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第一章:聖女から冒険者へ
60.突然の遭遇
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翌日、いつもよりも早く起きて、準備を済ませると私達はギルドへと向かう。
ギルドには魔物の情報が多く集まってくることもあり、旅に出る前に立ち寄り確認しておくのは冒険者の常識のようだ。
(事前に知っていれば、危険な場所も回避出来るってことだよね)
今まで一人で旅している時は、そんなこと気にしたことはなかった。
だた行き当たりばったりで行動していたから。
二人と共に行動するようになり色々と教えてもらうことで、ソロで活動することがどれだけ不利な状況だったのか改めて気付かされた気がする。
(それに、パーティーを組んだほうが全然楽しいっ!)
昨晩、あんな話を聞かされて不安がないといえば嘘になるが、新しい場所に向かうワクワク感のほうが勝っていた。
私が嬉しそうな顔で歩いていると、隣を歩くイザナが気付いたようで声をかけられる。
「今日のルナは一段と機嫌が良さそうだな。すごく楽しそうな顔をしている」
「……っ!」
はっきりと口に出されて指摘されてしまうと、なんだか恥ずかしくなる。
「冒険って楽しいなって思って……」
「その顔を見ていれば、すごく伝わってくる。私まで伝染しそうだ」
楽しい気分のせいか、足取りも軽く感じられた。
ギルドに到着すると朝早いこともあり、冒険者の姿はあまりなく静かだった。
普段の雰囲気とはガラリと変わった風景に私は少し違和感を覚えてしまう。
そんな中、ゼロの姿を見つけ私達は合流する。
「お、来たな!」
「ごめんね、待たせちゃった?」
私がそう答えると、ゼロは「俺も今来たところだ」と言っていた。
ゼロはいつも行動が早い。いつもどこかにいなくなって謎めいた部分もあるけど、私にとっては頼れる存在だ。
それにこの賑やかな声を聞くと、少しほっとする。
「さっきギルド員に聞いたんだけど、魔物の大群は完全にいなくなったらしい。一体なんだったんだろうな。だけど、俺達にとっては好都合だ」
ゼロの報告を聞いて私はほっとしていた。
だけど、突然現れた魔物といい、あの開けた場所で見た光景を思い出すと、最初から全てダクネス法国が仕組んだこととしか思えない。
(やっぱり危険な国であるのは間違いないのかも。あまり関わりたくないし、早くこの街から出たいな)
「ああ。それから、良い知らせがある!」
ゼロはニヤリと口端を上げた。
「なんと、飛竜に乗れることになったんだ!」
「え? ひりゅう……?」
私は聞き慣れない言葉に首を傾げた。
「ルナは見るのも始めてになるのかな。飛空艇のように空中を移動する乗り物だよ」
何も知らない私に、イザナは説明してくれる。
「それって、もしかして竜の背中に乗るの?」
「そうなるかな。だけど安心して良い。元竜騎士と呼ばれる者が同乗するから、座っていればあっという間に付くはずだ」
イザナの言葉を聞いて、私は思わず表情を歪めてしまう。
飛竜という名のとおり、ドラゴン種なのだろう。
今まで何度か対峙し戦ってきたことがあるか、狂暴なイメージしかない。
だからこそ、恐怖から怯んでしまう。
(だ、大丈夫なのかな……)
「もしかして、怖いのか?」
私が狼狽えていると、ゼロがそんな言葉を投げかけてくる。
「少し……」
「ルナは、初めてだから仕方がないよ。でも、乗ってしまえばそんなこと全然忘れてしまうはずだ」
私が戸惑った声で答えると、イザナは「大丈夫だよ」と安心させようとしてくれた。
「しかし、良く説得出来たな」
「ちょうど行き先が同じだったのと、後は金で解決した」
ゼロは自慢げににっと笑いながら言った。
