上 下
50 / 64
第三章:学園生活スタート

47.魔法の図書館

しおりを挟む
 コレットと分かれた後、まだ少し時間があったので図書室へと向かった。
 ここには恐らくアーベルがいるはずだ。
 彼は私の協力者であるため、昨日ラインハルトに全て話したことを伝えておくべきだと考えた。
 ラインハルトはアーベルについては深く詮索はしないと言っていたが、勝手に話してしまった手前、直接私の口から伝えた方がいい。

 図書室を歩き回っていると、目的の人物を見つけることが出来た。
 アーベルは奥の席で静かに本に目を通していた。

「アーベル」
「どうした?」

 私が声をかけると、アーベルは視線をこちらに向けて落ち着いた声で問い返してきた。
 私はどう切り出して良いのか迷ってしまい、困った表情を浮かべた。
 それに勘付いたのかアーベルは席を立ち上がった。

「二階で話すか?」
「え? 二階って入れるの?」

「関係者以外立ち入り禁止だが、俺はここの責任者でもあるからな」
「え? 責任者って?」

「時間はあまりないし、話がしたいなら急いだ方が良いんじゃないのか?」
「た、たしかに」

 私は慌てるようにして、アーベルの後に付いていった。

 後から聞いた話によると、アーベルはイザークの従兄弟に当たる。
 そしてこの魔法学園を取り仕切っているのはイザークの祖父だ。
 アーベルはこの図書館の管理者になることを自ら志願したようだ。
 きっと本が好きなのだろう。

 私達は奥の扉の前に到着した。
 するとアーベルは扉に向かい手を伸ばした。
 すると掌の中から光が生まれ、扉が一瞬青白く光る。
 光が消えると共に扉がスッと薄れていき、奥には階段が見える。
 私達はそのまま奥に進み、階段を上っていく。

「すごい! 本当に魔法学校って感じがするわ」
「一々反応が大げさだな。魔法くらいもう何度も見てるだろう」

「見てるけど、こういうのを見る度に感動するわ! 昔憧れたファンタジー映画の中に入ったみたいで。アーベルはそういうの感じたことはないの?」
「子供の頃はあったかもしれないな。ルティナも知っているとは思うけど俺の家って魔法で有名な家系だから、魔法は常に傍にあったからな。これが当たり前に感じてしまったんだろうな」

「そっか。私は子供の頃はサボってたからな。もし私が転生者じゃなければ更に残念なことになってたはずよ。あはは……」

 私は自分で言って、とてつもなく残念な気分を感じていた。
 子供の頃魔法の勉強をサボっていた。
 きっと本来のルティナは魔法になんて、なんの興味もなかったのだろう。

(早く前世を思い出せて良かったわ)

 階段を上りきると奥に部屋が見えてくる。
 そこは木造のつくりで、温かみのある落ち着いた空間だった。
 この中にも沢山の本棚が置かれていて、奥には執務机が見える。
 そして開放的な大きな窓側に向けてソファーが並んでいる。

「ここは休憩スペース?」
「まあ、そんなところだな。ここは俺が来てから少し位置を変えたんだ。ずっと本に囲まれているのも息が詰まるからな」

「たしかに……。でもこれじゃあ外から丸見えね」
「そうでもない。ここから見るとガラス張りだが、それはあくまで中から見た場合だ。外からは壁にしか見えないからな」

「そう言われるとそうかも!」
「魔法って便利だよな」

 私達はソファーに腰掛けながら、窓の外の光景を眺め呑気にそんな話を続けていた。

「……で、俺に話したいことがあったんだろう」
「あ、忘れてた」

「お前って本当に抜けてるな」
「うっ……」

 図星を付かれて私は表情を引き攣らせた。
 そして深く息を吐くと、顔を傾けアーベルに視線を向けた。

「実は昨日色々あって、全てライに、ラインハルトに話しちゃった」
「話したって、ここが乙女ゲームの世界でお前が転生者だってことか?」

「うん。私が悪役令嬢であることも、アーベルから聞いたこの世界の物語についても。それと、アーベルのことも……。ご、ごめんなさいっ! でもアーベルについては詮索しないって約束してくれたから、多分大丈夫だと思う。でも協力してくれたのに、勝手に話しちゃってごめんなさい……」

