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第三章:学園生活スタート
37.心配
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昨日はあんな話を聞いてしまったせいで一睡も出来なかった。
ラインハルトとのハッピーエンドを目指すと決めたはいいものの、何をしたらいいのかも分からない状況だ。
私はベッドから起き上がり鏡の奥に映る自分の姿を見て苦笑した。
眠れなかった所為か顔は腫れぼったく、その上頭の奥がぼーっとする。
(今日は体調が悪いから、さぼってしまおうかな)
きっと授業に出たとしても、こんな頭じゃ内容なんて入って来ない筈だ。
今日は体調が悪いと言う理由で授業は休むことにした。
すでに頭の奥がくらくらしていたので、その事を連絡すると私は再び布団の中へと潜り込んだ。
横になった瞬間深い睡魔に襲われて、気付けば眠りに落ちていた。
***
どれくらいの時間が過ぎたのだろう。
部屋の中は夕暮れの赤い光が差し込んでいて、室内は薄っすらと暗くなりはじめていた。
「……ん、……あれ、夜?」
「ルティ、目覚めたのか?」
まだ頭の奥は何処かふわふわしていて、現実と夢の狭間の様な気分を感じていると、不意に隣から声が響いて来た。
(ライの声がする。私寝ぼけているのかな?)
「ルティ?」
「……っ!?」
再び名前を呼ばれ、視線を声のする方へと向けると、そこにはラインハルトがいてここが夢ではない事に気付いた。
しかも手が温かいなと思っていたら、ラインハルトが握っていた様だ。
「な、なんでここにいるの!?」
「ルティが体調不良で寝込んでいると聞いたから様子を見に来たんだ。昼来た時はぐっすり眠っていたから起こさなかったけどな」
私は相当に動揺していた。
目覚めたらすぐ隣にラインハルトがいるなんて思ってもみなかったからだ。
「体調は寝たから大丈夫。あのっ、それよりも見ましたか?」
「寝顔か?」
「……はい」
「気持ち良さそうにぐうぐう寝ていたな。一度眠りに入ると何をしても中々目覚めないんだな。良い事を知れたよ」
ラインハルトは思い出したように、どこか愉しそうに話していた。
私は寝顔が見られてしまったことに恥ずかしくなり、顔を赤く染めてしまう。
(まさか口を開けて涎を垂らしながら寝てたりなんてしてないよね。そんなの見られていたら恥ずかしいっ)
「安心していい、あまりにも気持ち良さそうに眠っていたから何もしていない」
「え? 何かしようとしていたんですか?」
その言葉を聞いて私は眉間に皺を寄せた。
ラインハルトが意地悪そうに話している時は良からぬ事を考えている時だ。
だから油断は出来ない。
「どうした? 何か悪戯でもして欲しかったか?」
「ち、違いますっ!」
不敵に笑うラインハルトを見て私は慌てる様に答えた。
「さすがに病人に悪戯なんてしない、冗談だ」
「……っ!」
「でも、元気ないつものルティで安心したよ」
「心配かけてしまって、ごめんなさい。だけどもう大丈夫ですっ」
ラインハルトが心配して来てくれたんだと思うと、胸の奥が熱くなって嬉しい感情が込み上げてくる。
普段はすごく意地悪で、私の事をからかってばかりいるけど、優しい所もあるのは知っている。
だから私はラインハルトの事を好きになってしまったのだと思う。
だけど、もしシーラが現れたら私達の関係はどうなってしまうのだろう。
今はまだ私の傍にいてくれるけど、シーラが現れても私の事を選んでくれるのかな。
もし私ではなくシーラとの道を選んでしまえば、今の様にラインハルトとこうやって話す事も出来なくなってしまうのかな。
そんな事を想像するとあまりにも寂しく思えて、胸の奥がきゅうっと苦しくなる。
(やば、変な事を考えていたら泣きそう……)
