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第三章:学園生活スタート

29.動揺する

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(いきなりライにキスされた! しかも人前で……)

「いい加減、機嫌を直したらどうだ?」
「だって、あんな人前でするとかっ! 信じられませんっ!!」

 私は顔を真っ赤に染め、興奮気味にラインハルトに文句をぶつけていた。

 私達はラインハルトの部屋にいる。
 あの後、私がぽかんとしていると、その隙にラインハルトに腕を引っ張られ自室まで連れて来られた。
 そして現在、私は盛大に文句を言っている所だった。

 ラインハルトは今までも人前で一切気にすることなくスキンシップをして来たが、まさかキスまでするなんて思ってもいなかった。
 しかも見知った顔の前であんなことをされてしまったのだから、恥ずかしくて仕方が無い。

(私、明日からどうな顔で教室に入ればいいのよ……)

「だけど、これでコレットとの噂は完全に消えるな。結果的には良かっただろう?」
「は? よ、良くないっ! 全然良く無いわっ!! 今度は私との噂が立ったらどうしてくれるんですかっ!」

「相手がルティならば別に何も問題はないと思うが? 私の婚約者な訳だし、仲が良いのだと思われて今後変な噂も立たなくなるんじゃないか?」

 ラインハルトは反省する素振りは一切なく、涼しげな顔でさらりと言い返して来る。
 そんな姿が憎たらしく感じて、私は不満そうにむっと睨みつけた。

「それはそうですけど。で、でもっ! ライはあんなこと人前でして、恥ずかしくないんですか!?」
「無いな。ルティとはクラスが離れていて少し心配していたくらいだからな」

「心配?」
「お前が他の男にいい寄られていないかをな」

「は?」
「ルティは警戒心を持たず他の男に愛想よく近づいて行くからな。その上、私の気持ちをいつまで経っても受け入れようとしない」

 ラインハルトは目を細め、責めるような視線を私に向けて来る。
 その言葉に私は気まずさを感じ目を泳がせていると、ラインハルトの手が伸びて来て両手で包まれる様に頬に添えられる。
 ドキドキしながら視線を戻すと、ラインハルトは真直ぐに私の瞳を見つめていて鼓動が速くなる。

「こんなにも素直な反応を見せる癖にな。ルティは私を妬かせるのが本当に上手いな」
「ち、違うっ。そんなつもりはっ」

「そんな事を繰り返されたせいで、私の心はすっかりルティに囚われてしまった様だ。だから逃げられるなんて思うなよ? 責任は取ってもらうからな」
「責任って」

 私は鼓動を早めながら聞き返すと、ラインハルトは小さく笑った。

「そんなの決まっているだろ? 一生、ルティは私だけのものだ」

 ラインハルトは表情を緩め優しく微笑むと、私の鼓動はバクバクと更に速度を増す様に鳴り始める。

「ライは、私のどこがいいの?」

 私は恥ずかしさを紛らわせるように、慌てて問いかけた。

「そうだな。反応が面白い所とか、予想外の行動を取る所だな。最近ではルティの行動予測はある程度つくようになったが、それでも見ていて飽きないからな。ルティの事なら一日中見ていてもきっと飽きないだろうな」
「あのっ、それって変って言われている様な気がするんですけど!」

 私がむっとした表情で不満そうに答えると、ラインハルトは可笑しそうに小さく笑った。

「そんなことはない、個性があって良いと思うぞ。だからこそ、ルティといると退屈とは無縁なんだろうな」
「……っ! もう、いいですっ」

 私はラインハルトの掌を剥がすと、そっぽを向きながらぼそっと呟いた。
 そしてラインハルトに背を向ける様にした。

(もしかして、からかわれた? ライといると調子が狂うのよね。このムズムズする感じはなんなのっ)

 そんな事を考えていると不意に後ろから手が伸びて来て、温かいものが背中にぶつかった。
 すぐに後ろから抱きしめられていることに気付くと、胸の奥が高鳴っていく。

「……っ!?」
「機嫌を損ねてしまったか? そんなつもりで言ったわけでは無かったのだが、すまない」

 突然背後から抱きしめられた事と、普段あまり謝らないラインハルトが『すまない』と言ったことに私は動揺を隠せずにいた。

「は、離してくださいっ」

 首に絡んでいるラインハルトの腕を必死になって引き剥がそうとしていると、耳元で「悪いが断る」と低い声が響いた。

「好きだよ、ルティ」
「……っ!」

 先程から耳元で囁かれる度に私がピクピク反応している事に気付いているのか、更に追い打ちをかけるかの様にラインハルトは耳元に息を吹きかけてくる。
 私の耳は次第に熱を帯びていき、真っ赤に染まっていく。

「可愛いな。耳元で囁いているだけなのに。体温が上がって来ているのがはっきりと分かる」
「お願い、耳元で囁かないでっ! ……ぁっ」

 ラインハルトは「遠慮するな」と続けて、私の耳朶に愛撫をする様にちゅっと音を立ててキスを落としていく。
 その度に私はびくびく体を反応させてしまう。

「まだ認める気にはならないか? ならば止めてやれないな」
「はぁっ、耳はだめっ……」

「知ってる。ルティが耳が弱い事はな。だからわざとしているんだ」
「意地悪っ……はぁっ……んっ」

「意地悪なのはルティも同じだろう。私はルティが認めるまでいくらだって続けるぞ? こうしている間は私の事しか考えられなくなる。これを繰り返していけば、いつかルティは私の存在を認めざるを得なくなるよな?」
「ぁっ、もうっ、なってるからっ……」

 私が吐息交じりにか細い声で呟くと、首に巻き付いていた腕は緩くなっていった。
 そしてその腕は私の肩を掴み、正面に向けられた。
 私がとろんとした表情をしていると、覗き込む様にラインハルトの顔が視界に入って来る。

「随分蕩けた顔に変わったな。本当に耳弱いんだな」
「誰のせいだとっ……んっ」

 私は顔を真っ赤にしながらむっと睨むと、そのままラインハルトに唇を奪われた。
 角度を変えながら何度も啄むような口付けを重ねられる。
 更に私の息遣いは小刻みに震え、ラインハルトの腕をぎゅっと握りながら口付けを受け入れていた。

 何度目かの口付けでゆっくりと唇が離れていくと、優しい表情を向けているラインハルトと視線が絡みドキドキしてしまう。
 そしてそのまま抱きしめられた。

「ルティは素直なのか、そうでないのか分からないな」

 ラインハルトは私の事を抱きしめながら、小さく呟いた。

「だけど、いつか必ずルティに好きって言わせてみせるよ。だから覚悟しておいて」


***


 それから暫くして私は自室に戻って来ると、勢いよくベッドの上にダイブした。
 先程の事を思い出すと、恥ずかしさから体中の体温が上がっていく様な気がした。


(なんなの。なんでライは、あんなことしたんだろう)

 あの場にはヒロインであるコレットの姿もあった。
 それなのにあんなことをするって事は、ラインハルトルートは辿って無いと言う事を意味しているのではないだろうか。
 そう思うと全ての辻褄つじつまがあう気がする。

 それならば、私はライの事を好きになってもいいの?
 もう断罪に怯えなくてもいいの?
 
 私の中に期待と不安が生まれる。
 そしていつまで経っても胸の奥にあるざわざわする鼓動は収まらなかった。
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