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第一章:聖女から冒険者へ
41.敵国の動向①
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私達はその後、魔術研究所を出て、宿泊している部屋へと戻って来た。
人目を気にすることなく、落ち着いて話せる場所と言えば、やはりここが一番なはずだ。
私はイザナの隣に座り、ゼロは私達と対面するようにソファーに腰掛けた。
「今回は急なことで二人には詳細を話せず、結果的に心配をかけてしまったね。本当に申し訳なかった」
「いや、謝らなくていいよ。理由は何となく分かっていたしな」
イザナが謝ると、ゼロは直ぐに答えた。
私もゼロに同意するように、首を小さく縦に振った。
「二人共、気遣い感謝するよ。ありがとう。私の知り得ている情報を出来る限り話すから、ルナも気になることがあれば遠慮なくその都度質問してくれていいよ」
「うん、わかった」
イザナは私の方を見て優しい表情で答えた後、引き締まった顔に戻して表面を向いた。
彼の今の表情を見て、私はひしひしと湧き上がる緊張感に顔を強張らせた。
「まずは、私が今動いている理由から話させてもらおうかな。ゼロは知っている内容も含まれているとは思うけど、もう一度聞いて欲しい」
「ああ、問題ない」
ゼロが頷くと、落ち着いた口調でイザナはゆっくりと話し始めた。
「私が今回旅に出たのにはある目的がある。ルナの傍にいたいと言うのが前提にはあるけど、継承権を弟に譲る際に父上からある条件を出されたんだ。それはこの国を出てルナと旅をしながら、世界の情勢を国に伝えるというもの。そして不穏な動きをしている、ダクネス法国の動向を探ること。私は王子という立場上、何かと動きやすいからね」
「それって、国王陛下はイザナの事を利用してるってことだよね」
私はその話を聞いて、胸の奥がもやもやとしてしまい思わず口に出してしまった。
利用出来るものはなんでも利用するという国の考え方に、私は納得なんて出来なかった。
イザナは国王の実の息子だというのに、そんな危険な場所に向かわせるなんて親としてどうなのだろうと思ってしまう。
「考え方によってはそうだね。だけど、これは王子としての務めでもあるんだよ。王族として、国の頂点に立つ人間として、民を守らなくてはならない。事前に危険を察知できれば、回避する方法も見つかるからね」
「それはそうだけど……でもっ」
「ルナは私のことを心配してくれているんだね。私の妻は優しいな」
「……っ」
イザナは私のことを微笑ましく見つめながら、膝に置いてある私の手に掌を重ねてきた。
私はその態度に戸惑い、慌てて手をどかせようとすると、今度はぎゅっと握られてしまう。
ゼロはやれやれと言った感じの態度を見せているが、何度もこの光景を目にしているせいか大人しくしていた。
(目の前にゼロがいるのに……!)
私は必死に離すように目で訴えるが、イザナは私の手を握りしめたまま、気にすることなく話を続けていく。
「だけど悪いことだけではないよ。王宮にいた頃は執務に追われたり、周りの目があってあまりルナに近付くことも叶わなかったからね。こんな風に人前でルナに触れられるも、ずっと傍にいられるのも中々出来なかったことだよ。だから私は今の立場に満足している」
「……っ」
イザナにはゼロの存在が見えていないのだろうか。
二人きりの時に言われても照れてしまいそうなことを、彼は恥じることなく平然と言って来る。
(う、嬉しいけど、今はそんなこと言わないでっ!)