どうやら、飛竜というのは限られた人間しか乗ることが出来ないそうだ。
竜は気質が激しく、気に入らないと乗せてくれないらしい。
今回の場合は貨物の移動手段として使われている飛竜であり、引退した竜騎士が従えていると聞かされた。
「私、乗せてもらえるかな」
「ルナは元聖女だったこともあるし、問題無いと思うぞ。俺達は以前乗ったことがあるから恐らく大丈夫だ」
ゼロの話を聞いて少し納得するも、完全に不安が消えたわけではない。
だけど空を飛ぶということには、少し興奮してしまう。
(空か……。気持ち良さそうではあるけど、ちょっと怖いな)
そんな時だった。
「あれ、ルナか?」
不意に名前を呼ばれて振り返ると、そこには特徴的な赤髪の男が立っていた。
「フィル……?」
まさかこんな場所で再会するなんて思わず、私は驚いた顔を見せてしまう。
彼の隣には黒いフードを被った連れがいるようだ。
「お、やっぱりそうか。こんなに朝早くから狩りにでも行くのか?」
「えっと……」
フィルは相変わらず愛想の良い口調で話しかけてくる。
私が戸惑っていると「ルナさん……?」と隣にいたもう一人の人物が小さく呟いた。
そんな光景に動揺していると、まるで私を守るかのようにイザナとゼロが二人の間に立つ。
「ルナさんて、聖女だったルナさんよね?」
「え……?」
その声は若い女性の声だった。
彼女は頭に深く被っていたフードを下ろすと、綺麗な黒髪が現れる。
艶のあるサラサラの黒髪に、白々でスッとした和風美人といった顔立ちだ。
その姿を見た時、私は直感で直ぐに気付く。恐らく彼女は私と同じ、日本人だと。
「ヒナタ、顔を出すなよ。叱られるぞ?」
「ちょっとくらい良いじゃない。初対面なのにフードを被って挨拶をするほうが失礼だと思うわ!」
フィルに小言を言われ、ヒナタと呼ばれる女性は不満そうな声で呟いた。
二人は親しい関係のように見えたが、今の私はそれどころではない。
(ヒナタって……、名前からしても、日本人だよね。じゃあもしかして、この人が……?)
突然のことに、私の頭の中は軽く混乱していた。
ギルドには魔物の情報が多く集まってくることもあり、旅に出る前に立ち寄り確認しておくのは冒険者の常識のようだ。
(事前に知っていれば、危険な場所も回避出来るってことだよね)
今まで一人で旅している時は、そんなこと気にしたことはなかった。
だた行き当たりばったりで行動していたから。
二人と共に行動するようになり色々と教えてもらうことで、ソロで活動することがどれだけ不利な状況だったのか改めて気付かされた気がする。
(それに、パーティーを組んだほうが全然楽しいっ!)
昨晩、あんな話を聞かされて不安がないといえば嘘になるが、新しい場所に向かうワクワク感のほうが勝っていた。
私が嬉しそうな顔で歩いていると、隣を歩くイザナが気付いたようで声をかけられる。
「今日のルナは一段と機嫌が良さそうだな。すごく楽しそうな顔をしている」
「……っ!」
はっきりと口に出されて指摘されてしまうと、なんだか恥ずかしくなる。
「冒険って楽しいなって思って……」
「その顔を見ていれば、すごく伝わってくる。私まで伝染しそうだ」
楽しい気分のせいか、足取りも軽く感じられた。
ギルドに到着すると朝早いこともあり、冒険者の姿はあまりなく静かだった。
普段の雰囲気とはガラリと変わった風景に私は少し違和感を覚えてしまう。
そんな中、ゼロの姿を見つけ私達は合流する。
「お、来たな!」
「ごめんね、待たせちゃった?」
私がそう答えると、ゼロは「俺も今来たところだ」と言っていた。
ゼロはいつも行動が早い。いつもどこかにいなくなって謎めいた部分もあるけど、私にとっては頼れる存在だ。
それにこの賑やかな声を聞くと、少しほっとする。
「さっきギルド員に聞いたんだけど、魔物の大群は完全にいなくなったらしい。一体なんだったんだろうな。だけど、俺達にとっては好都合だ」
