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第一章:聖女から冒険者へ
61.もう一人の聖女
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「私はこの世界ではヒナタという名前で通ってるわ。ルナさんと同じで私もこの世界に召喚された人間よ。見た感じ日本人ぽいけど、一緒なのかな?」
「……あ、私も日本人です」
ヒナタは同じ境遇であることを知ると、花が咲いたように満面の笑みを浮かべ、はしゃぐように「やっぱり!」と答えていた。
ダクネス法国が召喚した人間と聞いていたので少し警戒してしまったが、彼女は私のように自分の意思とは関係なく強制的に呼ばれてしまっただけなのだろう。
そう思うと、ヒナタに対して敵対心を向けるのは違う気がしてくる。
「それでは、やはり貴女がダクネス法国に呼ばれた聖女ということか」
「あなたは?」
イザナが呟くと、彼女は不思議そうに彼のほうに視線を向ける。
「私はルナの夫で現在共に旅をしている、イザナ・デニス・ベルヴァルトと申します。隣にいるのが仲間のゼロです」
「ルナさん、本当に結婚していたんだ」
イザナの話を聞いて、ヒナタはぽつりと小さく呟いた。
少し腑に落ちない、という顔のように見えたのは気のせいだろうか。
「あの、一つ聞いてもいい?」
ヒナタは私のほうに真直ぐな視線を向けると訪ねてきた。
私は戸惑いながらも小さく頷く。
「どうして、ルナさんは封印を終えた後、元の世界に戻らなかったの?」
「…………」
彼女にとっては当たり前の質問だったのかもしれない。
だけど、私はどう答えて良いものか悩み、直ぐに返事をすることが出来なかった。
本当の理由は、元の世界に帰りたくても帰れないという事情があるからなのだが、もしかしたらヒナタは帰れないことを聞かされていないのかもしれない。
(もしかして、ヒナタさんの力を利用するために伝えていないのかな……)
真っ先に頭に浮かんだのはそれだった。
私が返答に困っていると、それに気付いたイザナが変わりに答えてくれた。
「私がルナに求婚したんだ。それを彼女が受け入れてくれた」
「あー、そういうこと。一緒にいるうちに恋人関係になって、ルナさんはこっちの世界を選んだのね」
イザナの説明は簡潔で分かりやすいものだった。
そのため、ヒナタはあっさりと納得して、疑念を抱いている様子も見受けられない。
私は戸惑った顔をイザナに向けたが、彼は優しく微笑んでいた。
(今はそういうことに、しといたほうがいいのかな……?)
そんな風に読み取り、私はイザナの言ったことに従うことにした。
たしかに元にいた世界に帰る方法がないなんて言ったら、彼女を混乱させてしまうだろう。
ある意味ヒナタも被害者なのかもしれないのだからと、私は自分を重ねるように考えた。
「そ、そうなんだ」
私がへらっと笑うと、ヒナタは「そっか」と呟いた。
だけど、心の中に小さな罪悪感が芽生える。
いい答えが見つからなくて、つい嘘を付いてしまったけど、本当にこれで良かったのか正直分からない。
でも本当のことを言って、彼女をいたずらに混乱させたくもない。
だからこそ、本当のことは言えなかった。
(ごめんなさい、ヒナタさん……)
私は声に出せなかった言葉を心の中で呟く。
そして、彼女を救い出せないか後で二人に相談してみようと考えた。
「あ、あのっ」
「なに?」
「ヒナタさんが聖女として呼ばれたってことは、やっぱり災厄の封印がまた解かれてしまったんですか?」
私はどうしてもその事実を確認したくて、思わず聞いてしまった。
ここにいるの彼女の他にフィルだけだ。こんなことを聞けるのは、もしかしたら今日だけなのかもしれない。
「えっと……」
ヒナタは私の話を聞くと、戸惑った顔を見せてフィルのほうに助けを求めるように視線を流した。
「ルナ、悪い。そのことは言えないんだ。だけど、悪いようにはならないと思う。だから、安心して冒険を続けてくれ」
「え? それってどういうこと?」
フィルの答えに私が戸惑った顔で問いかけると、イザナに「ルナ」と呼ばれて制止させられる。
その時ハッと我に返り、これ以上聞いても二人を困らせるだけだと気付いた。