私は困った顔でゼロに助け舟を求めるように視線を送った。
しかしゼロは私と目があると、しれっと視線を逸らした。
「ルナ、今は私と話しているのだから、顔はこっちだよ」
「……もうっ、今はそんな話をする時じゃないよっ!」
私は我慢出来なくなり、思わず叫んでしまった。
するとイザナは「たしかにそうだな」と納得したように呟いた。
そして私の耳元で「ごめんね」と小さく謝ってきた。
謝ってくれたことは嬉しかったが、彼の吐息が耳元にかかり、私はビクッと体を小さく跳ね上げてしまった。
ムッとした顔でイザナの事を睨みつけると、イザナはまだ微笑んだままだった。
チラッとゼロの方に視線を再び戻すと、またか……とでも言ったような顔付きで明らかに呆れている様子に見えた。
(もう、やだ……。なんでいつもこんなことになるの……)
恥ずかしいのはいつだって私だけだ。
イザナは周りを気にしなさ過ぎると、今度盛大に文句を言おうと心に決めた。
「話が逸れてしまったけど、続けるよ。ダクネス法国について二人がどれくらいまで知っているのかは分からないけど、私が知る限りかなり危険な国だ。恐らく、あの国は良くないことを行おうとしている。少し昔話になるけど、二人は700年程前に起きた、大災厄についての話を知っているかな?」
「あー、あれだろ? 五つの災厄に世界が飲み込まれて、暗黒時代に入ったって話だよな?」
突然昔話になり私は困惑していたが、ゼロは僅かに眉を寄せながら思い出すように呟いた。
私はその話についてはあまり良くは知らない。
だから、これからイザナが話すことをしっかりと聞くことにした。
「そう、禁忌に触れることで五つの災厄が同時に発生して、世界は数日で暗黒時代へと変わってしまったという話だね。ルナは詳しくは知らないかな?」
「でも、その話って架空の話じゃないの? おとぎ話的な……」
「ほとんどの者達は創作された話だと思っているだろうね。だけどそれは紛れもなく実際に起こった事なんだ」
「嘘だろ……。それじゃ一度世界は終焉を迎えたってことか?」
その話を聞いて私も驚いていたが、ゼロも同様な態度を見せていた。
「まあ、最後まで聞いて。過去の記述によれば、あの事件が起こった後、勇者に力を借りて一部の者を除き、全世界の民の記憶を書き換えたんだ。大災厄が起こってからの記憶を、ね」
「「…………」」
衝撃的な言葉に私は思わず息を呑み込んだ。
「その理由だけど、この大災厄で多く者が犠牲となった。残された者達はその悲しみ中で生きて行かなければならない。そんな者達の心を救いたかったという勇者側の願いと、人々の記憶の中にこの事件の記憶が残れば、話は後世にまで受け継がれるはずだ。そうなれば、いつかまた同じことを繰り返す者が現れるかもしれない。その僅かな可能性を排除するために、このような対応を取ったと書かれている」
私はなんて答えたら良いのか分からず、表情を歪めることしか出来ない。
そしてイザナは話を続ける。
「その中で選ばれた者。さっき言った、一部の者達のことだね。主に国の頂点に立つ王や皇帝などが集まり、人々の記憶を消すことを決めたんだよ。取り決めた者達のみに記憶を残して、ね。そしてその真実は、国王になる者にのみ伝承させていくと取り決めた。私がこの話を聞かされたのは、ルナと出会う少し前だったかな」
今の聞いて、直ぐには言葉が出て来なかった。
私達が封印したのは、恐らくその中の一つに過ぎないのだろう。
五つも同時に現れるなんて、話を大きくしただけの作り話だと思っていた。
実際に一つの災厄を封印したら、穢れは消えて平和が戻ったのだから。
だけどこんな嘘をイザナが言うとは到底思えない。
もしこれが本当だとしたら、私はまた聖女として戦わなければならないのだろうか。
それで世界を救えるのならいいが、五つの災厄を相手にする自信が私には無い。
一つでもギリギリな戦闘を強いられていた時もあった。
それが五つも同時に起こるなんて、正直無理だと思ってしまった。
私は恐怖心を覚えて体を小さく震わせていた。
「だけど、伝奇として人々に浸透してるってことは、誰かがその情報を漏らしたってことだよな?」
「それなんだけど、勇者の術にかからなかった者達が一部存在していたようなんだ。その者達は同じ過ちを繰り返さないようにと、後世に伝えていったんじゃないかな」
「それってなんだか皮肉だな。本来の逆をいってるじゃん」
「そうだね。願いは一緒なのに……。だけど、詳細を知っているのは王族の一部の人間のみだよ。どうしてその様なことが起きたのか。そして、封印の方法についてもね。だけどこのことは二人には話せないんだ、ごめん……」
今の話を聞いていれば、イザナが言えないことも納得出来る。
それに、そんな話は聞きたく無いというのが正直な感想だ。
今聞いた話でさえ怖くて震えてしまっているのに、これ以上深入りなんてしたくない。
出来れば関わりたくないと私は思っていた。
「だけど、今の話が本当だとしたらダクネス法国の人間が知っているってのはおかしくないか?」
「そこなんだよな。ダクネス法国は700年前は存在すらしてなかったからね。あの国の歴史は浅い。魔術師達が建国して、今年でまだ200年と言ったところか」
(魔術師達が作った国……?)
