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第三章:学園生活スタート

36.決意②

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「現状、あの王子には好かれている様だし心配することはないんじゃないか? 見た感じ、お前が追い回していると言うよりは完全に逆転しているよな。執着しているのはお前では無く、王子の方。しかもあの王子、お前に近付く男全てを敵対視している様だからな。そんな状態を見ていたら他の女に靡くとか考えにくい、というか無いだろ」
「あれは私の反応を面白がっているだけよ、きっと……」

 私は顔を引き攣らせながら答えていた。

「そんなことより、お前はどうなんだ?」
「どうって何が?」

 アーベルは私の顔をじっとみながら問いかけて来たのだが、私は意図が分からず首を傾げた。

「あの王子、ラインハルトの事は好きなのか?」
「え!? い、いきなり何っ!?」

 突然そんな質問をさらりとされてしまい、私は戸惑ってしまう。
 顔の奥からじわじわと熱を感じて、火照っていく様だ。

「聞くまでも無い質問だったか? 言わなくても分かっているとは思うけど、ここは夢ではなく現実の世界だ。お前の場合、特にこの学園生活で今後の人生が決まっていくことになるはずだからな。誰かに遠慮ばかりしていると悪い方に落ちていく事になるぞ」
「分かっているわ」

 アーベルの言葉が私の胸に重くのしかかってきた。
 悪役令嬢だと分かった時点で、私には道が少ない事は覚悟していた。
 だから絶対に間違った選択肢を選んではいけない。

「それから、お前はゲームをプレイしたことが無いって言っていたから知らないとは思うけど、ゲームのルティナと、今のルティナは何もかもが違う。それはお前が転生者故に物語が改変されているんだろうな」
「あ……」

 その言葉に思い当たる節はあった。
 私はゲームはプレイしたことは無いが、過去を変えてしまったことは理解している。
 だからそのせいで色々とおかしくなっているのだろう。

「別に悪い事では無いと思うけど、物語が改変されるのなら、本来のゲームに戻ろうと強制的な力が今後かかる可能性も無いとは言えない」
「……そんな。じゃあ私の努力は意味がないってこと?」

「ごめん、そのことは俺も良くは分からない。だけど油断はしない方が良い。特に今後現れるシーラには警戒しておいた方が良いな。何かあれば俺も協力するよ。一応転生者仲間だからな」
「ありがとう」

 私が泣きそうな顔で答えると、アーベルは「泣くなよ」と言って私の頭をポンと撫でてくれた。

「泣いてないけど、泣きたくもなるよ……」
「そうだな」

 話を聞いていると私が思っていた以上に状況は悪いようだが、今まで誰にも打ち明けられなかったことを話す事が出来て少しだけ心が楽になった気がした。
 それにアーベルは協力してくれると言ってくれている。
 しかもアーベルはゲームを見ていて内容もある程度は把握している様なので、きっと大きな力になることだろう。
 そう思うとどこからか安心感を覚えていた。

 学園生活が始まりヒロインであるコレットともそれなりに仲良くなり、ラインハルトにはまだ嫌われてはいない。
 このまま断罪される事も無く、全てが上手くいくと何処かで期待していた。
 だけど今までの物語は序章に過ぎなかったのだろうか。
 シーラと出会い、物語が大きく変わってしまう事を思うと怖くなる。

(今まで私がして来たことが、全部無駄だったなんてないよね)


***


 私は自室に戻ってからも、その事ばかりを考えていた。
 シーラが現れてもラインハルトは私の傍にいてくれるのだろうか。
 嫌な想像をしてしまうと胸の奥がバクバクと鳴りはじめ、締め付けられる様に苦しくなる。

 私は自分の胸に手を当てて、心と向き合ってみた。
 ずっと前からこの気持ちには何処かで気付いていた。
 だけど自分は悪役令嬢であり、いつかは嫌われて離れていく存在だと分かっていたから絶対に好きにならない様にしようと思っていた。
 だけどラインハルトはそんな私の心など気にせず、いつも私に触れて好きだと言ってくる。
 私は嫌がっている態度を取っていたが、そんな心は疾うに見透かされていたのかもしれない。
 拒もうとすれば出来たかもしれないのに、そうはしなかった。

(私、ライのこと……好きなんだ。だから奪われたく無いって思うのかも)

 そして私に残された道は二つ。
 このままラインハルトと結ばれてハッピーエンドを迎えるか、シーラの登場により強制的に悪役令嬢になり断罪からの幽閉エンドを迎えるかのどちらかだ。
 それならば答えは決まっている。

(こうなったら、我慢はやめる。絶対にライとハッピーエンドを迎えて見せるわ!)
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