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第一章:聖女から冒険者へ

44.欲しかった温もり

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「イザナは昨日帰って無いって事は、寝てないのか?」
「少しだけ仮眠はしたかな」

 ゼロは徐にそんな話を始めた。

(イザナ、疲れてるのかな? その前はずっと私の看病をしてくれていたし)

「そうか。でも少しだけだろ? 後はルナに任せて、俺は街で使えそうな魔術札でも探してくるよ」

 ゼロは私にちらっと視線を向けると僅かに口端を上げた。

(ゼロ、私に気を遣ってくれたのかな。ありがとう……)

「じゃあ、またな」

 ゼロはそう言って室内から出て行った。
 彼が出て行くと当然部屋には私とイザナの二人きりになり、変に緊張してきてしまう。
 ドクドクと鼓動を刻む音が妙に良く聞こえてきて、私は心なしか表情を強張らせていたのかもしれない。
 その雰囲気に動揺して黙ったまま顔を俯かせていると、膝の上に置いてある私の手に彼の掌が被さり、驚いてゆっくりと顔を上げた。
 彼は優しい表情で私を見つめていた。

(……っ)

 先程よりも胸が高鳴り、私は内心焦っていたが、とりあえず笑顔を作った。
 視線が合うと彼は優しく微笑む。

「ルナ、体はどうだ? 疲れてはいないか?」
「う、うんっ、私なら大丈夫だよ! イザナの方こそ、あんまり寝て無いんでしょ? 少し休む?」

 私が慌てるように答えると、イザナはふっと小さく笑い、そのまま私のことを包むように優しく抱きしめた。
 再び彼の腕の中に囚われ戸惑ってしまうが、すぐ傍にイザナがいるという実感を覚えると、嬉しさが込み上げて来て私は静かに瞼を閉じだ。

「私なら平気だよ。それよりも、ルナはさっきから何を緊張しているの? こうしていると、ルナの鼓動がはっきりと伝わってくるな」
「そ、そんなことないよっ!」

 イザナは私の耳元で囁いてくる。
 彼の息が耳にかかり擽ったさとぞくぞくとする感覚に、私はビクッと体を震わせてしまう。
 またからかわれているのだと頭の中で考えながらも、はっきりと彼の存在を確認出来たことが嬉しくて、私は手を背中に回してぎゅっと抱きしめ返した。
 もう彼の傍から離れたくないという気持ちが前に出たのだろう。

(……イザナの温もりだ。ずっとこうしていたいな)

「教えてはくれないのか? 私はルナのことは何だって知りたいのだけどな」

 突然そんなことを言われて、私はビクッと体を小さく反応させた。

「じゃあ、このままぎゅっとしていて欲しいっ……」
「いいよ。ルナの鼓動が落ち着くまでこうしておこうか」

 私が恥ずかしそうに答えると、イザナの優しい声が響いて来る。
 そして、更に私の体を引き寄せるようにぎゅっと抱きしめてくれた。

(どうしよう、ますますドキドキしてきちゃう……。私の鼓動、絶対聞かれてるよね。恥ずかしいけど、でも嬉しいな)

「今日のルナは甘えただね、可愛いな。普段からもこれくらい甘えてくれて構わないんだよ? 私はルナに甘えられるのは好きだからな」
「……そ、それなら」

 私は熱を持った顔を上げると、直ぐにイザナと視線が絡む。
 ドキッと心臓が飛び跳ね、私がもじもじしていると、イザナはクスッと小さく笑い「キスして欲しい?」と意地悪そうな顔で聞いてきた。
 私は恥ずかしそうに小さく頷いた。