「ごめんなさい」
「気にしないでくれ。なんか変な空気にさせてごめんな」
私が謝ると、フィルは困ったように答えた。
この状況から、フィルはダクネス法国に付いている人間であることは間違いなさそうだが、出会った時と同じで悪い人にはどうしても思えない。
「さてと、俺達はそろそろ戻ろうか。遅くなるとまた叱られるぞ」
「えー、もうそんな時間? 私、あの人苦手なの。フィルなんとかしてよ!」
二人は打ち解けたかのように親しげに話している。
そんな光景を眺めていると、私の緊張の糸もいつの間にか切れていた。
(ヒナタさん、フィルと仲が良さそうだな)
私は再び自分を重ねるように眺めていた。
突然異世界に飛ばされて、周囲には知っている人間は誰一人としていない。
そんな状況で過ごすのは本当に辛いことだ。
だけど、一人でも自分の気持ちを分かってくれる人が傍に居てくれたら大分変る。
私にとってそれはイザナであったように、ヒナタにとってもそういう人間がいてくれたらいいなと思っていた。
(きっと、大丈夫、だよね……。フィルって親切だし)
「そういうわけで、俺達は行くわ。また会った時はよろしくな」
「ルナさんに会えて良かったわ。今度ゆっくりお話をしましょ。色々聞きたいこともあるし」
私は笑顔で「はいっ」と答えると、二人は去っていった。
最初は突然のことに動揺してしまったが、彼女に会うことで私の中にあった不安も少しだけ消えたような気がする。
「突然驚いたな……」
二人がいなくなった後、ゼロがぼそりと呟いた。
「意外と話しやすそうな人だったね」
私が安堵した顔で答えると、ゼロは一瞬眉を顰めたが、直ぐに表情を緩め「そうだな」と言った。
その間が少し気になったが、大した意味はないのだろう。
「イザナ、さっきはありがとう。返事に困っていたから、すごく助かった」
「そうだろうと思ったよ」
彼は本当に私のことを良く見ていてくれる。
そんな彼が傍にいてくれたからこそ、その世界もなかなか良いものだなと思えるようになったのだと思う。
(私、本当にイザナと出会えて良かった……)
改めて、そう強く感じた。
「……あ、私も日本人です」
ヒナタは同じ境遇であることを知ると、花が咲いたように満面の笑みを浮かべ、はしゃぐように「やっぱり!」と答えていた。
ダクネス法国が召喚した人間と聞いていたので少し警戒してしまったが、彼女は私のように自分の意思とは関係なく強制的に呼ばれてしまっただけなのだろう。
そう思うと、ヒナタに対して敵対心を向けるのは違う気がしてくる。
「それでは、やはり貴女がダクネス法国に呼ばれた聖女ということか」
「あなたは?」
イザナが呟くと、彼女は不思議そうに彼のほうに視線を向ける。
「私はルナの夫で現在共に旅をしている、イザナ・デニス・ベルヴァルトと申します。隣にいるのが仲間のゼロです」
「ルナさん、本当に結婚していたんだ」
イザナの話を聞いて、ヒナタはぽつりと小さく呟いた。
少し腑に落ちない、という顔のように見えたのは気のせいだろうか。
「あの、一つ聞いてもいい?」
ヒナタは私のほうに真直ぐな視線を向けると訪ねてきた。
私は戸惑いながらも小さく頷く。
「どうして、ルナさんは封印を終えた後、元の世界に戻らなかったの?」
「…………」
彼女にとっては当たり前の質問だったのかもしれない。
だけど、私はどう答えて良いものか悩み、直ぐに返事をすることが出来なかった。
本当の理由は、元の世界に帰りたくても帰れないという事情があるからなのだが、もしかしたらヒナタは帰れないことを聞かされていないのかもしれない。
(もしかして、ヒナタさんの力を利用するために伝えていないのかな……)
真っ先に頭に浮かんだのはそれだった。
私が返答に困っていると、それに気付いたイザナが変わりに答えてくれた。
「私がルナに求婚したんだ。それを彼女が受け入れてくれた」
「あー、そういうこと。一緒にいるうちに恋人関係になって、ルナさんはこっちの世界を選んだのね」
イザナの説明は簡潔で分かりやすいものだった。
そのため、ヒナタはあっさりと納得して、疑念を抱いている様子も見受けられない。
私は戸惑った顔をイザナに向けたが、彼は優しく微笑んでいた。
(今はそういうことに、しといたほうがいいのかな……?)