ゼロの報告を聞いて私はほっとしていた。
だけど、突然現れた魔物といい、あの開けた場所で見た光景を思い出すと、最初から全てダクネス法国が仕組んだこととしか思えない。
(やっぱり危険な国であるのは間違いないのかも。あまり関わりたくないし、早くこの街から出たいな)
「ああ。それから、良い知らせがある!」
ゼロはニヤリと口端を上げた。
「なんと、飛竜に乗れることになったんだ!」
「え? ひりゅう……?」
私は聞き慣れない言葉に首を傾げた。
「ルナは見るのも始めてになるのかな。飛空艇のように空中を移動する乗り物だよ」
何も知らない私に、イザナは説明してくれる。
「それって、もしかして竜の背中に乗るの?」
「そうなるかな。だけど安心して良い。元竜騎士と呼ばれる者が同乗するから、座っていればあっという間に付くはずだ」
イザナの言葉を聞いて、私は思わず表情を歪めてしまう。
飛竜という名のとおり、ドラゴン種なのだろう。
今まで何度か対峙し戦ってきたことがあるか、狂暴なイメージしかない。
だからこそ、恐怖から怯んでしまう。
(だ、大丈夫なのかな……)
「もしかして、怖いのか?」
私が狼狽えていると、ゼロがそんな言葉を投げかけてくる。
「少し……」
「ルナは、初めてだから仕方がないよ。でも、乗ってしまえばそんなこと全然忘れてしまうはずだ」
私が戸惑った声で答えると、イザナは「大丈夫だよ」と安心させようとしてくれた。
「しかし、良く説得出来たな」
「ちょうど行き先が同じだったのと、後は金で解決した」
ゼロは自慢げににっと笑いながら言った。
どうやら、飛竜というのは限られた人間しか乗ることが出来ないそうだ。
竜は気質が激しく、気に入らないと乗せてくれないらしい。
今回の場合は貨物の移動手段として使われている飛竜であり、引退した竜騎士が従えていると聞かされた。
「私、乗せてもらえるかな」
「ルナは元聖女だったこともあるし、問題無いと思うぞ。俺達は以前乗ったことがあるから恐らく大丈夫だ」
ゼロの話を聞いて少し納得するも、完全に不安が消えたわけではない。
だけど空を飛ぶということには、少し興奮してしまう。
(空か……。気持ち良さそうではあるけど、ちょっと怖いな)
そんな時だった。
「あれ、ルナか?」
不意に名前を呼ばれて振り返ると、そこには特徴的な赤髪の男が立っていた。
「フィル……?」
まさかこんな場所で再会するなんて思わず、私は驚いた顔を見せてしまう。
彼の隣には黒いフードを被った連れがいるようだ。
「お、やっぱりそうか。こんなに朝早くから狩りにでも行くのか?」
「えっと……」
フィルは相変わらず愛想の良い口調で話しかけてくる。
私が戸惑っていると「ルナさん……?」と隣にいたもう一人の人物が小さく呟いた。
そんな光景に動揺していると、まるで私を守るかのようにイザナとゼロが二人の間に立つ。
「ルナさんて、聖女だったルナさんよね?」
「え……?」
その声は若い女性の声だった。
彼女は頭に深く被っていたフードを下ろすと、綺麗な黒髪が現れる。
艶のあるサラサラの黒髪に、白々でスッとした和風美人といった顔立ちだ。
その姿を見た時、私は直感で直ぐに気付く。恐らく彼女は私と同じ、日本人だと。
「ヒナタ、顔を出すなよ。叱られるぞ?」
「ちょっとくらい良いじゃない。初対面なのにフードを被って挨拶をするほうが失礼だと思うわ!」
フィルに小言を言われ、ヒナタと呼ばれる女性は不満そうな声で呟いた。
二人は親しい関係のように見えたが、今の私はそれどころではない。
(ヒナタって……、名前からしても、日本人だよね。じゃあもしかして、この人が……?)
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