 私は勢いよく謝ると、頭を下げた。

(怒るかな……? でも勝手に話しちゃった私が悪いし)

「まずは顔を上げてくれ」
「……お、怒って、ない?」

 私は恐る恐る顔を上げると、ビクビクしながらアーベルの顔を覗き込んだ。

「別に怒ってないよ。いつかこうなることは予想していたからな。だけど思ったよりも早すぎて驚いたけど。お前、結構やるじゃん。決断力はあるんだな」
「あ、ありがとう」

 突然褒められて動揺してしまう。
 アーベルは全く怒ってる様子はなく、ほっと肩の力を落とした。

「俺が怒ると思っていたのか。本当に隠すつもりなら、最初からお前には話していないからな」
「そう、だよね」

「とりあえず良かったな」
「アーベルが色々と私の背中を押してくれたからだと思う。本当にありがとう。これからも協力者でいてくれるよね?」

「協力はするけど、これだけは言っておく。鈍いお前のためにな」
「……っ」

 アーベルにも鈍いと言われてしまい私は言葉を詰まらせた。

「これからの一番の協力者は俺じゃない。頼る相手も俺じゃない。お前には誰よりも心強い味方が出来たのだから、何よりも先にその者に頼れば良い。きっとお前を導いてくれるはずだ。緊急事態が起こった時にだけ俺の所に来て。じゃなければ俺がの方が早死にしそうだからな」
「早死にって……」

「あの王子の嫉妬深さはさすがに気付いているだろ。俺は平穏な暮らしを望んでいるからな」
「それは私だって」

「全てを伝えたってことは、そういうことだろう。まだ不安だというのであれば、思い切って既成事実でもつくってしまったらどうだ? そうすれば更に絆が深まって、簡単には切れなくなるからな」
「なっ……!」

 突然のアーベルの言葉を聞いて、私は言葉を失った。
 そして顔の奥がじわじわと熱くなっていく。

「本当に分かりやすいな。あんまりからかうと怒られそうだからこの辺にしとくよ。それにそろそろ教室に戻らないとな」
「まさか、からかったの? ひ、ひどいっ!」

「からかったつもりはない。そうなれば婚約解消は難しくなるだろう。可能性の話をしただけだ」
「……っ!」

 アーベルはさらりと答えると、ソファーから立ち上がり扉に向かって歩き出した。
 私も続けて立ち上がり、図書館を後にした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)

夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。 ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。  って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!  せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。  新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。  なんだかお兄様の様子がおかしい……? ※小説になろうさまでも掲載しています ※以前連載していたやつの長編版です

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

呪われて

豆狸
恋愛
……王太子ジェーコブ殿下の好きなところが、どんなに考えても浮かんできません。私は首を傾げながら、早足で館へと向かう侍女の背中を追いかけました。

そんなに妹が好きなら家出してあげます

新野乃花(大舟)
恋愛
エレーナとエーリッヒ伯爵が婚約を発表した時、時の第一王子であるクレスはやや複雑そうな表情を浮かべていた。伯爵は、それは第一王子の社交辞令に過ぎないものであると思い、特に深く考えてはいなかった。その後、エーリッヒの妹であるナタリーの暗躍により、エレーナは一方的に婚約破棄を告げられてしまうこととなる。第一王子のエレーナに対する思いは社交辞令に過ぎないものだと思っていて、婚約破棄はなんら問題のない事だと考えている伯爵だったが、クレスのエレーナに対する思いが本物だったと明らかになった時、事態は一変するのだった…。

塩対応の公子様と二度と会わないつもりでした

奏多
恋愛
子爵令嬢リシーラは、チェンジリングに遭ったせいで、両親から嫌われていた。 そのため、隣国の侵略があった時に置き去りにされたのだが、妖精の友人達のおかげで生き延びることができた。 その時、一人の騎士を助けたリシーラ。 妖精界へ行くつもりで求婚に曖昧な返事をしていた後、名前を教えずに別れたのだが、後日開催されたアルシオン公爵子息の婚約者選びのお茶会で再会してしまう。 問題の公子がその騎士だったのだ。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています

平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。 生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。 絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。 しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?

処理中です...