そんな風に読み取り、私はイザナの言ったことに従うことにした。
たしかに元にいた世界に帰る方法がないなんて言ったら、彼女を混乱させてしまうだろう。
ある意味ヒナタも被害者なのかもしれないのだからと、私は自分を重ねるように考えた。
「そ、そうなんだ」
私がへらっと笑うと、ヒナタは「そっか」と呟いた。
だけど、心の中に小さな罪悪感が芽生える。
いい答えが見つからなくて、つい嘘を付いてしまったけど、本当にこれで良かったのか正直分からない。
でも本当のことを言って、彼女をいたずらに混乱させたくもない。
だからこそ、本当のことは言えなかった。
(ごめんなさい、ヒナタさん……)
私は声に出せなかった言葉を心の中で呟く。
そして、彼女を救い出せないか後で二人に相談してみようと考えた。
「あ、あのっ」
「なに?」
「ヒナタさんが聖女として呼ばれたってことは、やっぱり災厄の封印がまた解かれてしまったんですか?」
私はどうしてもその事実を確認したくて、思わず聞いてしまった。
ここにいるの彼女の他にフィルだけだ。こんなことを聞けるのは、もしかしたら今日だけなのかもしれない。
「えっと……」
ヒナタは私の話を聞くと、戸惑った顔を見せてフィルのほうに助けを求めるように視線を流した。
「ルナ、悪い。そのことは言えないんだ。だけど、悪いようにはならないと思う。だから、安心して冒険を続けてくれ」
「え? それってどういうこと?」
フィルの答えに私が戸惑った顔で問いかけると、イザナに「ルナ」と呼ばれて制止させられる。
その時ハッと我に返り、これ以上聞いても二人を困らせるだけだと気付いた。
「ごめんなさい」
「気にしないでくれ。なんか変な空気にさせてごめんな」
私が謝ると、フィルは困ったように答えた。
この状況から、フィルはダクネス法国に付いている人間であることは間違いなさそうだが、出会った時と同じで悪い人にはどうしても思えない。
「さてと、俺達はそろそろ戻ろうか。遅くなるとまた叱られるぞ」
「えー、もうそんな時間? 私、あの人苦手なの。フィルなんとかしてよ!」
二人は打ち解けたかのように親しげに話している。
そんな光景を眺めていると、私の緊張の糸もいつの間にか切れていた。
(ヒナタさん、フィルと仲が良さそうだな)
私は再び自分を重ねるように眺めていた。
突然異世界に飛ばされて、周囲には知っている人間は誰一人としていない。
そんな状況で過ごすのは本当に辛いことだ。
だけど、一人でも自分の気持ちを分かってくれる人が傍に居てくれたら大分変る。
私にとってそれはイザナであったように、ヒナタにとってもそういう人間がいてくれたらいいなと思っていた。
(きっと、大丈夫、だよね……。フィルって親切だし)
「そういうわけで、俺達は行くわ。また会った時はよろしくな」
「ルナさんに会えて良かったわ。今度ゆっくりお話をしましょ。色々聞きたいこともあるし」
私は笑顔で「はいっ」と答えると、二人は去っていった。
最初は突然のことに動揺してしまったが、彼女に会うことで私の中にあった不安も少しだけ消えたような気がする。
「突然驚いたな……」
二人がいなくなった後、ゼロがぼそりと呟いた。
「意外と話しやすそうな人だったね」
私が安堵した顔で答えると、ゼロは一瞬眉を顰めたが、直ぐに表情を緩め「そうだな」と言った。
その間が少し気になったが、大した意味はないのだろう。
「イザナ、さっきはありがとう。返事に困っていたから、すごく助かった」
「そうだろうと思ったよ」
彼は本当に私のことを良く見ていてくれる。
そんな彼が傍にいてくれたからこそ、その世界もなかなか良いものだなと思えるようになったのだと思う。
(私、本当にイザナと出会えて良かった……)
改めて、そう強く感じた。
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