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第三章:学園生活スタート

20.ヒロイン探し

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 私はAクラスの前に到着すると、扉の端から奥を覗くようにヒロインであるコレットの姿を探していた。
 コレットの成長した今の姿は、前世でイラストでは見ていたのでなんとなく雰囲気は知っていた。
 ブロンドのさらさらのロングヘアーに形の良いアーモンド型のブラウンの瞳。
 そして愛嬌があり華奢で守ってあげたくなる容姿。

 私の記憶に残るそれらの情報から、コレットの事を探していた。
 しかし思いの外このAクラスには可愛い子が多く見つけられずにいた。

(窓際で一人佇んでる子かな。それともあそこで令嬢達と楽しそうにお喋りしている子かしら。あとは、ライの隣にいる子かな)

 正直な所、顔に対しての記憶は曖昧でなんとなく雰囲気は記憶しているが、はっきりとした顔立ちまでは覚えていなかった。
 そんな時、私はあることを思いついた。

「あの、すみません。ちょっとお聞きしたいことがあるのですが」
「はい。……っ!? これは、グレイス嬢。ラインハルト殿下をお呼びしますね」

 私が扉の傍にいた男子生徒に話しかけると、顔色を強ばらせながら辿々しい口調で返事をしてきた。

「いえ、ライ……、ラインハルト殿下には用はないの。コレット・フェリシア嬢を探しているんだけど、どなたか分かりますか?」
「はい……。コレット嬢なら、一番前の席のラインハルト殿下の隣に座っている方です」

 返答を聞き、二人の方へと視線を向けた。
 よくよく見てみれば、何やら親しそうに話しているようにも感じる。
 時折コレットはラインハルトに向けて、どこか嬉しそうな笑顔を零している。

(もう仲良くなっているんだ。ってことは出会いイベントは終えたってことなのかな)

「あの二人は仲が良いの?」
「そ、そうですね。席が隣同士というのもありますし、生徒会役員にも選ばれたそうですので。仲が良いと言われるとそうなのかもしれません」

「生徒会? そういえば入学式の時に言っていたわね。入学試験の上位の生徒から生徒会に選抜されるって」
「では、僕はこれで……」

 私の傍から離れようとする男子生徒に「待って」と言って私は手首を掴んだ。

「……っ!?」
「あの、もう一つ大切なことを聞きたいんですが!」

「は、はい……」
「このクラスに光の力を持つ聖女っていますか?」

「え? 聖女ですか? 僕はそんな話は聞いていません。このクラスに聖女様がいらっしゃるのですか?」

 男子生徒は聖女については一切知らないように見えた。

(知らないの? どういうこと? コレットは聖女じゃないの? この学園で生活していくうちに徐々に聖女だって分かっていく展開なのかな。でもそうなってくるとコレットがヒロインっていう線も確実とは言えなくなってきたな)

「あ、あの、もう宜しいでしょうか?」
「ああ、ごめんなさいっ」

 そう言われて私はぱっと手を離した。

(少し様子を見てみるしかないわね)

「ルティ、こんな所で何をしているんだ?」
「……っ!」

 突然、背後に気配を感じ、耳元で囁かれ背筋にゾクッと鳥肌が立つ。
 慌てて振り返ると笑顔を浮かべながら私の事を真っ直ぐに見つめているラインハルトの姿があり、思わず後ずさりしてしまう。

「……ライ、いつの間に。ど、どうしたの?」
「聞いているのは私の方だ」

(さっきまで教室にいたのに、なんでここにいるの!?)

「えっと、ちょっと人捜しをしていて。ライに会いに来たわけではないので、私はこれでっ!」

 私は焦りから思わず口を滑らせてしまう。
 そしてその場から逃走を試みるも、ライに手首を掴まれ動けなくなる。

「人捜し? 誰を探しに来たのか聞いても良いか?」
「そ、それは……」

 ラインハルトは目を僅かに細めてじっと私の事を窺うように見ていた。
 私は焦りから動揺し、自然と目を泳がせてしまう。

(ヒロインを探しに来たなんて言えないし、何か適当な理由を! 適当な理由、適当な……)

「とりあえず、扉の前にいたら邪魔になるから場所を変えようか」
「……あ、ちょっと」

 ラインハルトは私の掌をぎゅっと外れないほどの強さで握ると、私を引っ張るように連れて行った。


***


 私達は空き教室へと来ていた。
 勿論、この教室には私とラインハルトしかいない。
 そして何故か壁奥へと追いやられ、ラインハルトとの距離も近い。

「ルティ、隠し事は許さない。だからちゃんと白状して」
「隠し事って程ではないです」

「それなら言えるよな?」
「……っ」

 焦る私とは対照的に、ラインハルトはにっこりと微笑みながら聞いてきた。
 しかし瞳の奥は笑っていない。
 私が逃げ道を探すかのように扉の方に視線を向けると、突然顔の横に手をついて、まるで逃がさないとでも言うかのような態度を示してくる。

(壁ドンだわっ!)

