残念系悪役令嬢に転生したら、婚約破棄される予定の王太子に溺愛されています【R-18】

Rila

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第三章:学園生活スタート

47.魔法の図書館

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 コレットと分かれた後、まだ少し時間があったので図書室へと向かった。
 ここには恐らくアーベルがいるはずだ。
 彼は私の協力者であるため、昨日ラインハルトに全て話したことを伝えておくべきだと考えた。
 ラインハルトはアーベルについては深く詮索はしないと言っていたが、勝手に話してしまった手前、直接私の口から伝えた方がいい。

 図書室を歩き回っていると、目的の人物を見つけることが出来た。
 アーベルは奥の席で静かに本に目を通していた。

「アーベル」
「どうした?」

 私が声をかけると、アーベルは視線をこちらに向けて落ち着いた声で問い返してきた。
 私はどう切り出して良いのか迷ってしまい、困った表情を浮かべた。
 それに勘付いたのかアーベルは席を立ち上がった。

「二階で話すか?」
「え? 二階って入れるの?」

「関係者以外立ち入り禁止だが、俺はここの責任者でもあるからな」
「え? 責任者って?」

「時間はあまりないし、話がしたいなら急いだ方が良いんじゃないのか?」
「た、たしかに」

 私は慌てるようにして、アーベルの後に付いていった。

 後から聞いた話によると、アーベルはイザークの従兄弟に当たる。
 そしてこの魔法学園を取り仕切っているのはイザークの祖父だ。
 アーベルはこの図書館の管理者になることを自ら志願したようだ。
 きっと本が好きなのだろう。

 私達は奥の扉の前に到着した。
 するとアーベルは扉に向かい手を伸ばした。
 すると掌の中から光が生まれ、扉が一瞬青白く光る。
 光が消えると共に扉がスッと薄れていき、奥には階段が見える。
 私達はそのまま奥に進み、階段を上っていく。

「すごい! 本当に魔法学校って感じがするわ」
「一々反応が大げさだな。魔法くらいもう何度も見てるだろう」

「見てるけど、こういうのを見る度に感動するわ! 昔憧れたファンタジー映画の中に入ったみたいで。アーベルはそういうの感じたことはないの?」
「子供の頃はあったかもしれないな。ルティナも知っているとは思うけど俺の家って魔法で有名な家系だから、魔法は常に傍にあったからな。これが当たり前に感じてしまったんだろうな」

「そっか。私は子供の頃はサボってたからな。もし私が転生者じゃなければ更に残念なことになってたはずよ。あはは……」

 私は自分で言って、とてつもなく残念な気分を感じていた。
 子供の頃魔法の勉強をサボっていた。
 きっと本来のルティナは魔法になんて、なんの興味もなかったのだろう。

(早く前世を思い出せて良かったわ)

 階段を上りきると奥に部屋が見えてくる。
 そこは木造のつくりで、温かみのある落ち着いた空間だった。
 この中にも沢山の本棚が置かれていて、奥には執務机が見える。
 そして開放的な大きな窓側に向けてソファーが並んでいる。

「ここは休憩スペース?」
「まあ、そんなところだな。ここは俺が来てから少し位置を変えたんだ。ずっと本に囲まれているのも息が詰まるからな」

「たしかに……。でもこれじゃあ外から丸見えね」
「そうでもない。ここから見るとガラス張りだが、それはあくまで中から見た場合だ。外からは壁にしか見えないからな」

「そう言われるとそうかも!」
「魔法って便利だよな」

 私達はソファーに腰掛けながら、窓の外の光景を眺め呑気にそんな話を続けていた。

「……で、俺に話したいことがあったんだろう」
「あ、忘れてた」

「お前って本当に抜けてるな」
「うっ……」

 図星を付かれて私は表情を引き攣らせた。
 そして深く息を吐くと、顔を傾けアーベルに視線を向けた。

「実は昨日色々あって、全てライに、ラインハルトに話しちゃった」
「話したって、ここが乙女ゲームの世界でお前が転生者だってことか?」

「うん。私が悪役令嬢であることも、アーベルから聞いたこの世界の物語についても。それと、アーベルのことも……。ご、ごめんなさいっ! でもアーベルについては詮索しないって約束してくれたから、多分大丈夫だと思う。でも協力してくれたのに、勝手に話しちゃってごめんなさい……」

 私は勢いよく謝ると、頭を下げた。

(怒るかな……? でも勝手に話しちゃった私が悪いし)

「まずは顔を上げてくれ」
「……お、怒って、ない?」

 私は恐る恐る顔を上げると、ビクビクしながらアーベルの顔を覗き込んだ。

「別に怒ってないよ。いつかこうなることは予想していたからな。だけど思ったよりも早すぎて驚いたけど。お前、結構やるじゃん。決断力はあるんだな」
「あ、ありがとう」

 突然褒められて動揺してしまう。
 アーベルは全く怒ってる様子はなく、ほっと肩の力を落とした。

「俺が怒ると思っていたのか。本当に隠すつもりなら、最初からお前には話していないからな」
「そう、だよね」

「とりあえず良かったな」
「アーベルが色々と私の背中を押してくれたからだと思う。本当にありがとう。これからも協力者でいてくれるよね?」

「協力はするけど、これだけは言っておく。鈍いお前のためにな」
「……っ」

 アーベルにも鈍いと言われてしまい私は言葉を詰まらせた。

「これからの一番の協力者は俺じゃない。頼る相手も俺じゃない。お前には誰よりも心強い味方が出来たのだから、何よりも先にその者に頼れば良い。きっとお前を導いてくれるはずだ。緊急事態が起こった時にだけ俺の所に来て。じゃなければ俺がの方が早死にしそうだからな」
「早死にって……」

「あの王子の嫉妬深さはさすがに気付いているだろ。俺は平穏な暮らしを望んでいるからな」
「それは私だって」

「全てを伝えたってことは、そういうことだろう。まだ不安だというのであれば、思い切って既成事実でもつくってしまったらどうだ? そうすれば更に絆が深まって、簡単には切れなくなるからな」
「なっ……!」

 突然のアーベルの言葉を聞いて、私は言葉を失った。
 そして顔の奥がじわじわと熱くなっていく。

「本当に分かりやすいな。あんまりからかうと怒られそうだからこの辺にしとくよ。それにそろそろ教室に戻らないとな」
「まさか、からかったの? ひ、ひどいっ!」

「からかったつもりはない。そうなれば婚約解消は難しくなるだろう。可能性の話をしただけだ」
「……っ!」

 アーベルはさらりと答えると、ソファーから立ち上がり扉に向かって歩き出した。
 私も続けて立ち上がり、図書館を後にした。
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