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第一章:聖女から冒険者へ

39.会いに行く④

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「あ、イザ……」
「イザナ、待たせてしまってごめんなさい。あら? ルナさん? どうしてここに……」

 私が笑顔でイザナに呼びかけようとすると、奥の扉からソフィアが出て来た。
 彼女の姿を捉えると、複雑な気持ちになり私は表情を曇らせた。

(もしかして、今までずっとソフィアさんと一緒だったのかな……)

 そんなことを考えてしまうと、胸の奥がざわつき、締め付けられるように苦しくなった。
 私が一人で悩んでいる間に、イザナはゆっくりとこちらに近付いて来て、気付けば目の前に立っていた。

「ルナ、どうしてここに? 風邪はもう平気なのか?」
「えっと、あのっ……。イザナが帰って来ないのが心配で、ゼロと一緒に探しに来たの。熱はもう下がったから大丈夫だよ」

 イザナはいつも通りの穏やかな口調で話していたが、心配そうに私の顔を覗き込んで来た。
 そして伸ばした掌を私の額にそっと当て、本当に熱が下がっているのか確認される。
 突然イザナに触れられ、私は恥ずかしくなり顔の奥が火照っていくのを感じていた。

「思った以上に時間がかかってしまって、昨日は帰れなくてごめん。熱は一応下がってそうだけど、まだ病み上がりなんだし、あまり無理をしない方がいい」
「うん。心配してくれて、ありがとう」

 私は無事にイザナに会えて、その姿を確認出来たことに嬉しくなり、自然と笑みが零れてしまう。
 イザナは私の横にいるフィルに気付くと、視線を彼の方へと移した。

「この人はフィルだよっ! イザナを探していたら偶然出会って……。探すのを手伝ってくれたんだ。魔法でイザナのいる場所を教えてくれたんだよ。すごいよねっ!」

 私が慌てて説明すると、彼を見つめるイザナの瞳は僅かに細まった。

「そうだったのか。妻が世話になったな。ありがとう、感謝する」
「妻……? ……って、ルナって既婚者だったのかよ!?」

 フィルは相当驚いている様子だった。
 その理由は何となく分かるが、私は少し複雑な気持ちになってしまった。

「うん、一応ね」

 私はヘラっと苦笑にも似た笑みを浮かべて答えた。

「まあでも、無事見つかったみたいだし、俺はそろそろ戻るわ。まだ探し物の途中だったからな」
「付き合わせちゃって、ごめんなさいっ」

「いや、全然。急ぎの用事ってわけでも無かったからな。ってことで謝る必要なんてないから。ルナの探し人、見つかって良かったな」
「うん! フィルのおかげだよ。今度会ったら何かお礼するね。本当にありがとうっ!」

 私がそう言うと、フィルは悪戯っぽく笑い「それじゃあ、次会えることを楽しみにしてるな」と答え、転送装置に乗って姿を消した。

(初めて会った人だけど、親切な人に出会えて良かった)

「ルナ、今の男だけど……」
「うん?」

「もしかして、フィル・バーレという名ではないか?」
「え? 私はフィルとしか聞いてないから、それはちょっと分からないかも」

 彼とはつい先程出会ったばかりなので、フルネームは当然分からない。
 だけど、イザナは彼の事を知っている様な口ぶりだった。
 
(もしかして、知り合い? だけど、そんな雰囲気には見えなかったけどな……)

「フィル・バーレ……。あの赤い髪からして間違いなさそうね」

 その話を横で聞いていたソフィアがぼそりと呟く。

「ああ、恐らくな」
「……二人とも、フィルのことを知っているの?」

 私は首を傾げ、不思議そうな顔をしながら問いかけた。

「彼は名の知れた、有名な魔術師だよ」
「そういえば、魔術師だって言ってた。フィルってそんなに有名人だったんだ。すごく良い人だったよ!
初めて会った私に色々と親切にしてくれたし……」

 私が思い出すように楽しそうに話していると、突然イザナに手を握られた。

(……っ!?)

「ソフィア、悪い。私はこのままルナを連れて帰るよ。ルナはまだ病み上がりで心配だからね」
「そう……、分かったわ。何か新たに分かった事があれば連絡するわね。ルナさん、お大事にね」

 私は慌ててソフィアにぺこっと頭を下げると、イザナに引っ張られる様に歩き出した。
 突然のことに私は少し動揺していた。

「イザナ? 転送装置ってそっちじゃないよ?」
「こっちで合ってるよ。その奥にあるのは簡易式装置になるから、病み上がりのルナには負荷が強すぎると思うからね。この奥にもあるから、そっちに乗ろうか」

「うん、ありがとう。イザナ、もしかして……怒ってる? 私が勝手にここに来ちゃったから」
「怒ってないよ。それよりも、謝るのは私の方だよ。風邪で心細いルナを置いて出て行ってしまったのだからね。本当にごめん」

 イザナが突然謝って来たので、私は慌てるように首を横に振った。
 確かに彼がいなくて心細くて心配もしたけど、きっとイザナにも何か事情があったに違いない。
 彼が特に理由なく行動するとは到底思えなかったからだ。

 そして、私は周りに誰もいないのを確認すると、ぎゅうっとイザナの胸に抱き着いた。

(ちょっとだけ……。イザナを充電してもいいよね。誰もいないのは確認したし)

 体を寄せ合っていると彼の温もりをはっきりと感じることが出来て、私は安心感に包まれていく。
 たった一晩会わなかっただけで、こんなにも不安になってしまう自分が情けない。
 だけど、言い返せばそれくらい彼の事が好きなんだろう。
 もう絶対に手放したくない。
 私はそう強く思っていた。

(イザナ、大好き……)

「どうしたの? こんな所でルナから抱き着いて来るなんて珍しいな。そんなに寂しい思いをさせてしまったかな」
「ううんっ、もう大丈夫だよっ!」

 私は名残惜しさを感じながらも、誰か来たらどうしようと焦る気持ちにそわそわして直ぐにイザナから離れた。

(少し恥ずかしかったけど、イザナの温もりを感じられて安心出来た。帰ったら、沢山イザナに触りたいな……)

 そんな事を考えているとなんだかドキドキして来て、また触りたくなってきてしまう。

「ふふっ、自分から抱き着いて来て照れるなんて、本当にルナは可愛いね」
「……っ!?」

 イザナはクスッと小さく笑うと、私の額にそっと口付けた。
 その感覚をはっきり感じ取ると、私の頬は簡単に熱に包まれていく。

「昨日は寂しい思いをさせてしまった分、今日はずっと傍にいるよ」
「……うん」

 私はその言葉を聞いて、少し照れた様に、そしてどこか嬉しそうに小さく頷いた。

「それから……、ゼロと合流したら、今回どうして私がここに来たのか、その理由もちゃんと説明するよ」
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