「私っ、イザナに、もっと触りたいっ……」
「本当に……、ルナは可愛すぎて困るな」

 イザナは抱きしめる力を緩めると、私の額にそっと口付けた。 
 そして次は瞼に口付けられ、更には頬にもキスされる。

「口付けて欲しいのは、ここじゃないよね?」
「……意地悪、しないで」

 私が切なそうに眉を寄せて不満気な声で答えると、イザナは優しく微笑んだ。

「ルナが可愛すぎるから、つい意地悪したくなってしまうんだよ。この困った顔が好きなんだろうな」
「……っ、酷い!」

「ごめんね」
「……んっ」

 ゆっくりとイザナの顔が迫って来ると、そのまま触れるだけのキスをされる。
 ただ重なっただけなのに、この感覚がすごく懐かしく思えて私はゆっくりと瞼を下ろした。
 ずっとこのまま時が止まってしまえばいいのにと思っていると、唇が静かに離れていく。
 それが寂しくて瞳を再び開くと、私は彼の口元をじっと物欲しそうに眺めていた。

「足りないって顔だね」
「……っ」

 彼にじっと瞳の奥を覗かれ、心を見透かされる。
 それにドキッとして、同時に恥ずかしさが込み上げて来ると、私は戸惑うように目を泳がせてしまう。

「私も同じ意見だ。こんなんじゃ全然足りない」

 彼は静かに呟いた。
 その言葉を聞いて、私は鼓動をドキドキと揺らしながら再びイザナに視線を向ける。
 視線が絡んだ瞬間、彼は小さく微笑みゆっくりと顔を近づけて来る。
 そして再び唇が重なり、今度は啄む様に口付けられる。

「ルナの唇はやっぱり甘いな……、いくらだって味わいたくなる」
「んっ、……はぁっ」

 イザナは角度を変えながら何度も口付け、唇を食まれる度にちゅっとリップ音が響く。
 その音に少し翻弄してしまうが、私の心は幸福感に包まれていく。
 唇から伝わる彼の体温を直接感じて、その熱に飲み込まれて行くように体中がじわじわとのぼせ上っていく。

(イザナとのキス、好き……。もっとしたい……)

「ルナ、口開けて?」

 彼は一度唇を剥がし、熱っぽい視線を向けて来る。
 今の私はすでに蕩け切った顔をしているのだろう。
 キスをしただけだというのに頭の奥はふわふわして、脱力感のようなものがとても心地よく感じる。

「うん……、んんっ!」

 私がゆっくりと唇を開くと直ぐに塞がれ、熱を持ったざらりとした感触のものが乱暴に入り込んで来た。
 それが何なのか直ぐに気付いた。
 イザナの熱い舌先が、私の咥内で無遠慮に蠢く。
 上顎の裏を舐められると、鳥肌が立つようなゾクゾクとした痺れのような感覚に支配されていく。
 私が落ち着かない様子で耐えていると、今度は舌先に絡みつくように纏わりつき、根本まで深く吸われる。
 今度は息苦しさに僅かに眉を寄せてしまう。
 お互いの吐息と唾液が混ざり合い、咥内の中は更に温度を上げていく。

(……熱い。溶けちゃいそう……)

 私の思考も、その熱によって溶かされていくようだ。

「……っんっ、ふぁ……んんっ!」

 呼吸が苦しくなってくると、私はイザナの腕をぎゅっと掴む。
 目元には薄っすらと涙が滲み、熱で頭の奥が次第にぼーっとしていく。

「はぁっ、はぁっ……」
「その顔、堪らない程に可愛いな。満足出来た? それともまだ足りないか?」

 唇を剥がすと、彼は私の口端から垂れている唾液を舌先で舐めとった。
 そして優しい顔で、そんなことを聞いて来た。
 私は恥ずかしそうにもじもじしながら「足りない」と消えそうな声で呟いた。
 
 今のキスで完全に体に火がついてしまった。
 中心は既に切ない疼きを感じ始めていて、こんな不完全燃焼のまま放置されるのは辛いし、なによりもイザナの存在をもっと肌で感じていたい。
 そんな欲が私の中で膨らんでいく。

「それなら、ベッドに行くか?」

 私はイザナの言葉に小さく頷いた。
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