二人は何やら話し合っているが、私は初めて聞く事ばかりで会話に入れなかった。
「なあ、その話をするって事はさ、ダクネス法国はあの大災厄を再び起こそうとしているってことか?」
「……っ!!」
ゼロの言葉に私はびくっと体を震わせた。
イザナはその言葉を聞いて僅かに目を細めた。
「今は可能性があるとしか言えないな。ソフィアの話だと、この魔法都市ジースにダクネス法国の人間が身分を偽り研究員として入り込んでいるとのことだ。ここには禁忌に触れる魔術書などもいくつか保管されているから、恐らくそれが狙いなのだろうと」
「……こんな言い方はしたくはないけどさ。ソフィアは信頼出来るのか? あっち側の人間だろ?」
ゼロは少し言いにくそうに告げると、私もイザナの方に視線を向けた。
(ソフィアさんってイザナの知り合いだけど、一応敵側の人間になるんだよね。イザナが考え無しに動いているとは思えないし、何か思惑があるのかな)
「鋭いな。私はソフィアのことは端から信じてはいないよ。寧ろ、私達を欺くために動いていると踏んでいるからね。グレイスラビリンスで会ったのも偶然では無いと思ってる」
「「………!」」
私とゼロはその言葉を聞いて驚きの顔を見せた。
「大人しく騙されていると見せかけた方が何かと動きやすいからね。あちら側の動向も探れるし」
イザナは僅かに口端を上げた。
「でもっ、そんな事をしてイザナは危険じゃないの?」
私が心配そうな顔を向けて問いかけると、イザナは小さく微笑んだ。
「少しリスクはあるかもしれないけど、私はこれでも一応はベルヴァルト国の王子だよ。簡単には手出しはしてこないと思う。我が国と敵対することは望んではいないと思うからね」
人目を気にすることなく、落ち着いて話せる場所と言えば、やはりここが一番なはずだ。
私はイザナの隣に座り、ゼロは私達と対面するようにソファーに腰掛けた。
「今回は急なことで二人には詳細を話せず、結果的に心配をかけてしまったね。本当に申し訳なかった」
「いや、謝らなくていいよ。理由は何となく分かっていたしな」
イザナが謝ると、ゼロは直ぐに答えた。
私もゼロに同意するように、首を小さく縦に振った。
「二人共、気遣い感謝するよ。ありがとう。私の知り得ている情報を出来る限り話すから、ルナも気になることがあれば遠慮なくその都度質問してくれていいよ」
「うん、わかった」
イザナは私の方を見て優しい表情で答えた後、引き締まった顔に戻して表面を向いた。
彼の今の表情を見て、私はひしひしと湧き上がる緊張感に顔を強張らせた。
「まずは、私が今動いている理由から話させてもらおうかな。ゼロは知っている内容も含まれているとは思うけど、もう一度聞いて欲しい」
「ああ、問題ない」
ゼロが頷くと、落ち着いた口調でイザナはゆっくりと話し始めた。
「私が今回旅に出たのにはある目的がある。ルナの傍にいたいと言うのが前提にはあるけど、継承権を弟に譲る際に父上からある条件を出されたんだ。それはこの国を出てルナと旅をしながら、世界の情勢を国に伝えるというもの。そして不穏な動きをしている、ダクネス法国の動向を探ること。私は王子という立場上、何かと動きやすいからね」
「それって、国王陛下はイザナの事を利用してるってことだよね」
私はその話を聞いて、胸の奥がもやもやとしてしまい思わず口に出してしまった。
利用出来るものはなんでも利用するという国の考え方に、私は納得なんて出来なかった。
イザナは国王の実の息子だというのに、そんな危険な場所に向かわせるなんて親としてどうなのだろうと思ってしまう。
「考え方によってはそうだね。だけど、これは王子としての務めでもあるんだよ。王族として、国の頂点に立つ人間として、民を守らなくてはならない。事前に危険を察知できれば、回避する方法も見つかるからね」
「それはそうだけど……でもっ」
「ルナは私のことを心配してくれているんだね。私の妻は優しいな」
「……っ」
イザナは私のことを微笑ましく見つめながら、膝に置いてある私の手に掌を重ねてきた。
私はその態度に戸惑い、慌てて手をどかせようとすると、今度はぎゅっと握られてしまう。
ゼロはやれやれと言った感じの態度を見せているが、何度もこの光景を目にしているせいか大人しくしていた。
(目の前にゼロがいるのに……!)
私は必死に離すように目で訴えるが、イザナは私の手を握りしめたまま、気にすることなく話を続けていく。
「だけど悪いことだけではないよ。王宮にいた頃は執務に追われたり、周りの目があってあまりルナに近付くことも叶わなかったからね。こんな風に人前でルナに触れられるも、ずっと傍にいられるのも中々出来なかったことだよ。だから私は今の立場に満足している」
「……っ」
イザナにはゼロの存在が見えていないのだろうか。
二人きりの時に言われても照れてしまいそうなことを、彼は恥じることなく平然と言って来る。
(う、嬉しいけど、今はそんなこと言わないでっ!)
私は困った顔でゼロに助け舟を求めるように視線を送った。
しかしゼロは私と目があると、しれっと視線を逸らした。
「ルナ、今は私と話しているのだから、顔はこっちだよ」
「……もうっ、今はそんな話をする時じゃないよっ!」
私は我慢出来なくなり、思わず叫んでしまった。
するとイザナは「たしかにそうだな」と納得したように呟いた。
そして私の耳元で「ごめんね」と小さく謝ってきた。
謝ってくれたことは嬉しかったが、彼の吐息が耳元にかかり、私はビクッと体を小さく跳ね上げてしまった。
ムッとした顔でイザナの事を睨みつけると、イザナはまだ微笑んだままだった。
チラッとゼロの方に視線を再び戻すと、またか……とでも言ったような顔付きで明らかに呆れている様子に見えた。
(もう、やだ……。なんでいつもこんなことになるの……)
恥ずかしいのはいつだって私だけだ。
イザナは周りを気にしなさ過ぎると、今度盛大に文句を言おうと心に決めた。
「話が逸れてしまったけど、続けるよ。ダクネス法国について二人がどれくらいまで知っているのかは分からないけど、私が知る限りかなり危険な国だ。恐らく、あの国は良くないことを行おうとしている。少し昔話になるけど、二人は700年程前に起きた、大災厄についての話を知っているかな?」
「あー、あれだろ? 五つの災厄に世界が飲み込まれて、暗黒時代に入ったって話だよな?」
突然昔話になり私は困惑していたが、ゼロは僅かに眉を寄せながら思い出すように呟いた。
私はその話についてはあまり良くは知らない。
だから、これからイザナが話すことをしっかりと聞くことにした。
「そう、禁忌に触れることで五つの災厄が同時に発生して、世界は数日で暗黒時代へと変わってしまったという話だね。ルナは詳しくは知らないかな?」
「でも、その話って架空の話じゃないの? おとぎ話的な……」
「ほとんどの者達は創作された話だと思っているだろうね。だけどそれは紛れもなく実際に起こった事なんだ」
「嘘だろ……。それじゃ一度世界は終焉を迎えたってことか?」
その話を聞いて私も驚いていたが、ゼロも同様な態度を見せていた。
「まあ、最後まで聞いて。過去の記述によれば、あの事件が起こった後、勇者に力を借りて一部の者を除き、全世界の民の記憶を書き換えたんだ。大災厄が起こってからの記憶を、ね」
「「…………」」
衝撃的な言葉に私は思わず息を呑み込んだ。
「その理由だけど、この大災厄で多く者が犠牲となった。残された者達はその悲しみ中で生きて行かなければならない。そんな者達の心を救いたかったという勇者側の願いと、人々の記憶の中にこの事件の記憶が残れば、話は後世にまで受け継がれるはずだ。そうなれば、いつかまた同じことを繰り返す者が現れるかもしれない。その僅かな可能性を排除するために、このような対応を取ったと書かれている」
私はなんて答えたら良いのか分からず、表情を歪めることしか出来ない。
そしてイザナは話を続ける。
「その中で選ばれた者。さっき言った、一部の者達のことだね。主に国の頂点に立つ王や皇帝などが集まり、人々の記憶を消すことを決めたんだよ。取り決めた者達のみに記憶を残して、ね。そしてその真実は、国王になる者にのみ伝承させていくと取り決めた。私がこの話を聞かされたのは、ルナと出会う少し前だったかな」
今の聞いて、直ぐには言葉が出て来なかった。
私達が封印したのは、恐らくその中の一つに過ぎないのだろう。
五つも同時に現れるなんて、話を大きくしただけの作り話だと思っていた。
実際に一つの災厄を封印したら、穢れは消えて平和が戻ったのだから。
だけどこんな嘘をイザナが言うとは到底思えない。
もしこれが本当だとしたら、私はまた聖女として戦わなければならないのだろうか。
それで世界を救えるのならいいが、五つの災厄を相手にする自信が私には無い。
一つでもギリギリな戦闘を強いられていた時もあった。
それが五つも同時に起こるなんて、正直無理だと思ってしまった。
私は恐怖心を覚えて体を小さく震わせていた。
「だけど、伝奇として人々に浸透してるってことは、誰かがその情報を漏らしたってことだよな?」
「それなんだけど、勇者の術にかからなかった者達が一部存在していたようなんだ。その者達は同じ過ちを繰り返さないようにと、後世に伝えていったんじゃないかな」
「それってなんだか皮肉だな。本来の逆をいってるじゃん」
「そうだね。願いは一緒なのに……。だけど、詳細を知っているのは王族の一部の人間のみだよ。どうしてその様なことが起きたのか。そして、封印の方法についてもね。だけどこのことは二人には話せないんだ、ごめん……」
今の話を聞いていれば、イザナが言えないことも納得出来る。
それに、そんな話は聞きたく無いというのが正直な感想だ。
今聞いた話でさえ怖くて震えてしまっているのに、これ以上深入りなんてしたくない。
出来れば関わりたくないと私は思っていた。
「だけど、今の話が本当だとしたらダクネス法国の人間が知っているってのはおかしくないか?」
「そこなんだよな。ダクネス法国は700年前は存在すらしてなかったからね。あの国の歴史は浅い。魔術師達が建国して、今年でまだ200年と言ったところか」
(魔術師達が作った国……?)
二人は何やら話し合っているが、私は初めて聞く事ばかりで会話に入れなかった。
「なあ、その話をするって事はさ、ダクネス法国はあの大災厄を再び起こそうとしているってことか?」
「……っ!!」
ゼロの言葉に私はびくっと体を震わせた。
イザナはその言葉を聞いて僅かに目を細めた。
「今は可能性があるとしか言えないな。ソフィアの話だと、この魔法都市ジースにダクネス法国の人間が身分を偽り研究員として入り込んでいるとのことだ。ここには禁忌に触れる魔術書などもいくつか保管されているから、恐らくそれが狙いなのだろうと」
「……こんな言い方はしたくはないけどさ。ソフィアは信頼出来るのか? あっち側の人間だろ?」
ゼロは少し言いにくそうに告げると、私もイザナの方に視線を向けた。
(ソフィアさんってイザナの知り合いだけど、一応敵側の人間になるんだよね。イザナが考え無しに動いているとは思えないし、何か思惑があるのかな)
「鋭いな。私はソフィアのことは端から信じてはいないよ。寧ろ、私達を欺くために動いていると踏んでいるからね。グレイスラビリンスで会ったのも偶然では無いと思ってる」
「「………!」」
私とゼロはその言葉を聞いて驚きの顔を見せた。
「大人しく騙されていると見せかけた方が何かと動きやすいからね。あちら側の動向も探れるし」
イザナは僅かに口端を上げた。
「でもっ、そんな事をしてイザナは危険じゃないの?」
私が心配そうな顔を向けて問いかけると、イザナは小さく微笑んだ。
「少しリスクはあるかもしれないけど、私はこれでも一応はベルヴァルト国の王子だよ。簡単には手出しはしてこないと思う。我が国と敵対することは望んではいないと思うからね」
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