 私はそんなことをされドキドキしていると、ラインハルトは更に迫ってきた。

「そんなに顔を赤らめてどうした? 私に嫉妬をさせて、こうされたくてわざとしていたのか?」
「ち、違いますっ!」

 私は慌てて否定した。

「先程、ルティは他の男の手に触れていたよな?」
「あ、あれはあの人が逃げそうだったから掴んだだけで」

「私という婚約者がいながら、他の男に触れるのはあまり感心出来ないな」
「……っ、ライだってコレットさんと仲良く話していたじゃないですかっ!」

 ムッとした私の口からは、咄嗟にそんな言葉が出てしまった。
 直ぐに我に返ったが、既に遅かった。
 ラインハルトの口端が僅かに上がったような気がした。

「ルティはコレット嬢の事が気になっているのか?」
「……っ、そうです」

 ラインハルトに嘘が通じないことは分かっている。
 だから諦めて白状することにした。

「どうして?」
「ここに来る前にこの前の試験の結果を見ました。そこでコレットさんの名前を見て、どんな人なのか気になって」

「試験の結果か。それだけで気になっているわけではないのだろう? 本当は何が知りたいんだ?」
「それは、その……」

(どうしようっ! なんて答えれば良いの!?)

「ルティ?」
「……っ、コレットさんは、その……聖女様なんですか?」

 逃げることも嘘を突き通すことも出来ない。
 追いつめられた私は思いきって口に出してしまった。
 その瞬間、ラインハルトの顔色が変わった。

「誰から聞いた?」
「え? それは……、わ、私の勘違いかも?」

 私は顔を引き攣らせながら、強引に笑顔を作り誤魔化そうとした。
 戸惑っている私に気付いたラインハルトは小さく息を吐いた。
 そしてすぐに表情を戻した。

「ルティ、コレット嬢が聖女だという話を誰から聞いたのか教えてくれ」
「誰かから聞いたわけではありません。私が勝手にそうかなって思っただけなので」

 私は嘘など付いていない。
 今の話を聞いてラインハルトは僅かに目を細め、じっと私の瞳を見つめていた。
 きっとラインハルトは私が嘘を言っていないのか疑っているのだろう。 
 やましい気持ちはないのに、そんなにも見つめられるとドキドキして鼓動が早くなる。

「どうしてそう思ったのか聞いても良いか?」
「信じて貰えないかもしれないけど、昔見た夢でなんとなくそんな場面を見たような気がしたので。だからそうなのかなって、思っただけです」

 私が答えるとラインハルトは一瞬腑に落ちないといった表情を浮かべるが、すぐにいつもの顔へと戻っていた。

「先程から質問ばかりで悪いな。これで最後だ。そのことを誰かに話したか?」

 私は首を横に振った。

「そうか」
「あの、どうしっ」

 私が聞き返そうとした瞬間、ラインハルトの指が私の唇に押し付けられ言葉を止められた。

「その話はこれ以上ここで話すのはよそう。放課後私の部屋に来てくれるか? その時に説明するから」
「わかりました」

 私が頷くと、ラインハルトは唇から指を剥がした。

(他の人には聞かれたくない話なのかな? それならやっぱりコレットが聖女ってこと?)

 私がそんなことを考えていると、不意にラインハルトの手が伸びてきて顎をクイッと持ち上げた。

「……っ?」
「いい眺めだな」

 私が顔を赤く染めてドキドキしていると、ラインハルトは小さく笑った。
 そして唇がそっと重なる。

「んっ……!? ちょっと、まって」
「待たない。ここには私とルティしかしない」

 ラインハルトは啄むようなキスを、角度を変えながら続けていく。
 私の唇を味わうように唇で挟み、軽く吸い上げる。

 唇が重なる度に、触れられた場所から熱がたまっていくようだった。
 ここは空き教室だけど、急に誰か来るとも限らない。
 こんなに何度もキスをされている場面を誰かに見られたらと思うと、気が気では無かった。

「考え事をする余裕がルティにはあるのか?」
「……っ、はぁっ」

 ラインハルトは唇を剥がすと、息が掛かるほどの距離で囁いてくる。
 私は熱でのぼせ上がったような表情を浮かべ、ラインハルトの事をキッと睨み付けた。

「その顔、いいな。たまらない。もっといじめたくなる」
「い、意地悪っ」

「そうだな、私は意地悪だ。そのことはルティだって良く分かっているだろう?」
「……っ、ぁっ……」

 ラインハルトは私の耳元に唇を寄せると、吐息混じりに囁いてくる。
 私が耳が弱いのを知ってこういうことをしているのだろう。
 反応したくないのに、ラインハルトの吐息がかかる度に私は体を震わせてしまう。

「本当にルティは可愛いな。そんなルティに私はいつだって夢中だ」
「なっ、なんですか。いきなり……」

 ラインハルトはさらりと呟き、私の顔は真っ赤に染まっていく。

「だから、他の令嬢に心を惹かれることはない。私が見ているのはいつだってルティだけだからな」
「そんなこと、別に聞いてませんっ!」

「そうか? だけどルティにはしっかりと伝えないと分かって貰えないからな。分かって貰えるまで何度だって伝えるよ」
「……っ!」

 ラインハルトは口端を上げて意地悪そうな顔で答えると、私の首筋に唇を押しつけた。
 深く吸われるとチクッとした痛みを感じて、私は眉を寄せた。

「これは他の男に触れた罰。見えるところに付けておいたから私が付けたって誰が見ても分かるだろうな」
「……っ」

 私はその言葉を聞いて顔を真っ赤に染めると、慌てて首元を手で押さえた。
 ラインハルトは不適な笑みを浮かべていて、なんだか悔しくなった。

「そろそろ教室に戻ろうか。ルティの教室まで送っていく」

 急に優しい顔をしないで欲しい。
 胸の奥がドクッと揺れて、昂ぶりが止まらなくなる。
 ラインハルトは微笑むと、私の指を絡めるように繋ぎ歩き始めた。
 端から見たら、今の私達は本当の恋人のように見えてしまいそうだ。
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