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8.仮の婚約者に

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「ありがとう、感謝するよ。どうしようかと考えていたんだが、お前のおかげで俺の悩みも一緒に解決することが出来たよ」
「いえ、こちらこそ本当に感謝致します。……だけど、本当に私なんかで良かったんですか? 婚約者のフリだとしても、殿下にふさわしい相手なら探せば幾らだっていたんじゃないんですか?」

 私は不思議そうに顔を傾げた。

(未だに殿下に婚約者がいないのも謎よね。何かあるのかしら……)

「ふさわしい相手か。俺は簡単に人を信用したり出来ないんだ。だから色々と考え過ぎてしまうのだろうな」
「それなら尚更私で良かったんですか?」

 私が答えるとヴィムはふっと小さく微笑んだ。
 普段あまり見せない笑顔に、私は思わずドキッとしてしまう。

「お前の事は信用しているよ。だから傍に置いているんだ」
「……っ、それは、どうもありがとうございますっ!」

 急にそんな事を言われてしまうと恥ずかしくなり、僅かに頬を染めてしまう。

 ヴィムは厳しい所もあるが、良く出来たらちゃんと褒めてくれる。
 王太子であるにも関わらず何度も『ありがとう』という言葉を私に言ってくれるのだ。
 それが嬉しくて、大変な仕事も頑張る事が出来るのだろう。

「どうした、頬が赤いな。照れているのか?」
「殿下が褒め過ぎるからっ……!」

「本当の事だ。お前は素直に反応するから分かりやすくていいな」
「……っ……」

 急にこんな話になり私は一人で動揺していた。
 きっとヴィムは揶揄ったのだと思うが、それでも褒められることは嬉しくて、我慢出来ずにそのまま顔に出てしまった様だ。

「伯爵家の方には後程正式な連絡を入れさせてもらう。そうすれば今の婚約者との関係は白紙に戻るだろう」
「ありがとうございます…!本当に感謝致します」

 私はその言葉を聞いて深く頭を下げた。

(こんなにも簡単に解決してしまうなんて、さすが王族ね。殿下に相談して良かったわ)

「私の方からお願いしておいて、こんな事を聞くのもあれですが……、勝手に私を婚約者に決めてしまって。その、大丈夫なんですか?」
「ああ、問題ない。お前が優秀であることは既に周りには伝わっているからな」

「でも……、私達の婚約が白紙に戻った時、殿下のイメージに傷が付いたりとかはしませんか?」

 私が不安そうな顔を浮かべていると、ヴィムは私の頭にポンと手を乗せた。

「お前はそんな事を気にしなくていい。さっきも言ったが、この話は俺に取っても良い話だ。だからそんな顔するなよ。お互いにとって良い話だろう?」
「そうですよね」

「ああ、そうだ」

 そう言ってヴィムは何故か私の頭を撫で始めた。
 私は恥ずかしくなり頭の上にあるヴィムの手を剥がそうと手を伸ばした。

「何してるんですかっ!」
「やっぱりこの高さこそ、お前だなって思ってな。撫でられるのは嫌いか?」

「き、嫌いでは無いですが……。恥ずかしいのでやめてくださいっ」
「やっぱり照れているんだな。可愛いな」

「距離が近すぎますっ!」
「でもこれから俺達はフリでも婚約者同士になるんだ。こういう事にも慣れていかないとな?」

 ヴィムは口端を釣り上げて意地悪そうに笑うと、私の耳元でそっと呟いた。

 耳元にヴィムの吐息がかかり、ゾクッとした感覚と擽ったさを感じて私は体をビクッと震わせてしまう。
 そして慌ててヴィムから離れた。

「顔が真っ赤だ。お前って案外いい反応するんだな」
「……っ……!!」

 完全に揶揄われたと思い、私は顔を真っ赤に染めながら悔しそうにムッとヴィムの事を睨みつけていた。



 それから数日後、正式に王家からの連絡が届き、私とルシアノの婚約は白紙へと戻った。
 両親は突然の事に相当驚いていたが、ヴィムとの婚約を快く受け入れてくれた。
 もちろん母も喜んでくれて、全て上手く解決することが出来た。

 ルシアノと妹のニコルの婚約については現在話合いをしている最中の様だが、直に決まる事になるだろう。
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