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30.私は選ばれた③-sideニコル-
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私が伯爵家の養子に入り三か月と少しが立った頃、お姉様から婚約者を紹介してもらう事になった。
年齢は私より三つ年上で、伯爵家よりも爵位は上の侯爵家の嫡男らしい。
以前お姉様に「まだ子供なのに、もう結婚相手が決められているなんて嫌じゃないんですか?」と聞いたことがあった。
するとお姉様は「貴族に生まれたからには仕方が無い事」だと当然の様に返されてしまった。
私は結婚は思い合っている者同士がするものだと思っていた。
だけど貴族間では政略結婚が主流であり、恋愛結婚の方が少ないという話を聞かされた時は衝撃を受けた。
私も貴族令嬢の仲間入りをしてしまったので、そのうち顔も知らないどこぞの貴族との結婚が決められてしまうのではないかと考えると今から不安になる。
だけど政略結婚かもしれないが、相手があんなにも素敵な人ならば文句も無いだろう。
私はルシアノを初めて見た時、胸がドキドキして高揚感に包まれてしまった。
見惚れてしまうとは、こういう状態のことを言うのだろう。
「ルシ、今日はニコルを連れて来たのっ」
「はじめまして、良く来てくれたね。僕はアリーの婚約者のルシアノ・ツェルナー、よろしくね」
「よ、よろしくお願いしますっ……! あ、ニコルです、……じゃなくてニコル・プラームですっ!」
「ニコル、顔が赤いけど緊張してる?」
「あ、ちょっと緊張しているかも……。も、申し訳ありませんっ」
顔を赤く染めてルシアノの顔をぽーっと見つめている私に気付いたアリーセは声を掛けて来た。
その瞬間我に返り、慌てるようにルシアノに謝った。
「ふふっ、初めてなら緊張するのも当然だよね。僕の事は気にしなくていいよ」
「あ、ありがとうございますっ……」
ルシアノは柔らかく微笑み、またドキドキしてしまう。
孤児院の中にもルシアノくらいの年齢の子供はいた。
だけど貴族だからというのもあるかもしれないが、雰囲気が全然違う。
まるで絵本の中に出て来るような素敵な男性に見えてしまい、私はどうしようもないくらいに興奮していた。
「ニコル嬢はアリーと同じで、人見知りするタイプなのかな?」
「え…?違うと思うけど……」
アリーセはルシアノの言葉に不思議そうな顔を見せていた。
「あ、あのっ……」
「ん?」
私はもう少しルシアノと話したくなり思わず声を掛けたが、ルシアノと視線が絡むと再びドキドキしてそこで言葉が止まってしまう。
「ニコル嬢?」
「わ、私の事はニコルで良いです。私もお姉様みたいに、ルシ様って呼んでもいいですかっ?」
「え?」
私が思わず声に出してしまった言葉を聞いて、ルシアノは一瞬驚いた顔を見せた。
(私、何かまずい事でも言った?)
これも後から知った事だが、愛称で呼び合うのは親しい間柄である場合が多く、家族や親しい友人、そして恋人や夫婦など、特別な関係である者達がそう呼び合うとのことらしい。
孤児院にいた時は皆好き勝手呼びやすいように呼んでいたから、理由なんて気にしたことは無かった。
「ルシ、ニコルはまだこの生活には慣れて無くて……」
「ああ、そうだったね」
アリーセの言葉を聞いてルシアノは納得した様に頷いた。
そして私の方に再び視線を向けた。
「ニコル嬢。いや、ニコルと呼ばせてもらうね。僕は君のお姉さんの婚約者だから、いずれは君の兄になるのかな。いきなりこんな事を言われても戸惑うかもしれないけど、僕の事を兄の様に思ってくれても構わないよ。アリーは少し頼りないかもしれないからね」
「……っ、酷いっ!」
冗談ぽく話すルシアノに、すかさずアリーセは文句を返していた。
「ふふっ、冗談だよ。だけど一人より二人の方が強力だろう?」
「た、たしかにっ……」
私は思わずその言葉に納得してしまった。
「ニコルも納得しないでっ! まずは、私に相談してね!私は頼れるニコルの姉なんだからっ」
アリーセは不満そうな顔で、私の手をぎゅっと掴んだ。
「そうだね、アリーは頼れるお姉さんだ」
「……っ、その言い方、絶対思って無いでしょ?」
「そんなことはないよ」
ルシアノは始終楽しそうな表情をを浮かべていた。
アリーセも膨れているが、本気で嫌がっている様には見えない。
二人のやり取りを見て、仲が良い事は十分過ぎる程に伝わって来た。
同時に政略的な婚約なのにも関わらず、こんなにも良い関係を結べている二人が羨ましいとも感じた。
この時の私はルシアノに見惚れてしまった場面はあったが、それは一時的なものだと思っていた。
そしてこれから先、私はルシアノとも仲良くなっていく。
それはアリーセの婚約者である事を理解した上で、ルシアノの事を本当の兄の様な存在だと思うようになっていったからだ。
頼れる存在として。
しかしそれから数年後、私は大きな問題にぶち当たってしまう。
その時に一番近くにいてくれたのがルシアノだった。
そして自分の中で膨らみ続ける気持ちの正体にも気付いていく。