私は慌てて顔を俯かせた。
「ルティ? どうした?」
「良くなったと思ったけど、まだちょっと体調が良くないみたいで」
「大丈夫か?」
「寝てれば大丈夫だと思います」
目に溜まっている涙が零れ落ちそうになるのを必死に耐えていたが、声が僅かに震えてしまう。
早くこの部屋から出て行って欲しいのに、ラインハルトは出て行く気配が全くない。
(どうしよう。お願い、早く出て行って……)
私は祈る気持ちで心の中でそう叫んでいた。
しかしそんな願いは通じることは無く、ラインハルトの手が私の顔へと伸びて来て、頬へと触れる。
そして顔を上に向かせられてしまうと、私の視界はすでに曇っていてラインハルトがどんな表情をしているのか分からなかった。
「どこか痛むのか? 医者を呼ぶ」
「ち、違いますっ! 大丈夫だからっ……」
この状況に驚いた瞬間、力が抜けてしまい頬を伝うようにして涙は溢れていた。
ラインハルトは暫く心配そうな顔をしていたが、そのまま何も言わずに私の事を抱きしめてくれた。
抱きしめられた腕の中はとても温かくて、心が落ち着くのには時間はかからなかった。
それから暫くして、赤く差し込んでいた夕焼けも消えて、室内は暗闇に包まれようとしていた。
だけど私にとってそれは有難いことだった。
泣き顔をラインハルトに見られなくて済むからだ。
「ルティ、落ち着いたか?」
「はい、いきなりごめんなさいっ。それと、ありがとうございますっ」
ラインハルトは濡れている私の目元を優しく指でなぞり、涙を拭ってくれた。
私はくすぐったさを感じながらも、大人しくしていた。
「何かあったのか?」
「色々と考える事が多すぎて、少し混乱してしまっただけです」
「私はいつになってもルティの相談相手にもなれないのか?」
「そ、そんなことは」
「ルティはいつも何も話してくれないから寂しいし、心配だ」
「……っ」
一人で悩んで来たけど、いつまで経っても何がいいかなんて分からなかった。
それなら思い切って聞いてみるのもいいのかもしれない。
ラインハルトなら私の話をきっと聞いてくれるはずだ。
「ライは、これからもずっと私の傍にいてくれますか? 私、ライと離れたくないっ」
「前にも話したと思うけど、私はルティの事を絶対に手放すつもりはない」
「でもっ、もしかしたらこれからライの前にすごく好きな人が現れるかもしれない。そうなったらっ……」
私が泣きそうな声で話していると、突然私の唇に指を押し当てた。
「すごく好きな人ならもう目の前にいる。一体いつになったらルティは認める気になるんだ? 私が好きなのはルティだけだ」
「で、でもっ……、んんっ!」
私が言い返そうとした瞬間、唇を塞がれた。
それは今までした口付けの中で一番強引で、乱暴なものだった。
ラインハルトとのハッピーエンドを目指すと決めたはいいものの、何をしたらいいのかも分からない状況だ。
私はベッドから起き上がり鏡の奥に映る自分の姿を見て苦笑した。
眠れなかった所為か顔は腫れぼったく、その上頭の奥がぼーっとする。
(今日は体調が悪いから、さぼってしまおうかな)
きっと授業に出たとしても、こんな頭じゃ内容なんて入って来ない筈だ。
今日は体調が悪いと言う理由で授業は休むことにした。
すでに頭の奥がくらくらしていたので、その事を連絡すると私は再び布団の中へと潜り込んだ。
横になった瞬間深い睡魔に襲われて、気付けば眠りに落ちていた。
***
どれくらいの時間が過ぎたのだろう。
部屋の中は夕暮れの赤い光が差し込んでいて、室内は薄っすらと暗くなりはじめていた。
「……ん、……あれ、夜?」
「ルティ、目覚めたのか?」
まだ頭の奥は何処かふわふわしていて、現実と夢の狭間の様な気分を感じていると、不意に隣から声が響いて来た。
(ライの声がする。私寝ぼけているのかな?)
