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第一章:幼少期(1)初めての友達と伝説の薬草

9.伝説の薬草③

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「貴女を一人で夜の森に行かせるわけには行かない。なので、こうしましょうか?」
「……?」

「私も一緒に行きます。それなら問題ない」
「はっ!? いやいや、それこそ問題大アリですっ!」

 私が咄嗟に答えるとラインハルトは『どうして?』と言った顔で不思議そうに私の顔を覗き込んで来た。

「そんな顔をされても困ります。自分が誰だか分かっていますか? 王子が夜の森なんて危険過ぎますっ! 絶対にダメですっ!」

 私がきっぱりと否定すると、ラインハルトは僅かに目を細めて「危険過ぎるか」と小さく呟いた。

「ルティナ嬢は庭園で迷子になるくらい方向音痴なのに、夜の森を一人で迷わずに歩けるの?」

 ラインハルトは私の耳元に唇を寄せると、意地悪そうな声で囁いて来た。

(……っ!?)

 突然耳元で囁かれビクッと体を跳ねさせてしまうと、慌てて体を後ろに引いた。

「そ、それはっ!」
「そんなに後ろに下がると落ちてしまいますよ?」

 ラインハルトはそう呟くと私の方へと手を伸ばして来た。
 異常なくらいドキドキしている私は、それを避けようと更に後ろに体を傾けると、突然体が椅子から落ちてぞくっと嫌な浮遊感を感じた。

「え? わぁああっ!?」

 私は変な声を上げそのまま椅子から転げ落ちてしまい、地べたにぺたんと座っていた。
 それを見ていたラインハルトは「ぷっ」と笑い始めた。
 私はその姿をきょとんとした顔で眺めていた。

「笑ってしまい、申し訳ありません。ふふっ、大丈夫?」

 ラインハルトは笑いを耐えながら、私に手を差し伸べてくれたが、私はラインハルトの手に触っていいのか分からずぼーっと手を眺めていた
 私がいつまでもその手を取らないでいると、ラインハルトは僅かに口端を上げて席を立ち、前にある椅子をどけると私の前にしゃがみ込んだ
 私の視線の高さと同じ位置にラインハルトの瞳があり、ドキドキしているとその隙にそのまま手を握られてしまう。

「どうしたの? もしかして手だけじゃ不満か? 抱き上げて欲しい?」
「……っ、ち、違いますっ!」

 慌ててラインハルトの掌の中から自分の手を引き抜こうとするも、ぎゅっと握られている為幾ら引っ張っても抜けない。

(なんなのっ、この王子。さっきと雰囲気が全然違う)

 さっきまでは優しくて穏やかな感じだったのに、今は表情で分かる程に意地悪だ。
 突然態度を一変させたラインハルトに私は動揺を隠しきれなかった。

「随分驚いた顔をしているようだけど、どうしましたか? ルティナ嬢」
「……っ、自分で立てるので手を離してくださいっ」

 私は恥ずかしそうに顔を赤く染めながら答えた。

(もしかして二重人格!?)

 私がそんな事を考えていると、ラインハルトはスッと立ち上がりそのまま私の手を引っ張り上げてくれた。
 しかし引っ張られた反動で体が前屈みになり、気付けば何かに受け止められていた。

「ふふっ、ルティナ嬢は随分と積極的なんですね。本当に面白い方だ」
「……うわぁ! ご、ごめんなさいっ。これはっ、事故ですっ! そう、事故っ!」

 ラインハルトにちゃっかり抱き着いている事に気付くと、顔を真っ赤にさせ慌てて離れて少し距離を取った。

(何やってるのよ、私。わざとやったって思われたらどうしよう。それこそ悪役令嬢じゃないっ! 今のはわざとじゃないっ! 本当に事故なの!)

「ルティナ嬢、ここは図書室なので静かに座りましょうか」

 ラインハルトは楽しげに答えると、椅子を引いて微笑みながら私を視界に捉えた。
 私は仕方なく頷くと、再び椅子へと座り直した。

「先程の話に戻りますが、満月の夜は明日だ」
「え!? そうなんですかっ? 急いで準備しなきゃ」

 私が慌てて呟くと、ラインハルトは呆れた様にため息を漏らした。

「まだ一人で行くなんて思っているんですか? 本当にどうしようもない人ですね」
「……っ、だって月に一度きりだから仕方ないじゃないですかっ! これを逃せば、また一ヶ月待たなければならなくなる。その間ラフィーちゃんは苦しむことになるんだよっ? だったら私が迷子になるくらいどうってことないわ! 何もしないよりは全然マシよ」

 私はぎゅっと掌をきつく握りしめた。
 
 放っておけばこの先の未来がどうなるのか、私は知っている。
 だからこそ、何もせずにはいられなかった。

 未来を変えられるのかは分からない。
 だけど変えられるかもしれない。

 私がこの世界に転生して来た理由は分からない。
 考えようによっては、これはある意味特殊能力なんだと思う。
 だったら、その力を無駄にはしたくない。

 私は涙をぐっと耐えながら、ラインハルトを睨んでいた。
「止めるな」とその瞳が語っているかのように。
 私の顔を見ていたラインハルトも、私の強い意志に気付いたのか表情を緩ませた。

「強情だな、君は。私が幾ら言っても聞かないと言う事は良く分かった。それなら尚更、私も一緒に行く」
「で、でもっ……」

「でも、じゃない。だけど、安心していい。優秀な護衛も連れて行くから。それならルティナ嬢も安心だろう?」
「あ、ありがとうございますっ」

 私は話が前進したことに喜び笑顔を浮かべると、深く頭を下げた。

「礼を言うのは私の方だよ。そこまでラフィーの事を大切に思ってくれて感謝している。ラフィーは本当に良い友人を持ったんだな」
「……っ」

 そんな風に褒められると、少し照れてしまう。
 感謝しているのは私も同じだ。

「明日の夕方、王宮に来れる?」
「はい、絶対行きますっ!」

「いい返事だ。両親にはちゃんと伝えてくること。それと馬車はこちらで手配するから、それに乗って来て」
「分かりましたっ! ラインハルト殿下、色々とありがとうございました。そしてよろしくお願いしますっ」

「堅苦しい呼び方はあまり好きじゃないんだ」
「そうなんですか?」

(じゃあ、なんて呼んだらいいんだろう)

「私はこれから君の事をラフィーと同じようにルティと呼ぶから、君は私の事をライと呼んでくれると嬉しいな」
「わかりました! 友情の証ですか?」

「友情の証? 面白い事を言うね。まあ、今はそれで構わないよ。その方が私も気楽に話せるからね」
「さっきから気になっていたんですけど。喋り方、そっちが素ですか?」

 私が聞くと、ラインハルトは小さく笑った。

「ラフィーがルティの事を気に入った理由が良く分かったよ。私も素で話すから、ルティもそうしようか。お互い堅苦しいのは苦手そうだからな」
「たしかに」

(意外と話しやすい人だったり、するのかな?)

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