上 下
52 / 64
第三章:学園生活スタート

49.言葉と思い②

しおりを挟む
「やっと言ってくれたな。ありがとう、すごく嬉しいよ」
「言うのが遅くなっちゃって、ご、ごめんなさい……」

 今まで散々恥ずかしいことをされてきたが、この瞬間はそれ以上に感じていた。
 鼓動は先程から全く収まる気配もないし、頬に触れられただけなのに心臓が飛び跳ねてしまう。
 私はこのままドキドキし過ぎて死んでしまうのではないだろうか。

「本当に遅すぎだな」
「うっ……」

「だけど、待っていた分喜びも倍増だからな」
「本当に嬉しいの? いつもとあんまり態度が変わってない気がするけど」

「私は喜んでいたとしても、ルティのように顔を真っ赤にはさせないからな。だけど今まで生きてきた中で、今日が一番幸せだと感じたな」
「大げさね」

「散々ルティには焦らされたからな」
「……っ」

 ラインハルトは口端を僅かに上げて愉しげに笑うと、私の唇をなぞるように指で滑らせていく。
 その僅かに刺激に小さく唇を震わせる。

「ルティが漸く私のことを受け入れてくれたから、もう待つのは終わりだな」
「え?」

 ラインハルトはクスッと意地悪そうに笑う。
 その瞬間、私の頭の中に昼間のあの言葉が思い浮かんだ。

(な、何をするつもり!? まさか、今からするつもりなの!? どうしよう、いきなりすぎて心の準備が!)

「いきなり動揺してどうしたんだ?」
「だって、ライがいきなり変なことを言い出すから」

「別に変なことなんて言ってない。ルティの気持ちが固まるまで待つつもりでいたからな。だけどもういいよな」

(うそ、やっぱり今なの!? 心の準備は出来てないけど……、でもライとなら構わない)

「わ、私……初めてなの、だからっ……」

 私は目を泳がせながら恥ずかしそうに答えた。

「私だって初めてのことだ。今から準備を始めれば、卒業後にすぐに式を挙げられそうだな」
「……式?」

 全く予想もしなかった返答が戻ってきて、私はきょとんとした顔をしてしまう。

「前にも言ったけど、私はルティに関しては独占欲が強いからな。早く私だけのものにしてしまいたい。ルティはいつもふらふらして危なっかしいしな」
「……っ!」

(何の話をしているの? 式って結婚式の話だったの?)

 急に卑しいことを考えていた自分が恥ずかしくなり、体中が熱に包まれていく。

「さっきから表情が激しく変わっているが、何を考えているんだ?」
「な、なんでもないわっ!」

「ルティ、隠し事は許さないと言っただろう」
「本当に何でも無いの」

(お願いだからこの件はこれ以上突っ込まないでっ! あんなことを考えてしまって変態だと思われてしまうわっ)

 ラインハルトの表情を見ていれば分かる。
 これは絶対に見逃してくれない顔をしている。

「こんなに顔を真っ赤にさせて、その動揺ぶり。なんとなく予想は付くけどな」
「……ち、違うわ! 私、変なことなんて考えてない。昼間アーベルが変なことを言うから」

 私は焦ってしまい、思わずアーベルの名前をぽろっと口に出してしまった。
 アーベルの名前を聞いた瞬間ラインハルトの表情が変わる。
 目を細めて、明らかに不満そうな表情をしている。

(やばっ……)

「またあの男に会っていたのか? 二人きりで?」
「ほ、報告よ。アーベルは協力者だし、昨日ライに全て話したことを一応伝えに行ったの。それに二人きりなのはお互い転生者であるからで……。それに話したのもほんの数分だけよっ!」

 やましいことなど何もしていない。
 事情がややこしいため、変に周りに聞かれてしまったら面倒なことになると思っただけだ。

「ルティは私に嫉妬をさせるのが好きなようだな。今回は事情も分かるから多めにみるが、これから二人で会うことは許さない」
「なっ、別にいいじゃない。ただの友達だし、協力者なんだからっ」

