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13.週末の約束

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 あれからヴィムとの距離感は更に縮まっていた。
 私達の関係は本物の婚約者同士ではなく、ただ演じているだけだ。
 それなのに婚約者というよりは恋人の様な扱いをされて、私の心は落ち着く暇も無かった。

 いつもの様に仕事をしているだけなのに、ヴィムは何かと私の傍に近付いて来るし、気に掛けてくれる。
 そうしてくれることはとても嬉しいけど、相手はこの国の王太子だ。
 いくら婚約者のフリをしているとはいえ、、素直に喜ぶなんて無理な話だ。


「アリーセ、今週の週末なんだが何か予定はあるか?」
「え?」

 仕事が一段落し、ソファーに座り美味しいお茶を啜っていると、前に座っていたヴィムは私の方を見つめながらそんなことを聞いて来た。
 私は頭の中で『何か予定はあったかしら?』と思い返してみるも、直ぐに何もない事に気付いた。
 しかしこんな質問をされたら、この後の返答によってはどんな言葉が返ってくるのかは大体想像がつく。

 先読みした私は「予定はあります」と嘘を付いてしまった。

「そうか……」

 私の返答を聞いたヴィムは少し残念そうな顔をしている様に見えて、私は嘘を付いてしまった罪悪感に胸が痛んだ。

(殿下、嘘を付いてしまってごめんなさい。ですが、休み無しで殿下に会うなんて私の心臓が持ちません! 休ませてくださいっ……!)

 嘘を付いてしまった罪悪感を打ち消す様に、私は心の中で言い訳をしていた。

「一応どんな予定か聞いてもいいか?」
「予定、ですか?えっと……」

 ヴィムはじっと私の瞳を見つめる様に聞いて来た。
 それ以上突っ込まれるなんて思ってもいなかった為、返答など何も考えてはいなかった。
 私は取り合えず引き攣った笑顔で誤魔化し、その間に慌てて頭の中で考えを巡らせた。

(もしかして、嘘を付いたことがバレた……?)

「アリーセ……?」

 私がいつまで経っても返答を寄こさない事に不信がったのか、ヴィムは私の名前を呼んだ。

「もうすぐお母様の誕生日が近いんです。それで何かプレゼントを贈りたいなと、考えていて……」

 私は不意に頭に浮かんだ内容を口に出した。

 取ってつけた様な言い方にはなってしまったが、母の誕生日が近いと言うのは事実だし、贈り物を何にしようか考えていたのも本当だった。

「そう言えばプラーム夫人は来月が誕生日だったな」
「そ、そうなのよ! ……でも、どうしてヴィムがその事を知っているの?」

 私は不思議そうに聞き返した。

「婚約者であるアリーセの周りの事は一応把握しているからな」
「あ、なるほど。さすが殿……、ヴィムね!」

 私はどうしてそんな事をヴィムが知っているのか不思議に感じたが、上手く誤魔化せた事に満足してしまい、それ以上深く考える事はしなかった。

「それなら俺と一緒に王都に行かないか?終わったら俺の用事にも少し付き合って貰いたいんだが」
「はい。勿論、喜んでお付き合いさせて頂きますっ」

 こんな風に言われてしまえば、もはや断るのは無理だった。
 確かにヴィムの傍にいると緊張する事も多いが、こうやって私と普通に接してくれるから話しやすくもあった。
 たまに王子である事を忘れてしまいそうになる程に……。
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