決して認めてはいけないものだと分かっていも、その気持ちを止めることは出来なくなっていた。
年齢は私より三つ年上で、伯爵家よりも爵位は上の侯爵家の嫡男らしい。
以前お姉様に「まだ子供なのに、もう結婚相手が決められているなんて嫌じゃないんですか?」と聞いたことがあった。
するとお姉様は「貴族に生まれたからには仕方が無い事」だと当然の様に返されてしまった。
私は結婚は思い合っている者同士がするものだと思っていた。
だけど貴族間では政略結婚が主流であり、恋愛結婚の方が少ないという話を聞かされた時は衝撃を受けた。
私も貴族令嬢の仲間入りをしてしまったので、そのうち顔も知らないどこぞの貴族との結婚が決められてしまうのではないかと考えると今から不安になる。
だけど政略結婚かもしれないが、相手があんなにも素敵な人ならば文句も無いだろう。
私はルシアノを初めて見た時、胸がドキドキして高揚感に包まれてしまった。
見惚れてしまうとは、こういう状態のことを言うのだろう。
「ルシ、今日はニコルを連れて来たのっ」
「はじめまして、良く来てくれたね。僕はアリーの婚約者のルシアノ・ツェルナー、よろしくね」
「よ、よろしくお願いしますっ……! あ、ニコルです、……じゃなくてニコル・プラームですっ!」
「ニコル、顔が赤いけど緊張してる?」
「あ、ちょっと緊張しているかも……。も、申し訳ありませんっ」
顔を赤く染めてルシアノの顔をぽーっと見つめている私に気付いたアリーセは声を掛けて来た。
その瞬間我に返り、慌てるようにルシアノに謝った。
「ふふっ、初めてなら緊張するのも当然だよね。僕の事は気にしなくていいよ」
「あ、ありがとうございますっ……」
ルシアノは柔らかく微笑み、またドキドキしてしまう。
孤児院の中にもルシアノくらいの年齢の子供はいた。
だけど貴族だからというのもあるかもしれないが、雰囲気が全然違う。
まるで絵本の中に出て来るような素敵な男性に見えてしまい、私はどうしようもないくらいに興奮していた。
「ニコル嬢はアリーと同じで、人見知りするタイプなのかな?」
「え…?違うと思うけど……」
アリーセはルシアノの言葉に不思議そうな顔を見せていた。
「あ、あのっ……」
「ん?」
私はもう少しルシアノと話したくなり思わず声を掛けたが、ルシアノと視線が絡むと再びドキドキしてそこで言葉が止まってしまう。
「ニコル嬢?」
「わ、私の事はニコルで良いです。私もお姉様みたいに、ルシ様って呼んでもいいですかっ?」
「え?」
私が思わず声に出してしまった言葉を聞いて、ルシアノは一瞬驚いた顔を見せた。
(私、何かまずい事でも言った?)
これも後から知った事だが、愛称で呼び合うのは親しい間柄である場合が多く、家族や親しい友人、そして恋人や夫婦など、特別な関係である者達がそう呼び合うとのことらしい。
孤児院にいた時は皆好き勝手呼びやすいように呼んでいたから、理由なんて気にしたことは無かった。
「ルシ、ニコルはまだこの生活には慣れて無くて……」
「ああ、そうだったね」
アリーセの言葉を聞いてルシアノは納得した様に頷いた。
そして私の方に再び視線を向けた。
「ニコル嬢。いや、ニコルと呼ばせてもらうね。僕は君のお姉さんの婚約者だから、いずれは君の兄になるのかな。いきなりこんな事を言われても戸惑うかもしれないけど、僕の事を兄の様に思ってくれても構わないよ。アリーは少し頼りないかもしれないからね」
「……っ、酷いっ!」
冗談ぽく話すルシアノに、すかさずアリーセは文句を返していた。
「ふふっ、冗談だよ。だけど一人より二人の方が強力だろう?」
「た、たしかにっ……」
私は思わずその言葉に納得してしまった。
「ニコルも納得しないでっ! まずは、私に相談してね!私は頼れるニコルの姉なんだからっ」
アリーセは不満そうな顔で、私の手をぎゅっと掴んだ。
「そうだね、アリーは頼れるお姉さんだ」
「……っ、その言い方、絶対思って無いでしょ?」
「そんなことはないよ」
ルシアノは始終楽しそうな表情をを浮かべていた。
アリーセも膨れているが、本気で嫌がっている様には見えない。
二人のやり取りを見て、仲が良い事は十分過ぎる程に伝わって来た。
同時に政略的な婚約なのにも関わらず、こんなにも良い関係を結べている二人が羨ましいとも感じた。
この時の私はルシアノに見惚れてしまった場面はあったが、それは一時的なものだと思っていた。
そしてこれから先、私はルシアノとも仲良くなっていく。
それはアリーセの婚約者である事を理解した上で、ルシアノの事を本当の兄の様な存在だと思うようになっていったからだ。
頼れる存在として。
しかしそれから数年後、私は大きな問題にぶち当たってしまう。
その時に一番近くにいてくれたのがルシアノだった。
そして自分の中で膨らみ続ける気持ちの正体にも気付いていく。
決して認めてはいけないものだと分かっていも、その気持ちを止めることは出来なくなっていた。
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