56 / 68
第一章:聖女から冒険者へ
55.ジースの街⑥
しおりを挟む
「やっぱり全然違うな」
「うんうん! もっと早くに買っておけば良かったね」
新しいコートを着て、私は楽しそうに会話を弾ませていた。
フードまで被れば、頭も耳も温かくて快適だ。
それでいて見た目も可愛いし、早くも私のお気に入りになっていた。
「そうだな。これがあれば狩りも難なくこなせそうだね」
「外に出ても、この寒さで困る事はないもんね。ここでランクを上げられたらいいな」
私が話に夢中になっていると、突然イザナに手を握られた。
(……っ!!)
「忘れてた……」
「ルナが忘れていそうだったから、私から繋いでみることにしたよ」
イザナは満足そうに話していたが、私は手を繋がれ僅かに頬を赤く染めてしまった。
だけど、フードを被っている為、顔の火照りを少し隠せているのかもしれない。
「ルナは手袋をした状態で手を繋がれても照れるんだな。本当に可愛い妻だ。こんな姿を見せられたら、ますます手を離せなくなるな」
「……っ!!」
イザナはクスクスと愉しそうに笑っていた。
街中でこんなことを言われるのは相変わらず恥ずかしいけど、本当は幸せだった。
ずっとこんな関係になりたいと願っていたことが今叶っているのだから、これ以上の幸せはないだろう。
そんなことを話していると、ギルドの建物の前まで辿り着いていた。
ジースは大きな街なので、ギルドの外観もそれなりに立派な作りになっていた。
それに、シーライズのギルドに劣らない大きさだ。
***
中に入ると何やら慌ただしい雰囲気であり、何かが起こっているのだとすぐに気付いた。
忙しなくギルド員が動き回り、冒険者達は何やら集まって話をしている様子だった。
「どうしたんだろう」
「何かあったみたいだな。聞いてみようか」
不安そうな表情を浮かべる私に、イザナは優しい声で答えた。
「何かあったのか?」
「……はい。ここから北に位置している森の中で、魔物の大群が現れたと知らせが入りまして。今、対応出来る冒険者の方を探しているんです」
イザナが近くにいたギルド員に声を掛けると、緊迫した顔色で事情を説明してくれた。
(魔物の大群……?)
「分かっている範囲で構わないから、詳しい情報を教えて貰えるか?」
「はい。魔物の数については、しっかりとした数は把握しきれていませんが、恐らくは数千……。レベルや種族は様々で、中には上級クラスの魔物も混じっているそうです。今Cランク以上の冒険者に当たってもらっている所なんです」
私はその話を聞いて、正直信じることが出来なかった。
なぜなら数千の魔物が突然現れるなんて、通常ならあり得ないことだからだ。
でも過去に同じような出来事があったことを思い出した。
(……うそ。そんなこと、有り得ないよ)
「数千って、間違えではないんですか?」
「詳しいことは分かりませんが、報告ではそのように聞きました」
思わず聞いてしまったが、ギルド員もそれ以上は知らない様子だった。
私の鼓動は次第にバクバクと激しく震えだす。
掌も先程から震えている。
「私達もその場所に向かわせてもらう」
「ほ、本当ですか!? 助かります!」
「ルナ、急だけどこんな事態になっていることを知った以上、私達も手を貸そう」
「うん、そうだね。行こう……!」
イザナの言葉に私は力強く頷いた。
何故こんな状況になっているのかは分からない。
だけど、自分の目で確認しなければいけない気がした。
もし、私達が知っているあの現象が起こってるのだとしたら……。
かなり大変なことになる。
「ちなみに、ダクネス法国の方も動いてくれているそうです」
「え?」
私はその話を聞いて不安な顔でイザナの方に視線を向けた。
「ルナ、きっと大丈夫だ。今の敵は魔物だ」
「そう、だよね」
まだ不安は消えたわけでは無いけど、イザナの言う通り今の敵はダクネス法国では無く、魔物だ。
このまま放っておけば大きな問題に繋がってしまう可能性だってある。
私達は、準備をして北の森に向かうこととなった。
「うんうん! もっと早くに買っておけば良かったね」
新しいコートを着て、私は楽しそうに会話を弾ませていた。
フードまで被れば、頭も耳も温かくて快適だ。
それでいて見た目も可愛いし、早くも私のお気に入りになっていた。
「そうだな。これがあれば狩りも難なくこなせそうだね」
「外に出ても、この寒さで困る事はないもんね。ここでランクを上げられたらいいな」
私が話に夢中になっていると、突然イザナに手を握られた。
(……っ!!)
