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15.突然の告白①

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「あの、今なんて言われましたか?」

 私は眉を顰めて聞き返していた。

 先程ヴィムは『本当に俺と結婚してみる気は無いか?』と言っていたように聞こえた。
 聞き間違いと言うよりは、信じられなかったから再度聞き返してしまった。
 するとそんな私の表情を見て、ヴィムは小さく笑った。

「いや、何でも無いよ」
「…………」

(また、揶揄われたってこと……?)

 ヴィムは肯定も否定もすること無く誤魔化した。
 私は腑に落ちない表情をしていたが、ヴィムは気にする素振りも見せず、触れていた手を解放した。



「アリーセには結婚願望はあるのか?」
「え? あんな事があったばかりなので結婚は当分いいです……って言いたいところですが、私はこれでも貴族令嬢ですし。ヴィムとの婚約が白紙に戻れば、すぐにでも他の縁談を勧められるのかも……」

 そんなことを考えてしまうと今から気が重くなり、はぁ…と深くため息が漏れてきてしまう。

 貴族に生まれたからには、結婚には政略的な目的が絡んでくることは理解している。
 何も知らない相手と突然結婚しろなんて言われても嬉しいはずは無いが、家のためを思えば仕方が無いことだ。
 だけど本音を言えば、そんな結婚なんてしたくはない。

「そんなにため息が出るくらい嫌なのか?」
「そりゃそうですよ。何も知らない相手となんて、普通誰だって嫌じゃ無いですか?」

「たしかにな。アリーセは知ってる相手となら結婚しても構わないということか?」
「まあ、全く知らない人と結婚するよりはマシだと思います」

「そうか……」

 ヴィムは私の話を聞いて何か考えている様子だった。

「ヴィムの方こそ、結婚を周りから勧められたりはしないんですか?」

 こんな話をしていた流れから、私は思わず口に出してしまう。
 以前ヴィムは信用出来る相手がいないと答えていたが、そんな理由だけで婚約者を作らないのはおかしいと感じていた。
 ヴィムはこの国の王太子であり、いずれはこの国を率いていく者だ。
 そうなれば当然世継ぎだって作らなくてはならない。

 以前は隠しているだけで、実は婚約者がいるのでは無いかと疑っていた。
 しかし仮ではあるが私と婚約をした事によりその線は薄れ、ますます分からなくなってしまった。
 それに個人的にヴィムのその辺の事情には興味があった。

「周囲からは特に勧められるということはないな」
「王太子なのに?」

「全く決めてないと言うわけではないからな」
「あ、そういうことか。だけど、それなら仮の婚約者なんて作らなくても良かったんじゃありませんか?」

 私は不思議そうな顔で問いかけた。

「こちらにも色々事情があってな。アリーセがまだ誰とも結婚したくないのなら、そう思える日まで俺達の婚約は継続しておこうか」
「いえ、さすがにそれは申し訳ないです……!」

 私は慌てる様に答えた。

(突然、何を言い出すの!?)

「どうしてだ? 俺と婚約をしたままの状態なら、無理に縁談を勧められる心配もないんじゃないのか?」
「それはそうですけど……、私の事情だけでヴィムの事を巻き込む事なんて出来ません! それに自分の立場をもう少し理解してくださいっ!」

「俺の事なら気にしなくていい。その方が俺に取っても好都合だからな」
「そんなこと言ったら、いつまで経っても結婚出来なくなってしまいますよ? それでも良いんですか?」
 私が困った顔をするとヴィムは「ああ、それでも構わない」と即答した。

「……また、揶揄うんですか?」
「別に揶揄っているわけではない」

 私がムスッとした顔を見せると、ヴィムの掌が私の顔の方に伸びて来て頬に触れた。

「分からないか? どうして俺がこんな事を言うのか……」
「わ、分かりませんっ」

 ヴィムは私の顔を覗き込む様にじっと見つめていた。
 そして、その距離は息がかかりそうな程近い。

「知りたいか? その理由を」
「え?」

 私はドキドキし過ぎていて、まるで金縛りにあったかのように固まっていた。
 ヴィムに触れられた場所から熱が顔全体に広がっていくようで、いつしか私の顔は赤く染まっていた。

「またこんなに顔を赤く染めて……。そんな反応ばかり俺に見せていいのか? 勘違いされても文句は言えないぞ」

 ヴィムはそう言うと私の額にそっと口付けた。
 それから瞼や頬に続けてキスを落としていく。
 突然の事で私は完全に思考が固まっていた。
 心臓だけがバクバクとうるさい程に鳴り響いている。

「抵抗はしないのか? だったらここにも口付けるが、いいか?」

 ヴィムは私の唇を指でなぞるように優しく触れる。
 唇にヴィムの指先の感触を感じて、更に鼓動は速くなる。

「あ、待って……」

 私はハッと我に返ると弱弱しい口調で答えた。

「俺にキスされるのは嫌か?」
「嫌って言うか……。私達は本当の婚約者では無いので、こういうことをするのはどうかと」

 私が困った顔をしていると、ヴィムは私の唇から指を剥がした。

「たしかにまだ本当の婚約者ではないな。驚かせて悪かったな」
「い、いえ……、大丈夫です」

 ヴィムはそう言うとあっさりと離れて行った。
 私は突然の事で驚いてしまい、その後もじっとヴィムの事を見つめていた。
 するとヴィムは困った様に笑った。

「お前って本当に鈍いよな。本当はお前の気持ちが俺に向くまで待とうと思っていたけど、そんなのを待っていたらいつになるか分からないからな。はっきり伝えることにするよ」
「え?」

「俺は学園に通っていた時から、ずっとお前の事が気になっていたんだ。勿論今でもな」
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