を吐くと空気が白くなる。
 冷たい床を歩く度にカツカツと足音が奥まで響き渡る。
 そして一番奥の部屋まで止まることなく歩いていく。

 これから僕は彼女には一生恨まれても仕方ないことをする。

 だけど不思議と迷いは無かった。
 それよりも漸く自分の願いが成就する時がすぐそこまでやって来てる事に興奮していた。

 何も知らずに安心しきって眠っている彼女の愛らしい寝顔を見て僕は優しく微笑んだ。
 本当に彼女は可愛い。


 奥の部屋まで進むと、そこには玉座があった。
 その椅子の上には魔王の姿は無く、宝石の様に黒く光る物が置かれていた。



「これが魔王か…」
「これは前魔王様の意志の欠片。淀みを作り続けて、人々の負の感情を糧に作られる魔力を吸収して力を溜めているんだよ。次の魔王が決まるまで…ね。人々は既に魔王が存在しているって勝手に勘違いして恐れているみたいだけど、実際はまだ只の準備期間に過ぎない。勇者である君ならもう分かっているとは思うけど、この世界は勇者と魔王が共存することで成り立っている。この関係が崩れたら世界の均衡が狂ってしまう。だから前の魔王が居なくなれば、新たにまた生まれる。それがこの世界の理。それは勇者である君も同じ事…。そして倒せるのはお互いだけ、自害することは許されない。まぁ、好んで戦う必要はないけど…周りがそれを許してはくれないよね」

「戦うつもりは無い。周りが騒ごうがどうだっていい。僕達の邪魔をしようとする者がいるなら排除するだけだよ。この世界で僕より強い者なんて存在しないからな」
「あははっ、どっちが魔王なのって感じだよね。絶対君の方が魔王の素質あるよ。……ねえ、最後にもう一度だけ聞くよ。適合されたらもう後戻りは出来なくなる。それでも…本当に君は、彼女を次の魔王にすることを望むの?」
 悪魔は僕の顔を真直ぐに見てそう言った。
 悩む必要なんてなかった、だってそうする事を僕は望んでいたから。

「ああ、永遠に愛するラナと一緒に居るためには必要なことだからね。ラナの事は一生僕が守る。例え世界を敵に回すことになっても…」
「くくくっ…あぁ…最高だよ!魔王を守る勇者って面白過ぎ、うん…いいねそれ。それじゃあ…儀式を始めようか」



 最初からこうすれば良かったと心の中で思っていた。

 彼女の心が手に入らないと思い、最終手段に出ることにした。
 だけど彼女も僕と同じ気持ちでいる事を知った。
 強欲な僕はそれだけではもう満足は出来なかった。

 今更考え方を戻すつもりなんてない。
 やっと愛する彼女と永遠の時間を過ごすことが出来るのだから。

 もう絶対に離さない。
 離れることは許さない。

 彼女との未来を想像するだけで胸の奥が熱くなって仕方が無かった。
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