「忘れてた……」
「ルナが忘れていそうだったから、私から繋いでみることにしたよ」
イザナは満足そうに話していたが、私は手を繋がれ僅かに頬を赤く染めてしまった。
だけど、フードを被っている為、顔の火照りを少し隠せているのかもしれない。
「ルナは手袋をした状態で手を繋がれても照れるんだな。本当に可愛い妻だ。こんな姿を見せられたら、ますます手を離せなくなるな」
「……っ!!」
イザナはクスクスと愉しそうに笑っていた。
街中でこんなことを言われるのは相変わらず恥ずかしいけど、本当は幸せだった。
ずっとこんな関係になりたいと願っていたことが今叶っているのだから、これ以上の幸せはないだろう。
そんなことを話していると、ギルドの建物の前まで辿り着いていた。
ジースは大きな街なので、ギルドの外観もそれなりに立派な作りになっていた。
それに、シーライズのギルドに劣らない大きさだ。
***
中に入ると何やら慌ただしい雰囲気であり、何かが起こっているのだとすぐに気付いた。
忙しなくギルド員が動き回り、冒険者達は何やら集まって話をしている様子だった。
「どうしたんだろう」
「何かあったみたいだな。聞いてみようか」
不安そうな表情を浮かべる私に、イザナは優しい声で答えた。
「何かあったのか?」
「……はい。ここから北に位置している森の中で、魔物の大群が現れたと知らせが入りまして。今、対応出来る冒険者の方を探しているんです」
イザナが近くにいたギルド員に声を掛けると、緊迫した顔色で事情を説明してくれた。
(魔物の大群……?)
「分かっている範囲で構わないから、詳しい情報を教えて貰えるか?」
「はい。魔物の数については、しっかりとした数は把握しきれていませんが、恐らくは数千……。レベルや種族は様々で、中には上級クラスの魔物も混じっているそうです。今Cランク以上の冒険者に当たってもらっている所なんです」
私はその話を聞いて、正直信じることが出来なかった。
なぜなら数千の魔物が突然現れるなんて、通常ならあり得ないことだからだ。
でも過去に同じような出来事があったことを思い出した。
(……うそ。そんなこと、有り得ないよ)
「数千って、間違えではないんですか?」
「詳しいことは分かりませんが、報告ではそのように聞きました」
思わず聞いてしまったが、ギルド員もそれ以上は知らない様子だった。
私の鼓動は次第にバクバクと激しく震えだす。
掌も先程から震えている。
「私達もその場所に向かわせてもらう」
「ほ、本当ですか!? 助かります!」
「ルナ、急だけどこんな事態になっていることを知った以上、私達も手を貸そう」
「うん、そうだね。行こう……!」
イザナの言葉に私は力強く頷いた。
何故こんな状況になっているのかは分からない。
だけど、自分の目で確認しなければいけない気がした。
もし、私達が知っているあの現象が起こってるのだとしたら……。
かなり大変なことになる。
「ちなみに、ダクネス法国の方も動いてくれているそうです」
「え?」
私はその話を聞いて不安な顔でイザナの方に視線を向けた。
「ルナ、きっと大丈夫だ。今の敵は魔物だ」
「そう、だよね」
まだ不安は消えたわけでは無いけど、イザナの言う通り今の敵はダクネス法国では無く、魔物だ。
このまま放っておけば大きな問題に繋がってしまう可能性だってある。
私達は、準備をして北の森に向かうこととなった。
0
お気に入りに追加
2,460
あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

貴方を捨てるのにこれ以上の理由が必要ですか?
蓮実 アラタ
恋愛
「リズが俺の子を身ごもった」
ある日、夫であるレンヴォルトにそう告げられたリディス。
リズは彼女の一番の親友で、その親友と夫が関係を持っていたことも十分ショックだったが、レンヴォルトはさらに衝撃的な言葉を放つ。
「できれば子どもを産ませて、引き取りたい」
結婚して五年、二人の間に子どもは生まれておらず、伯爵家当主であるレンヴォルトにはいずれ後継者が必要だった。
愛していた相手から裏切り同然の仕打ちを受けたリディスはこの瞬間からレンヴォルトとの離縁を決意。
これからは自分の幸せのために生きると決意した。
そんなリディスの元に隣国からの使者が訪れる。
「迎えに来たよ、リディス」
交わされた幼い日の約束を果たしに来たという幼馴染のユルドは隣国で騎士になっていた。
裏切られ傷ついたリディスが幼馴染の騎士に溺愛されていくまでのお話。
※完結まで書いた短編集消化のための投稿。
小説家になろう様にも掲載しています。アルファポリス先行。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる