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第三章:学園生活スタート

21.意地悪な婚約者

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 私は隣を歩くラインハルトの横顔を見つめていた。
 そして視線を下に向けると、未だに指は絡まったままだった。

 私は悪役令嬢で本編は始まっているはずなのに、どうして未だにこんな関係のまま続いているのかが不思議でならなかった。
 先ほどのラインハルトの反応を見ていれば、コレットが聖女で間違いなさそうだ。
 もし違うのだと言うのなら、その場で否定して終わりだと思うが、そうはせず『後で説明する』と言った。
 あの教室には私達二人しかいなかったけど、もしかしたら誰かに聞かれている可能性があると考慮してあんな風に言ったのかもしれない。
 だけど、そうだとすればあの後私に何度もキスをしてきたのはなんだったのだろう。

(私とのキスは誰かに見られても良いってこと!?)

 ラインハルトは策士だ。
 私との関係を良好だと周りに見せかけて、裏でヒロインとイチャイチャなんてことも無いとは言い切れない。
 
 私は前世を思い出した時点で、ラインハルトに振られる事は覚悟していた。
 それより怖いのは断罪だったため、ヒロインが現れたら全力で応援して恋路は絶対に邪魔しないと決めている。
 もし婚約解消を迫ってきたら、それも素直に従う予定ではいるのだが、今の所そんな素振りは一切見せない。

 一体どうなっているのだろう。

 恐らくヒロインであるコレットとの出会いイベントは既に終わったはずだ。
 教室で仲良く話している姿をこの目で見たのだから間違いない。
 もし違うのだとすれば、ヒロインがラインハルトのルートを選ばなかった場合になる。

(暫くは様子見ってところかな)

 そんな事を考えていると、私の視線に気付いたのかラインハルトと目が合った。

「どうした?」
「え?」

「さっきから私の顔をじっと見ている様だけど」
「……っ、ちょっとライに聞きたい事があって」

「聞きたい事? 何?」
「素直に答えてくださいね? 私、絶対に怒ったりはしませんから」

 私は前置きを入れると、思い切って聞いてみることにした。

「ライはこの学園に来てから胸がキュンとする様な出来事だったり、心が奪われる瞬間ってありましたか? まさに運命の出会い! 的な感じの」

 私の突拍子もない問いかけに、ラインハルトは僅かに目を細めた。
 そして暫く考えた後に、「無いことははないな」と呟いた。

「……っ!」

 私は今の言葉にやっぱりと納得すると、少しだけ胸の奥がもやもやするのを感じた。

「私、ライのその気持ちを応援します!」
「ルティは随分と優しいのだな」

 私が意気込む様に答えると、ラインハルトは静かに答えた。

(今のうちにちゃんと邪魔しないアピールをして、敵じゃないって分かってもらっておこう)

「そんなことないです。ライは私にとって大事ななので当然のことかと」
「へえ、まだそんな事を言うんだな」

 すると突然繋いでいた指が解け、手を解放された。
 しかし突然体がふわっと浮き上がりゾクッと体を震わせてしまう。

「わぁっ、な、何!?」

 私は驚いて思わずラインハルトの首に手を回した。

「落ちたく無ければ、そのまま私にしっかり掴まっておいた方がいいよ」
「ライっ、いきなり何するの? お願い、下ろしてっ」

 気が付けば私は横向きに抱きかかえらえれていた。
 角を曲がれば教室が並んでいる廊下で、生徒達も多くいるはずだ。
 そんな所をこんな状態で歩いて行くつもりなのだろうか。

「ルティ、暴れるな。教室まで運んで行くだけだ」
「こんなことをしたら誤解されますよっ! だから下ろしてください」

「ルティが私のである事は周知の事実だし、今更だろう。誰も誤解なんてしない」
「……っ、困る事になるのはライの方よ? こんな事をしたらコレットさんに誤解されても私、知らないからっ!」

 焦りから思わずそんな事を勢い良く口に出してしまった。

「……それはどういう意味だ?」
「……っ」

 ラインハルトの足がぴたりと止まる。
 私の方をじっと見つめる視線を感じると気まずくなり、私は目を逸らしてしまう。

「相変わらず、お前等仲が良いのな」

 突然目の前にクライスが現れ、呆れたように言った。

「クライス、丁度良い所に来た。ルティの具合が悪いので、心配だから私の部屋に連れて行く。次の授業を休むと伝えておいてくれ」
「……っ!?」

 ラインハルトは一方的にクライスに向かってそう伝えると、私を抱きかかえたまま歩き出した。

「大丈夫なのか?」
「私が付いてるから安心していい」

(いやいや、安心なんて出来るわけないじゃない! それに私、別に具合が悪いなんて一言も言ってない!)

「助け……」
「ルティ、その悪い口を今すぐここで塞いで欲しいか?」

 ラインハルトは私にだけ聞こえる程の声で囁く。
 僅かに口端を上げて小さく微笑んでいるように見えるが、その目は全く笑っている様には見えなかった。
 背筋がゾクッとして、それ以上は何も言えなくなってしまった。

(もしかして、怒ってる?)

「全く、鈍感過ぎる私の婚約者には困りものだな。今のうちにどういじめて欲しいか考えておいて」
「いじめ、る?」

 ラインハルトは意地悪そうな笑みを纏わせながら、私の顔を眺めていた。

(いじめるって何!?)

「ああ、いじめるという表現は間違っていたな。どう愛されたい? と聞くべきだったか」
「……なっ!?」

 その言葉に私は顔を赤く染めてしまう。

「ルティはどうされたい? 私の部屋に着くまでにしっかりと考えておいて」

 そしてラインハルトは私の耳元に唇を寄せて、「もし、何も答えられない様ならその時は私の好きにさせてもらうからな」と低い声で囁いた。

 私の耳にその言葉が響いて来ると、顔も耳も真っ赤に染まっていた。
 そんな私の態度を見てラインハルトは満足そうな笑みを浮かべている。 私はいつもこの男に翻弄されてばかりだ。
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