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29.不穏な噂

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 あれから暫くして、私たちの学園ではある話題が持ちきりになっていた。

 聖女だと言われているローゼマリー、その弟のオリヴァー、そしてローゼマリーの婚約者であり王太子のギルベルト、さらには聖騎士団団長の息子ラファエル、この四人が突然行方不明になったのだ。
 王太子であるギルベルトが関わっているため、その詳細が一切公表されていないのか、本当に誰もなにも知らないのかは分からない。
 巷では神隠しではないかとか、誘拐されたのではないか、などと噂が噂を呼んで広まっている様子だ。

「ルーカス様もあの噂のこと、知ってますよね? 本当に四人とも、どこに行っちゃったんだろう」

 私は廊下を歩きながら隣にいるルーカスに問いかけた。

「突然、消息不明になったらしいね。噂ではあの四人は元々仲が良かったらしいから、どこかに一緒にいそうな気はするけど、実際はどうなんだろうな。俺には見当もつかないよ」

 私はルーカスの横顔を眺めながら話を聞いていると、彼は特に驚いた顔も見せず、いつも通りの表情で答えていた。
 きっとあの四人に対して全く興味がないのだろう。

(四人一緒に消えるなんて、絶対なにかあったんだろうな……。私には関係ないけど!)

 そう強がりながらも、私は不安を感じていた。
 いなくなったのは、全員乙女ゲームの登場人物だからだ。
 そうなれば、次は私の番かもしれない……などと嫌な考えをつい巡らせてしまう。

「ミア、そんなに不安そうな顔をしなくても平気だよ。ミアの傍にはいつだって俺がいるし、この世界に俺より強い者はなんていないだろうからな。それでも不安だと言うのならば、いつでもくっついていようか?」
「……っ、だ、大丈夫です! そのうち戻って来るのかも。あの人たち皆自分勝手だし……」

 不意にそんなことを言われ、私は照れてしまい慌てるように言い返した。
 たしかに彼の言う通りだと思った。
 いつも傍に彼がいるのは事実だし、きっと私の身になにかあったとしても、必ず助けてくれるに違いない。

「そんなに不安ならば、事件が解決するまで、ずっと傍にいようか?」
「今だってほぼ一緒にいるも同然じゃないですかっ! 夜も勝手に来るし……」

 ふいに意地悪そうな顔がこちらを覗き込んできたので、私はムスッとした表情で言い返した。
 朝目覚めると、隣でルーカスが寝ていることは今となっては見慣れた光景になっている。
 最初の頃は本当に驚いて、ベッドから落ちてしまったこともあった。

(ルーカス様のずっとは、本当になりそうだから怖いわ……)

 けれど、彼の言葉で少しだけ安心できたのも事実だ。
 きっと私を安心させようとして言ってくれたのだろう。半分くらいは……。

(本気で危なくなったら、ルーカス様の世界に逃げればいいんだし大丈夫だよね)
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