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第三章:学園生活スタート

22.守られる者

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 私は逃げる事も叶わず、渋々ラインハルトの部屋へと来ていた。
 部屋の中に入ると、さすがにもう逃げないと思ったのか、ラインハルトは私の事を漸く下ろしてくれた。
 解放されたことにほっとしながら、私は室内に視線を巡らせていた。

 私の部屋も特別棟にあるので割と大きな部屋ではあるが、この部屋はそれを遥かに超えていた。
 しかも室内には螺旋状の階段があり、二階まである様だ。

(さすが王太子だけあるわね。これが学園内だなんて信じられないわ)

「ルティ?」
「あ、ごめんなさい。部屋が余りにも広くて少し驚いてました。2階まであるんですね!」

 私は階段の方に視線を向けた。

「2階の方が気になるのか? 見てみるか?」
「良いんですかっ!?」

 その言葉を待っていたと言わんばかりに私は目を輝かせ答えた。

「もちろん、構わないよ。じゃあおいで。案内するから」
「はいっ」

 嬉しそうに答えると、私達は室内にある螺旋階段を上り始めた。

(寮とは思えない程、お洒落な作りね)

 2階が見え始めて来ると、私の表情は感動で染まっていた。
 1階にも大きなソファーはあったが、2階にあるソファーは完全に寛ぐ為にあるような、丸みを帯びたふわふわしたソファーが並べられている。
 そして大きな窓が複数あり、心地よい日差しを室内に注いでいた。
 窓の奥にはバルコニーまである様だ。
 更に室内の奥には大きなキングサイズのベッドや、浴室などが完備されている。

「すごいわっ! 私の部屋より全然豪華」
「ルティはこの部屋を気に入ったのか?」

「はいっ! 最高じゃないですか。2年間こんな部屋で過ごせるなんて羨ましい」
「そうか。ならばいつでもこの部屋に来てくれて構わないよ。ルティなら歓迎する」

「良いんですかっ!?」
「勿論だ。ルティは私の可愛い婚約者だからな」

 ラインハルトはにっこりと微笑んでいた。
 ハッと先程の事を思い出し私は逃げ腰になるが、既に腕を掴まれてしまいソファーの方のへと連れて行かれた。

「ルティ、さっきの返事の答えを聞かせてもらおうか」

 ラインハルトは私をソファーに座らせ、自らもすぐ傍に腰を下ろすと手を伸ばし私の頬に触れる。

(まずい。何も考えて無いなんて言えないっ! どうしよう)

 私は取り合えず笑って誤魔化してみた。

「その笑顔、引き攣っているぞ? 笑って誤魔化そうなんて、思っていないよな?」
「ま、まさかっ!」

 その言葉に内心冷や冷やしながらも、私は勢いよく否定した。
 ラインハルトに嘘が通じない事は分かっているが、素直に答えても良い事が無いのも分かっていた。
 だから私は必死に考えた。
 何かラインハルトの気を逸らせるものがないのかを。

「その前に、さっきの話をしてください。気になって落ち着かないので」
「ああ、そうだな。まずはその事から話そうか」

 意外にもラインハルトはすぐに私の言葉を受け入れてくれて、触れていた手を剥がした。

「コレット・フェリシアは、ルティが思っている通り聖女で間違いない」
「やっぱり、そうなんだ」

「彼女が稀な光の力を持つ聖女であることは、ここの入学試験を受けた時点で判明していた。この事を知っているのは私とクライス、そしてディス。それに学園の一部の教師だけだ。だからこの事をルティも周りには口外しないで欲しい」
「隠していたのは、希少な存在だからですか?」

「ああ、その通りだ。公にすれば彼女を狙う悪い輩も現れるのは容易に想像が出来るからな。今回生徒会に入れたのもそう言った考慮する点があるからだ。それにあの試験で取った点数はコレットの実力だからな。彼女は優秀だ」

 今までこの学園の生徒会役員は全て貴族から選出されていた。
 これはあくまでも私の考えだけど、この学園の約8割は貴族からなっていて、学園を存続させる為の資金はその殆どが貴族からの寄付金から成り立っているのだと思われる。
 その為、ここに入学した生徒達の授業費や生活費は全てが無料となる。
 その事もあり、平民から生徒会役員が出てしまえば不満が出るのは当然だろう。
 貴族の中には平民を良く思っていない者も少なからずいる。
 以前それで大きな騒ぎが起こったことから元々あった食堂の他に、貴族専用の場所を後から設けることになったらしい。
 更に特別棟には、また別の食堂が完備されている。
 勿論そこに入れるのは特別棟に在籍する者のみとされている。

「そうなんですね。それならしっかり守ってあげないと!」
「ああ、そのつもりだ。私のクラスにはクライスもディスもいるから不穏な動きを感じ取ればすぐに気付くと思うが、寮の部屋だけは流石に特別棟に置くと言う事は出来ないからな。護衛を生徒の中に忍ばせているが」

 今の話を聞く限り護衛面では問題はなさそうだ。

(そんな状態でがっちがちに守られているのに、貶めようなんて絶対に不可能よね。そんな事も知らずに本来の私はいじめようとしていたなんて、自分から断罪してくださいって言っている様なものじゃない)

 私は前世の記憶が戻った事を心底喜んでいた。

「他にも聞きたい事はあるか?」
「特には」

 知りたかった事を全て聞けたので、すっきり出来た。
 私が答え終わるとラインハルトは「そうか」と言って再び私の顔の方に手を伸ばすと、髪に触れてきた。
 突然ラインハルトの距離が縮まり、私はドキドキして顔を僅かに赤く染めてしまう。

「今度はルティが答える番だ。さっきの返答、聞かせてもらおうか」
「……っ!」
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