「それなら私も同席する」
「…………」

 ラインハルトはそれなら問題はないだろうという顔をしている。

「ライだって同じじゃない」
「何がだ?」

「ヒロインであるコレットさんと一緒にいるし。私は寛大な心の持ち主だから許してあげるので、ライも少しくらい多めに見てよ」

 私はムッとした顔で言い放った。

「同じクラスで生徒会役員であるから、顔を合わせる機会が多いだけだ。気になるのならルティも生徒会室に来ても構わないぞ。私の婚約者であることは周知されているしな」
「部外者が行ってもいいの?」

「別に来たらいけないという決まりはないからな。それにルティの知っている者ばかりだから、行きやすいんじゃないか? 少しでもルティと過ごせる時間が作れるのであれば、私としても嬉しい限りだからな」
「……っ」

 あっさりと認められてしまい、私は言葉に詰まっていた。
 アーベルが言っていたことが漸く分かった気がする。
 こうなることを予感して、アーベルは二人で会うのは止めた方がいいと言ったのだろう。

「この件は解決だな」
「はい……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

婚約破棄したい悪役令嬢と呪われたヤンデレ王子

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「フレデリック殿下、私が十七歳になったときに殿下の運命の方が現れるので安心して下さい」と婚約者は嬉々として自分の婚約破棄を語る。 それを阻止すべくフレデリックは婚約者のレティシアに愛を囁き、退路を断っていく。 そしてレティシアが十七歳に、フレデリックは真実を語る。 ※王子目線です。 ※一途で健全?なヤンデレ ※ざまああり。 ※なろう、カクヨムにも掲載

ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)

夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。 ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。  って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!  せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。  新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。  なんだかお兄様の様子がおかしい……? ※小説になろうさまでも掲載しています ※以前連載していたやつの長編版です

【R18】悪役令嬢は元お兄様に溺愛され甘い檻に閉じこめられる

夕日(夕日凪)
恋愛
※連載中の『悪役令嬢は南国で自給自足したい』のお兄様IFルートになります。 侯爵令嬢ビアンカ・シュラットは五歳の春。前世の記憶を思い出し、自分がとある乙女ゲームの悪役令嬢である事に気付いた。思い出したのは自分にべた甘な兄のお膝の上。ビアンカは躊躇なく兄に助けを求めた。そして月日は経ち。乙女ゲームは始まらず、兄に押し倒されているわけですが。実の兄じゃない?なんですかそれ!聞いてない!そんな義兄からの溺愛ストーリーです。 ※このお話単体で読めるようになっています。 ※ひたすら溺愛、基本的には甘口な内容です。

【R18】悪役令嬢(俺)は嫌われたいっ! 〜攻略対象に目をつけられないように頑張ったら皇子に執着された件について〜

べらる@R18アカ
恋愛
「あ、やべ。ここ乙女ゲームの世界だわ」  ただの陰キャ大学生だった俺は、乙女ゲームの世界に──それも女性であるシスベルティア侯爵令嬢に転生していた。  シスベルティアといえば、傲慢と知られる典型的な“悪役”キャラ。だが、俺にとっては彼女こそ『推し』であった。  性格さえ除けば、学園一と言われるほど美しい美貌を持っている。きっと微笑み一つで男を堕とすことができるだろう。 「男に目をつけられるなんてありえねぇ……!」  これは、男に嫌われようとする『俺』の物語……のはずだったが、あの手この手で男に目をつけられないようにあがいたものの、攻略対象の皇子に目をつけられて美味しくいただかれる話。 ※R18です。 ※さらっとさくっとを目指して。 ※恋愛成分は薄いです。 ※エロコメディとしてお楽しみください。 ※体は女ですが心は男のTS主人公です

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています

平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。 生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。 絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。 しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?

処理中です...