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第三章:学園生活スタート

59.甘えたい

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「……ん」

 微睡みの中、誰かに髪を柔らかく撫でられているようで、とても心地がいい。
 この安心感があまりにも気持ちよくて、私の顔は自然と緩んでしまう。

「ルティ、起きたのか?」
「……あれ? ライ? なんで?」

 私がくぐもった声を上げてから暫くすると、聞き慣れた声が響きゆっくりと目を開く。
 一番最初に視界に入ったのは、優しい表情で見下ろしているラインハルトの顔だった。

(なんでライがいるの? これは夢……?)

「ライ、もっと撫でて」

 まだ夢の中にいるのだと思い、甘えた声で強請ってみる。
 一瞬ラインハルトは驚いた表情を見せたが、すぐに先程の優しい顔に戻り再び頭を撫でてくれた。

「寝起きのルティは甘えたか?」
「だってライに撫でられるの好きだから。すごく気持ちいい」

「それなら、これからは一緒に眠るか? そうすればいつでも撫でてあげられる」
「いいの? そうする」

 私はベッドに置かれているラインハルトの手を取ると、両手で抱きしめるように握り目を閉じた。
 夢なのにとても温かくて、まるで本人がここにいるかのようなリアルな感覚だった。

「普段からそれくらい素直ならいいんだけどな。ルティ、いつまで寝ぼけているつもりだ? このまま続けたいのであれば付き合うが」
「寝ぼけて……? 何言って、……え? っ!?」

 ぼーっとした頭で記憶を辿っていくと、体が重くて少しだるさを感じた。
 視線を自分の体に向けると、布団は掛けられているが胸元の肌が見えている。
 その瞬間現実を思い出し、全身の温度が上がる。

「思い出したか?」
「私、寝てたの?」

「寝てたというか、正確には数分気を失っていたが正しいな。最後は少し激しくしてしまったから」
「そっか。あの……最後って」

 私が恥ずかしそうにもじもじとしながら問いかけると、ラインハルトの口角が上がった。

「ルティの中に熱いものを沢山注いだ」
「……っ!!」

「最後はやはり覚えていなかったか。体は平気か?」
「少し重いけど、多分大丈夫だと思う」

 私が答えるとラインハルトの顔が降りてきて、ちゅっと音を立てて口付けられる。
 あんな行為をしてしまった後だから、余計にドキドキして鼓動が早くなる。

「ルティは、キスだけで照れるのか? あんなにすごいことをしたのにな。耐性はまだついてなさそうだな」
「……っ!」

 私は恥ずかしくなり、布団の中に顔を埋めた。
 目覚めたらいきなり裸のままのラインハルトがいて、私は戸惑っていた。
 そういう私も多分同じ格好なのだとは思うけど。

 途中で記憶が飛んでしまったことは残念だが、ラインハルトに抱かれたという事実が嬉しかった。
 考えている傍から、嬉しくて笑みが零れてきそうだ。
 だけどそんな姿をラインハルトに見られてしまえば、間違いなくからかわれるだろう。
 それを隠すためにも私は布団を被っていた。

「隠れるなよ。余計に顔が見たくなる」
「だ、だめっ!」

 布団を剥がそうとしてくるラインハルトに対して、必死に引っ張って顔を見られまいとしていた。

「これじゃキスも出来ないな」
「……っ」

 ラインハルトは布団から手を離して、残念そうに呟いた。
 私はその言葉にピクッと反応してしまう。

「さっきはあんなにも甘えてくれたのにな。意地を張るルティも好きだが、たまにしか見せてくれない甘えた姿のルティも好きだよ。結局はどんな姿のルティでも好きってことになるわけだが」

 ラインハルトは恥じらうことも無く、いつも通り甘い台詞を吐いてくる。
 何度も好きだと言われているのに、言われる度にドキドキしてしまう。 

「出てきてくれないのなら、唯一隠れていない髪に口付けておくよ。ルティのものであることには変わりないからな」
 
 ふわっと頭に温かいものが触れた。
 そして髪を一房指に掬うと、持ち上げられる。

 今の私は布団に顔を押しつけているので、視界は真っ暗で何も見ることが出来ない。
 ラインハルトはどんな表情で、私の髪に口付けをしているのだろう。
 無性にその姿が見たくなった。
 私は我慢出来なくなり、ゆっくりと布団から顔を覗かせた。
 すると目を閉じて私の髪にキスをしているラインハルトの姿が視界に入る。

 元々綺麗な顔だから、目を瞑っても美しい姿をしていることは分かっていたが、私はその姿に目を奪われていた。
 私がじっと見つめていると、ゆっくりとラインハルトの瞳が開く。
 そして当然のように視線が絡む。
 たったそれだけのことだが、スローモーションのように時間がゆっくりと進んでいく感覚だった。

「漸く出てきたか」
「……っ」

 ラインハルトは満足そうな瞳で私の事を見つめると、再び隠れようとする私の手を掴んだ。

「二度目は逃がさない」

 そう言って迫って来ると唇を塞がれた。
 私は抵抗するのをやめて、その口付けを受け入れた。
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