「ルティ?」
「……っ!?」
再び名前を呼ばれ、視線を声のする方へと向けると、そこにはラインハルトがいてここが夢ではない事に気付いた。
しかも手が温かいなと思っていたら、ラインハルトが握っていた様だ。
「な、なんでここにいるの!?」
「ルティが体調不良で寝込んでいると聞いたから様子を見に来たんだ。昼来た時はぐっすり眠っていたから起こさなかったけどな」
私は相当に動揺していた。
目覚めたらすぐ隣にラインハルトがいるなんて思ってもみなかったからだ。
「体調は寝たから大丈夫。あのっ、それよりも見ましたか?」
「寝顔か?」
「……はい」
「気持ち良さそうにぐうぐう寝ていたな。一度眠りに入ると何をしても中々目覚めないんだな。良い事を知れたよ」
ラインハルトは思い出したように、どこか愉しそうに話していた。
私は寝顔が見られてしまったことに恥ずかしくなり、顔を赤く染めてしまう。
(まさか口を開けて涎を垂らしながら寝てたりなんてしてないよね。そんなの見られていたら恥ずかしいっ)
「安心していい、あまりにも気持ち良さそうに眠っていたから何もしていない」
「え? 何かしようとしていたんですか?」
その言葉を聞いて私は眉間に皺を寄せた。
ラインハルトが意地悪そうに話している時は良からぬ事を考えている時だ。
だから油断は出来ない。
「どうした? 何か悪戯でもして欲しかったか?」
「ち、違いますっ!」
不敵に笑うラインハルトを見て私は慌てる様に答えた。
「さすがに病人に悪戯なんてしない、冗談だ」
「……っ!」
「でも、元気ないつものルティで安心したよ」
「心配かけてしまって、ごめんなさい。だけどもう大丈夫ですっ」
ラインハルトが心配して来てくれたんだと思うと、胸の奥が熱くなって嬉しい感情が込み上げてくる。
普段はすごく意地悪で、私の事をからかってばかりいるけど、優しい所もあるのは知っている。
だから私はラインハルトの事を好きになってしまったのだと思う。
だけど、もしシーラが現れたら私達の関係はどうなってしまうのだろう。
今はまだ私の傍にいてくれるけど、シーラが現れても私の事を選んでくれるのかな。
もし私ではなくシーラとの道を選んでしまえば、今の様にラインハルトとこうやって話す事も出来なくなってしまうのかな。
そんな事を想像するとあまりにも寂しく思えて、胸の奥がきゅうっと苦しくなる。
(やば、変な事を考えていたら泣きそう……)
私は慌てて顔を俯かせた。
「ルティ? どうした?」
「良くなったと思ったけど、まだちょっと体調が良くないみたいで」
「大丈夫か?」
「寝てれば大丈夫だと思います」
目に溜まっている涙が零れ落ちそうになるのを必死に耐えていたが、声が僅かに震えてしまう。
早くこの部屋から出て行って欲しいのに、ラインハルトは出て行く気配が全くない。
(どうしよう。お願い、早く出て行って……)
私は祈る気持ちで心の中でそう叫んでいた。
しかしそんな願いは通じることは無く、ラインハルトの手が私の顔へと伸びて来て、頬へと触れる。
そして顔を上に向かせられてしまうと、私の視界はすでに曇っていてラインハルトがどんな表情をしているのか分からなかった。
「どこか痛むのか? 医者を呼ぶ」
「ち、違いますっ! 大丈夫だからっ……」
この状況に驚いた瞬間、力が抜けてしまい頬を伝うようにして涙は溢れていた。
ラインハルトは暫く心配そうな顔をしていたが、そのまま何も言わずに私の事を抱きしめてくれた。
抱きしめられた腕の中はとても温かくて、心が落ち着くのには時間はかからなかった。
それから暫くして、赤く差し込んでいた夕焼けも消えて、室内は暗闇に包まれようとしていた。
だけど私にとってそれは有難いことだった。
泣き顔をラインハルトに見られなくて済むからだ。
「ルティ、落ち着いたか?」
「はい、いきなりごめんなさいっ。それと、ありがとうございますっ」
ラインハルトは濡れている私の目元を優しく指でなぞり、涙を拭ってくれた。
私はくすぐったさを感じながらも、大人しくしていた。
「何かあったのか?」
「色々と考える事が多すぎて、少し混乱してしまっただけです」
「私はいつになってもルティの相談相手にもなれないのか?」
「そ、そんなことは」
「ルティはいつも何も話してくれないから寂しいし、心配だ」
「……っ」
一人で悩んで来たけど、いつまで経っても何がいいかなんて分からなかった。
それなら思い切って聞いてみるのもいいのかもしれない。
ラインハルトなら私の話をきっと聞いてくれるはずだ。
「ライは、これからもずっと私の傍にいてくれますか? 私、ライと離れたくないっ」
「前にも話したと思うけど、私はルティの事を絶対に手放すつもりはない」
「でもっ、もしかしたらこれからライの前にすごく好きな人が現れるかもしれない。そうなったらっ……」
私が泣きそうな声で話していると、突然私の唇に指を押し当てた。
「すごく好きな人ならもう目の前にいる。一体いつになったらルティは認める気になるんだ? 私が好きなのはルティだけだ」
「で、でもっ……、んんっ!」
私が言い返そうとした瞬間、唇を塞がれた。
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